まとめ 5 アバター症候群

 白い手と桜色のマニキュア、胸元には分厚い映画のパンフレットを抱えていた。


「この先、あの星、どうなると思います?」

「は……?」

「――パンドラの星の未来?」



 咄嗟の想定外の質問に驚いたが、自分なりに物語の続きを考えて答えた。オレたちは立ち話で、30分ほど映画について語り合った。そして近くにあった椅子に座り、さらに、2時間ほど語り合った。


 語り合ったといっても、彼女が一方的に、アバターの「裏テーマ」「裏コンセプト」「裏メッセージ」「裏テーゼ」「裏世界観」「裏制作秘話」などを意気揚々と饒舌に話してくれた。


 さらに、未定の続編「アバター3」の自己創作も勝手に始まっていた。映画の上映時間と同じぐらい、語り尽くした後、彼女は言った。


「今からもう一回、見ましょうか?」


 また、全身に電流が走った感覚がした。


『アバター症候群』


 彼女は「アバター症候群」だったのだと思う。あまりにも、リアルで美しい映画の世界に陶酔し、現実の世界に、息苦しさを感じていたのだろう。


 今にして思えば、オレも「アバター症候群」の予備軍だったのかもしれない。





つづく






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