第2話 第一発見者を疑え

 皆の視線が俺に注がれる。

 正直、前段の話がなければ、マスクで顔を隠し、手袋をして指紋を残さぬようにして、態勢は中腰状態。冷蔵庫を漁っている不審者にしか見えない構図。そんな状態で「いつの肉なん?」という訳のわからないフレーズを、ちょっぴり大きな声で発してしまえば、いかなるシチュエーションであろうとも、不審がられてしまうだろう。


 そう考えると、この時の俺の対応は愚策であった。

 本来であれば——


「おい、誰だッ冷蔵庫に肉を放置したのはッ!!」


 と、強い口調で毅然と食材放置犯を非難するべきであったのに、予想だにしない突然の肉塊の登場に驚いてしまって、非常に中途半端な対応になってしまったのだ。

 その結果、見る人によっては、自分で仕込んどいたネタ用の豚肉だったけれど、誰も気づいてくれなかったから、自分で発見して皆に注目してもらおうとワザとらしい演技をした様にみえるかもしれない。

 実際、その時の俺は複数の奇怪な眼差しに射抜かれていたのだから、間違いないであろう。


 ましてや、だ。

 推理もの小説のど定番「第一発見者を疑え」の原則。あまりのど定番ぶりに、最近では第一発見者が犯人である事は非常に稀なケースといえるのだが、そいつが犯人であるか否かは関係なしにこの大原則は発動してしまうようである。


 この時点で、俺の取るべき行動は「犯人発見」から「疑惑解消」に移行してしまっていたのだ。となれば、直ちに行動に移すしかない——


「ちょっと、誰だよ〜こんな肉を冷蔵庫に放置したの(笑)」


 ——駄目だッ!

 何をやってるんだお前は!

 (笑)じゃないよ。悪手、史上最大の悪手だよこれはッ、余計に疑いが強まるじゃないか。

 見てみろ、あの後輩の表情を「またやってるな」みたいな表情をしとるッ!


 ここは、致し方ない。

 パワハラと言われようが、あの後輩を巻き込んで被害者を増やすしか方法はあるまい。


 ヨシオ君、許してくれ——

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