第34話 家族だろうとブッ⚫す!?
「なぜ……このようなことに………」
薄暗い通路を、
「
「ともあれ……うっ!?」
通路の先に1つの人影が見え足を止める湖乃羽。
「まさか……そのようなこと……」
行く手をさえぎるように
「
湖乃羽が少女へ強烈な水流を放つ──と、少女が炎に変じ水流と激突、炎も水流も消滅し通路が大量の水蒸気に満たされる。
「くっ……!」
やがて水蒸気が晴れ裾の陰から目を出すと……薄暗い無人の通路だけが見えた。
「い…今のは、一体………」
元から無人だったように静かな通路を前に、湖乃羽は茫然とつぶやく……直後、
「なっ!?」
通路の壁を破り〝異形〟の怪物が現れた。
真っ黒な体の上半身は丸々と太った人間、下半身は壁から長く伸びるヘビのようになった〝異形〟が。
「ま…また、まやかしにござりまするか──ひぃっ!?」
〝異形〟が吐いた炎に焼かれそうになり、その熱に今度の怪物は実体だと悟る。
「……おのれ!」
上半身が息子の姿の怪物へ戸惑いつつも強烈な水流を放ち、女は〝異形〟をしりぞけた……が、
「一体……何が……!?」
次々と通路の壁を破って続々と〝異形〟が現れ、炎を吐いて襲ってくる。
女は艶めいた美貌を苦渋に歪めつつ〝異形〟たちを水流で
「うっ……!?」
大きな
そして1つ1つに〝異形〟が収められた培養ポッドの
「は…母上………」
「
ポッドの中の右腕が無い丸々と太った
「久方ぶりでございますね、湖乃羽さん」
その時、大型ポッドの影から1人の女が現れた。
夜闇のような黒髪と月のように
その純白の和服をまとう
「姉上……!」
30代なかばの妹が20代前半の姉の登場に息をのむ……が、
「……やはり、〝石化の
驚きが収まると、妹は目元を険しくして姉をにらむ。
姉は10年以上も全身が石になり、
だが、今の白い和服に包まれる身はどこも不自由なく動き、顔も
「その通りなのでございますよ♪」
姉は儚げな美貌に満月のごとく風雅な笑みをほころばせ、
「〝
「なぜ、そのようなことを……そのことが、どれほど御屋形様を苦しめたか……!」
正室となる女を
「1つめの理由は、弥麻杜殿の毒牙から
沙久夜は悪びれず笑顔で、
「都牟刈の家に〝
「勝手なことを……!」
深々と溜め息する姉に妹は眉をつり上げ、
「その力が、どれほど
「身共とて代われるならば代わって差し上げたかったのでございますよ。双子の姉妹として生を受けながら、ほんのわずか先に生まれただけで、望みもしない力を得てしまったのでございますから……」
苦悩するように
「まあ、それも彼に出逢うまでの話だったのでございますけどね♪」
一転、
「かの〝
熱に浮かされるような口ぶりで、
「この世に生まれるや家族も一族も失い、唯一残った妹とも引き離され、不遇の時を強いられてきた幼い彼の姿に、身共は悲嘆する自分を重ねると共に……胸の奥を締め付けられるような
それは、愛を
「
あるいは、愛に
「今となっては〝瀬織津の巫女〟として生まれたことに感謝しているのでございますよ。この力があったればこそ、彼と添い遂げることが叶うのでございますからね」
はたまた、愛に
「まあ身共が
儚げな美貌に浮かぶ風雅な苦笑に、なぜか妹は
「く…口さがない者たちの陰口を
「身共も心苦しかったのでございますよ……形だけとは言え、身共が他の殿方に嫁いだことで彼も胸を痛めたかと思うと………」
儚げな美貌が沈痛に曇る……
「なれど、苦難を乗り越えてこそ愛は深まるのでございます♪」
一転して晴れやかに笑む姉に、妹は怒りと……得体の知れぬ恐怖に声を震わせ、
「……それが、自らを石と
「はい♪ 身共と彼は歳が大きく離れていたことも、苦難の1つでございましたからね。それらの苦難を乗り越えるため、この身を石と化して操を守ると共に、若さをも保ったのでございますよ♪」
20代前半の美貌をきらめかせ、
「彼も
「欲を言えば彼の歳が身共に並ぶまで待ちたかったのございますが、5つほどの歳の差なら愛で乗り越えられるのでございますよ♡ 歳上の女房は
純白の和服──〝
「ああ、なれど
あふれんばかりの喜びを狂わんばかりに全身に咲かせた。
「……ふざ……けるな……!」
そのとき大型の培養ポッドから声がもれ、地下空洞にならぶポッドから複数の〝異形〟が飛び出し沙久夜に襲いかかる……が、標的に触れる寸前、〝異形〟たちは石となって砕けてしまった。
「無理はなさらぬが良うございますよ、太華琉さん」
沙久夜が
「〝里〟に大量の複製体を生み出すのに協力していただき、お疲れでございましょう。あなたには
「我が子から離れるのでござりまする!!」
妹が姉へ強烈な水流を放つも、姉の放った強烈な光で一瞬にして蒸発した。
「お忘れでございますか、湖乃羽さん。あなたが〝
「くっ……太華琉さんの複製体を利用して、何をする気でござりまするか……!?」
あとずさるのを必死に
「無論、〝儀式〟ニよリ〝瀬織津〟ヲ復活サせるノでスよ」
サッカーボール大の球体車輪を付けた一輪車のような車イスに座る少女が、地下空洞に現れた。
「あなたは──」
「〝カメレオン〟さん、お疲れ様でございます」
声を
「な…なぜ、姉上がこの方を……ミズシロ財団の
「財団と
「種明かしスるト、〝参謀閣下〟は2人ノ〝協力者〟を競ワせたノでスよ。
妹が絶句する中、姉は少女の声にうなずき、
「〝カメレオン〟さんがここにいらしたのならば、〝儀式〟の準備は整ったのでございますね。こちらも準備万端なのでございます」
「ソうナのでスが……あナたダけデすか? 〝
「先ほどまで、いらしたのでございます。なれど『気になる術式の波動を感じるのである』と申されて、いずこかへ行かれてしまったのでございますよ」
周りを見回す〝カメレオン〟に沙久夜が肩をすくめる。と、湖乃羽が不安を振り払おうとするように、
「答えるのでござりまする! 我が子の複製体で何をする気でござりまするか!?」
「何をすると申されても、そもそも異星の方に複製体の
「このような〝異形〟の複製体なぞ身共は作っていないのでござりまする!!」
首をかしげる姉に妹が……否、母が不安を怒りで押し込めて叫んだ。
「確かに、あなたが作った複製体は南米へ送ったものを始め〝原典〟に忠実なものでございましたね。とは申せ……」
沙久夜は大型ポッド内の〝原典〟を見やりつつ、
「記憶を複写されたのは南米へ送った1体のみでございましたから、複製体の
「……!?」
「
先ほど屋形に現れたクローンを思い出し渋面する湖乃羽だったが、淡々と話す沙久夜が〝原典〟の胸元へ向けた視線を追うと……
「その
太華琉のはだけた
「はい。この欠片から注いだ〝瀬織津〟の力に加え、〝もう1つ〟の力を源に新たな複製体を大量に作ったのでございます……なれど、それらの個体は
溜め息する沙久夜の声に湖乃羽は息をのみ、
「……やはり、あの下半身は〝瀬織津〟の……〝竜〟の影響で……!」
「見タ目だケだと、〝竜〟トいうヨり〝ヘビ〟でスけどネ」
「他にも新たな複製体は炎を操る力を持つのでございますが、これは〝もう1つ〟の力の影響と察するのでございます」
黒くなったクローンは、個々は口から炎を吐き、〝里〟で巨大化した物は全身からも炎を放っていた。
「予定では財団が用意してくださる力を使うところを、太華琉さんに〝もう1つ〟の
「途轍もない力……?」
「左様にございます。数日前、太華琉さんは火焚凪さんから刀を奪おうとして右腕を失われたのでございますが……」
眉をしかめる湖乃羽に沙久夜は重々しい声で、
「その際に右腕を燃やした炎から小さな火の
重々しい声を
「あの力こそは、まさしく……!」
「〝参謀閣下〟ノ言わレた通リなのデす……!」
沙久夜と〝カメレオン〟が緊張に
「くだらぬ茶番を! ともかく太華琉さんを解放するのでござりまする!!」
「太華琉さんを解放させて……また彼や火焚凪さんに
姉も妹をにらみ返し、
「あなたも分かっているのでございましょう。太華琉さんの……いえ、草薙や都牟刈の〝血〟では、八重垣の〝血〟には抗えないと」
「な…何の
「証ならば、ここにあるのでございますよ」
沙久夜は大型ポッド内の少年を見て、
「〝瀬織津〟の力をわずかに注いだだけで太華琉さんは……草薙と都牟刈の直系の血を引く者は、これほどに濁ってしまったのでございます」
クローン同様に肌を黒くしている少年を、次いでその胸で輝く紫の欠片を見つめ、
「
「で…では……幼少の
目をむく妹に姉は満面の笑顔で、
「左様にございます。彼は〝瀬織津〟の……大いなる〝
「……〝試祖〟? 〝遺産〟? 何のことにござりまするか?」
「………は?」
沙久夜がホームランを確信しながら
「……
「私モ聞いテいなイのデすガ……」
「……………は?」
〝カメレオン〟からも疑問の声をかけられ沙久夜が固まる……が、
「なれば、〝時〟が来れば
ひとつ息をつくと、悟りを開いた聖者のような穏やかな顔になり、
「今はまだ知らなくて良い、あるいは知らない方が良いとの御判断なのでございましょう。そう……触れない方が良いことに無理に触れても、
穏やかながら、
「それは〝力〟についても同じなのでございます。過ぎた〝力〟は持ち主に厄をもたらすのみ……〝瀬織津〟の力を注がれた太華琉さんが黒く濁り、その複製体が異形と化したように………」
「お…己で
「痛い所を突かれてしまったのでございますね。なれど……」
憤慨する妹に、姉は母性あふれる笑みを浮かべ、
「同様の〝力〟を注いだ彼には、
「……っ!?」
「母として息子の……大切な人の願いを叶えんとする思いは分かるのでございます。身共も彼のためならば、あらゆる労を惜しまないのでございますから。なれど……」
息をのむ妹に姉は優しく
「本当に大切な人を思うならば、
「……
「半分は本音のようでございますね……」
瞳を怒りに燃やす妹に姉は小さく溜め息し、
「あなたは幼いころから、とても〝
さらに瞳を燃やす妹に姉は淡々と、
「そんなあなたにとって、〝瀬織津の巫女〟や〝里〟の当主の正室の座は
ぐっと言葉に詰まる妹に、姉は慈愛あふれる笑みを浮かべ、
「それを
慈愛の笑みが
「なれど、あなたは気づいてしまったのでございますよね。どれほどに〝里〟を
再び淡々とした口ぶりで、
「あなたはミズシロ財団を始めとして地球政府や純人教団、果ては太陽系ドミネイド帝国にまで接触したのでございますよね……〝瀬織津〟を売り渡し、未来ある大きな世界での栄光を得るために……」
瞳から感情を消し、
「大切な人を……弥麻杜殿や太華琉さんを
大型ポッド内の少年がピクリと震えた……が、母は気づかず、
「ど…どの口で申すのでござりまするか!?
「どうせなら〝魔女〟ではなく〝美魔女〟と申してほしいのでございますよ♪」
妹の
「それに財団に
「……!?」
絶句して目をむく湖乃羽……だったが、
「……左様にして姉上は、身共の
「幼少の
長年の
「
積年の無念を噛みしめるように、
「身共の欲して
「奪うのみの姉上には分からぬのでござりましょう! 奪われる者の鬱屈が! 無念が! 屈辱が! そして……絶望が!!」
魂を削るような悲痛な叫び。
「周りに己を誇示したこととて、否定された身共の価値を知らしめんとする精一杯の主張だったのでござりまする!!」
「ならば、あなたの努力は実を結んだのでございますよ。主張の
鬼気せまる剣幕の妹に姉は
「
底なし沼で
「
「……ならば、財団以外に
顔を歪める妹に姉は顔を曇らせつつ、
「〝純人教団〟は力ずくで〝瀬織津〟を奪いにきたのを見るに、
「くっ……!」
妹が
「
髪を振り乱し
「世界最大の誤りにして悲劇……それが〝草薙の里〟がごとき
沙久夜と〝カメレオン〟が『ん?』と首をかしげた。
「身共が支配してこそ
広い地下空洞が
「〝見栄っ張リ〟でモ〝身代わリ〟でもナく、〝身ノほド知らズ〟だっタのデす」
やがて、車イスの少女があきれ果て、
「栄達を望むのは……野心を
姉も苦笑気味に笑みつつ、
「野心もまた、人を進歩させる源と
「〝器〟以上ノ野心は、身ヲ滅ぼスのデすヨ〝身のホど知ラず〟」
〝カメレオン〟が深々と溜め息して、
「〝参謀閣下〟モそレが分カったカら早々に妹ニ見切りヲつケ、姉を引キ立てたンでスよ」
「み…身共が姉上に
「優劣の問題ではなく、身共はあなたより知っていただけなのでございますよ……」
怒りと焦りに取り乱す妹に、姉は再び優しく諭すように、
「人を最も進歩させるのは野心でも覚悟でもなく……〝欲〟であると」
慈愛あふれる笑みをほころばせ、
「他の全てを犠牲にしてでも、たった1つのものを手に入れようとする〝欲〟……それが、あなたには欠けていたのでございます」
ささくれだった心を
「動機はどうあれ〝里〟や〝里〟の人たちに尽くしたあなたには、出来なかったのでございますよね……〝里〟や〝里〟の人たちを犠牲……いえ、
「逆に、ソれが出来ル〝欲〟がアったカら〝参謀閣下〟ハ姉を選ンだんデすヨ」
「あの方と身共の〝欲〟が……利害が一致したのでございますよね」
沙久夜と〝カメレオン〟が淡々と声をつむぐ。一方、その会話を遠い世界のもののように感じ湖乃羽は茫然としていたが……
「そ…それは〝欲〟に
「……それは血を分けた妹への、せめてもの情けだったのでございますよ」
妹が怒りのあまり蒼白になると姉は顔をうつむけ、
「これから起こることに、あなたを触れさせたくなかったのでございます……」
「故郷を〝狂気〟で
「……〝蹂躙〟などと、
うつむくまま白無垢に包まれる身を震わせ……
「これから起こるのは……〝地獄〟なのでございます………」
「確かに今日、〝草薙の里〟は長い歴史に幕を下ろすのでございます……なれど、それはかつての〝暗黒節〟すら遠く及ばない、〝地獄〟の
湖乃羽が
「〝里〟の滅亡に打ちひしがれ、その後さらに降りかかる〝地獄〟に
湖乃羽は目をむき、胸を押さえつけられたように息が出来なくなる。
「あらゆる物が無慈悲で狂暴な〝地獄〟の
沙久夜が震える声と共に、うつむけていた儚げな美貌をゆっくり上げ……
「その苦難の中で、彼と身共の愛は永遠となるのでございますよ♪」
あふれる喜悦で満面を輝かせ、
「恐るべき〝地獄〟から……この上ない〝苦難〟から身共を守るべく、彼は
「それとも2人で手を取り合って、共に苦難を乗り越えるべきでございましょうか♪ 初めての共同作業のように♡」
白無垢に包まれる身も愉悦に震わせ、
「かくして、彼と身共の愛は永遠となるのでございますよ♡」
「……そ…そのために〝里〟の同胞を
片や妹は怒りと嫌悪に震える声を地下空洞いっぱいに響かせる……が、
「あなたとて息子を生贄にしようとしたのでございますよね?」
地下空洞が氷点下に冷えた気がした。
「そ…そのようなことは……」
「違うと申されるならば、なぜ太華琉さんの複製体のことを弥麻杜殿に黙っていたのでございますか?」
口ごもる妹に姉は淡々と、
「それに南米に送った複製体の扱いも
絶句する妹に、姉は判決を言い渡す裁判官のごとく、
「すなわち、複製体の
妹が血の気を失い震え出す………が、
「気持ちは分かるのでございますよ」
「………は?」
「〝消耗品〟とまでは行かなくとも、〝お人形〟のように大切な人をそばに置き、誰も近くに寄らせず自分だけで
春風のように暖かい声で、
「そうして大切な人を己だけのものにしたい、
「な…何を申しているので、ござりまするか………」
困惑する妹に、姉は満月のように風雅な笑みを目もくらむほど輝かせ、
「なぜなら……究極の愛とは〝支配〟なのでございますから♡」
優しく、暖かく、風雅な笑みと声で、広い地下空洞を絶対零度に沈めた………
「あ…悪魔………」
その中で、妹は恐怖に震え……
「サすガ〝参謀閣下〟の見込ンだ人ナのでスよ……」
車イスの少女は感嘆し……
「……ふざ……けるな……!」
大型ポッドの中から、怒りに
ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
地下空洞の全ての培養ポッドが砕け、
「ふざけるな!! どいつもこいつもブッ殺してやるううううううううううっ!!」
太華琉の絶叫と共に、女たちに襲いかかった………
◆
「我が娘よ………」
「
高級ブランドのレディーススーツを着た身を
「久々に会ったかと思えば、何とも
対してハニーブロンドの少女はハニーブロンドの女を冷笑し、
「そのような
「……っ!!」
女が
その身を包むスーツは最高級のシルクで仕立てられた物。
しかし少女がまとう緋色の学生服は、シルクやカシミヤはおろかビキューナも
「象徴的なデザイナーと高級生地を失い、オーナーを務める自慢の服飾ブランドも
「そのデザイナーと生地を奪った財団に
「
少女は優雅に微笑む一方、自らが口にした『あの女』という言葉に不快指数を上げつつ
「支柱たる人間さえ
「……姉妹そろって母に盾つきますか……!!」
女が
「
月から地球を見おろすような超上から目線で言い放つ……が、
「我が家族たるは、わたくしが遠からず
一転、恋する乙女の顔で甘い声をもらした……対して、
「……
女はさらに瞳を燃やし、
「世界中の戦場で〝処刑台の
「恋心を
「つくづく笑止千万ですわね」
少女は自慢げに胸を張り、
「利用されるとは
「利用されることを誇るとはプライドが無いのですか。東の本家の次期当主が本当にあなたを想っているのなら、あなたをもっと大切に扱うでしょう」
「愚にもつかぬとは、このことですわね」
冷たい怒りを
「よもや
一転、熱い想いを全身から放ちつつ、
「そして種は愛に
薔薇色の瞳を熱情に燃やし、
「その対価を求めぬ〝献身《けんしん〟こそが真の愛なのですわ。それを〝利用〟であるなどと考えるのは、貴様が他人を〝利用〟することしか考えぬ
「〝飼い犬〟には何を言っても無駄ですか」
女が声を冷たくして、
「〝
死刑判決を宣告するように、
「政財界では知らぬ者の無いことです。すでに次期当主の
「うまいことを言いますわね」
だが、少女はさらに胸を張り、
「我らが〝王〟との初の
誇りで笑みをほころばせ、
「その〝鎖〟に繋がれた魂こそ、我らがプライド、我らが喜び、そして……我らが〝愛〟なのですわ。なぜなら……」
必死に興奮を抑えつつ、
「我らが〝王〟……否、この世で最も『残酷』で『欲ばり』で『人でなし』な我らが〝大魔王〟にとっては、〝支配〟こそが至高の愛なのでしてよ♪」
誇りと興奮と喜悦に満面を輝かせる少女。そして……
「ならば我らが〝王〟と我が未来のため、貴様を我が薔薇の養分としてくれますわ」
「貴様のごとき不浄の者をも美しき薔薇の一部とする、我が至高の〝慈悲〟を心より
少女が咲き誇らせる
「なんという
「貴様でないのは確かですわね♪」
少女が笑んだまま薔薇を女へ向ける……直後、
ヒュンッ!
細剣の刃が鋭く少女に斬りかかってきた。が、少女は薔薇で刃を受け止め、細剣を握るブラックスーツを着たくすんだ金髪の少女を
「これが、わたくしの新たな〝
「やりなさい、ゾーカ! 〝
「御命令とあれば」
短い返事と共に、鋭い風切り音を伴う無数の斬撃がハニーブロンドの少女を襲う。
「〝代替品〟にしては悪くない腕ですわね……なれど!」
斬撃を防いでいた薔薇が
「ゾーカ!!」
「今でしてよオーロラ!」
「全ては……〝王〟のため、なの………」
灰色の髪に目元が隠され、表情のよく見えない少女だ。
うつらうつらと今にも寝落ちしそうで、よろよろと足元もおぼつかない。
鼓動するように明滅するリンゴ大の水晶玉を、両手で包むようにして緋色の学生服の胸の前で持っている……と、
「世界は、あまねく……
ぼんやりした寝言のような声がして水晶玉がまばゆく輝く──刹那、ハニーブロンドの女の周りに多数の魔方陣が浮かび、一斉に女へ光を浴びせた。
「ぐああああああああああああああああああっ!!」
全身に文字らしき文様を浮かべた女が、がっくりと洞窟の地面にくずおれる。
文様はすぐに消えるが、体に異質な力を植え付けられた感覚に女は動揺しつつ、
「馬鹿な……これほど大量の術を、これほど複数に絡めては……!」
「術者にも……解除は不可能、なの………」
「おのれえ……!」
女は悪鬼のごとき
「貴様も……〝魔女〟か……!!」
ドンッ!
ウツボカズラの補虫袋が破裂し、強力な衝撃波がZクラスの少女たちを襲う。
「
「悪あがき、なの………」
茨の
同時に補虫袋の中にいた、くすんだ金髪の少女が地面に降り立った。
その身のブラックスーツは消化液で溶けかけ、ささやかな胸元と肉づきの薄い腰を包む
「
そんな姿で主を守るべく主の前へ
その戦意と手に握る細剣は、消化液を浴びても折れていなかった。
「ゾーカ……」
対してくずおれていた女は、形相をゆるめ平静を装いつつ立ち上がり、
「あなたこそ無事で何よりです。ならば不孝娘とその仲間を──ぬあっ!?」
急に地震のように洞窟が揺れ始め、
その状況にハニーブロンドの女と護衛の少女は身構えるが、ハニーブロンドの少女は高貴な美貌に
「始めましたわね、〝クズ参謀〟」
次いで尊大な貴族のごとく母を見て、
「これで貴様の
崩落する洞窟の中で、勝利を確信する高笑いを上げた………
◆
「なぜだ……なぜ、こんなことになった……!?」
薄暗い通路を、50代の男が息を切らせて駆けていた。
「ワシが……何を間違えたというのだ……!?」
男が走り去った後には、肌を黒くして下半身をヘビのように伸ばす〝異形〟のクローンが多数ころがっている。
「地球政府め……純人教団め……太陽系ドミネイドめ……ミズシロ財団め……!」
カエルのようにでっぷり太った体をけばけばしい
「こうなった以上……〝瀬織津〟を手にしなければ、この〝里〟は……!」
悔しさと焦りに顔を歪めつつ弥麻杜は通路を抜ける──と、無数の
冷え冷えする広大な空間は神秘的な空気に満たされ、中央にある澄んだ水を
「……よし、七里塚の小娘はまだ来てない──む!?」
胸をなで下ろす弥麻杜だったが、湖の
「おのれ……あくまで邪魔するか……
「なにぃっ!?」
弥麻杜が大きく目をむいた。少女が炎に変じヘビに襲いかかり、石造りの巨体を灰も残さず焼き尽くしてしまったからだ。
「日本書紀に出とった〝
次いで炎となって消えた少女に替わり、緋色の学生服を着た少女が地底湖の
「おいでませ、〝儀式〟の場へなんどすえ~♪」
はんなりと邪気の無い笑みを浮かべ……
「まずは
〝封印災害指定〟もドン引く智謀を誇る……
「〝草薙の里〟の最期と《最後》》の当主を
若様の
「〝さいごの
〝クズ参謀〟のお出ましである………
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