第3話 公言オタクは強し
ヨシオ君を巻き込む——それが、私の第三の目標となっていた。問題は如何にして彼を巻き込むか、であって、その後における方々からの批判は考慮しないこととする。
ダメコンなんてのは、幹部連中が考えればいいことで、我々一般兵はただ目標のみを破壊すれば良いのだ!
ところで、他人を攻めるときの要点がいくつかあるので、ここで紹介しておこうと思う。
第一に、その人の弱点を把握すること。
そんなの当然だろうと、皆さんはお思いでしょうが、いわゆる弱点というのは苦手、嫌いな物だけではなく、好きな物も使いようによっては弱点となりうるのです。
例えば、好みのものをさりげなく貢いで好意を得て交渉しやすくしたり、負い目を持たせることで説得しやすくすることができます。
第二に、単発で攻め込まないこと。
詰将棋でもそうですが、いくら強力な駒を使って攻め込んでも、考えなしに行って仕舞えば相手にのらりくらりと逃げられてしまうでしょう。
まずは軽いジャブを放ち、相手の動きを見る。それで対抗心があるのか、それとも逃げ腰なのかで攻め手を構築していき重層的な攻め方を考えていくのが重要です。
最後に、これが一番重要なんですが、逃げ道を用意してあげることです。自分のではないですよ。相手の逃げ道をひとつ用意しとくのです。
いや、別にボコボコにしたいというのならば用意しなくてもいいのでしょうけど、基本的にそんなことないでしょう?
完全に逃げ道をなくして攻撃した場合、大抵の人が黙り込むか、逆上して反抗してくる場合も予想されます。
そうならないように、落とし所を用意しておき、その逃げ道にうまく誘導しましょう。
さて、これをもとに私はヨシオ君の弱点を探します。
彼はいわゆるオタク趣味、そして独身で、酒好き……へっへっ、弱点だらけじゃねぇかよ!
例えば、どうだ……オタク趣味を晒してやると脅すのは?
いや——駄目だ、奴は既にオタク趣味を公言してやがるッ! その表情には一点の曇りもない。むしろ爽やかささえ感じられるじゃないか、支社長とも何かアプリの話で盛り上がっていた気がする。
独身……女を紹介するか?
いや——駄目だ、俺も独身だった! 後輩に紹介するような余裕はないッ(;´д`)
となれば酒だッ!
いや——駄目だ、奴は酒豪だ。飲みに誘ってもこちらが潰されるだけ。それにそんじょそこらの日本酒では奴は首を縦に振らない。こないだ品評会用の酒をチビッと飲ませてもらって感動していた奴がいたな……ァァアッ、俺だッ!?
美味かったッ! 奴に飲まされた日本酒はそりゃあもう絶品だったのだ。
えぇい、ままよ——こうなれば、単発で攻め込むしかないッ!
「さてはこの肉、ヨシオ君だな?」
「いえ、違いますけど……むしろ先輩、自炊趣味でしたよね?」
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