第6話 思い出の、カケラの中で
その日、あたしは宣言した。
そこには、
ジャングルで咲き乱れる花も、
けたたましく鳴く極彩色の鳥も、
びっしり牙を生やした肉食魚も、
あたしをランチにしようとするワニも、
槍を持って襲ってくる食人族の群れも、
原始宗教の教主がけしかけてくるゾンビ軍団もなかった。
砂漠でも強く生きる人たちも、
幻みたいに綺麗なオアシスも、
砂嵐の中にそびえる巨大遺跡も、
侵入者をつぶそうと転がってくる大岩も、
ドス黒いオーラを出す呪いのアイテムも、
やっと見つけたお宝から出てきてあたしを焼き殺そうとする精霊もなかった。
そんな北海道の居住区は、真冬でも吹雪じゃなく桜吹雪が吹き荒れてた。
メイド・イン・プロテクスの気候調整技術のおかげだ。
そんな北海道の1月、あたしは白い石畳の敷かれた通学路を歩いてた。
戦車が3列で通れそうな道は、両わきに青葉のしげるポプラの木がずらり。
やわらかい朝日の下で道を埋めるのは、あたしと同じ制服の少年少女たち。
そのまま歩いていくと、レンガ造りの立派な校門が見えてきた。
門柱にあるのは、『高等部入学式』の立て看板。
門が近づくにつれて周りから感じるのは、新天地への期待や興奮、希望や緊張。
いろんな気持ちが、新品の制服越しにわき上がってた。
大アクビをする、あたし以外は。
別に、クソ親父に世界中つれ回されたいワケじゃない。
地図にものってない秘境で、ゾンビや精霊に追い回されたいワケでもない。
でも北海道に来てから、あたしは骨が溶けそうなぐらい退屈だった。
寝ぼけたみたいに頭がぼ~っとして、
そうやって校門のそばまで来た時、かすんだ視界に1人の男子生徒が入った。
瞬間、
氷の杭で刺されたみたいに震えた。
体が、
脳が、
魂が。
でも、
次の瞬間には体も脳も魂も、生まれて初めて感じるほど、さわやかに澄んでた。
心に溜まったシガラミやワダカマリを、涼風が吹き払ってしまったみたいに。
だからあたしは、その男に宣言した。
「今日からあたしが、お前の愛人になってやる」
そいつに神がかった美少女が寄りそってるのに気づいたのは、その直後だった。
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