第5話
鳥の囀りが頻りに重複する晴れた早朝に、瓜の耳した産婆に助けられ、きつい苦しみを味わうことなく、水も溢れんばかりの赤ん坊を出産した。
「根暗な婆さんだけど、腕はたしかなんだよ」村に買い付けに来る栗の加工業者は、ぎっしり詰った麻袋を提げてそう話す。
眼を閉じたままの赤ん坊は空気に触れた途端に泣き始め、音量の抑制を失ったラジオのようだ。喧しく喚いて喜ぶ家族の血を受け継いで、一緒に喜びを分かち合っているのだろうか、眼の開かないその泣き顔は笑っているように見える。どんな瞳を持って生まれたかわからないが、人に好かれる泣き顔をしていると家族は褒める。
「体重もまあまあだし、とても小顔だからなあ、成長すれば美しい娘になるだろう」マムーンは赤ん坊を掲げて天に向かって話しかける。
「わしに似とるなぁ、わしのような男前になるぞ」リーチュンは潤んだ目を瞬かせる。
「やだっ、爺さんに似たらお嫁にいけないよ。あたし似の子だって」スニンは丸い目を赤ん坊に向ける。
「ねえ、わたしに似ているでしょ? ちょっとわたしに見せてよ」産後のか細い声でアジャジは訴えるものの、誰にも声は届かない。
(羊ノねねニ似テイルワ……)サバラはじっと見つめる。
「ねえ、もう遊びに行っていいでしょ? じゃあまたあとでね!」ネムは手を振って外に駆け出す。
「この子は……、男の子だよ……」うつむく産婆のつぶやきは誰の耳にも入らない。
「あらこの子、肌がずいぶんと桃色じゃない」マムーンの手に抱かれた赤ん坊と対面して、アジャジは手を伸ばして確かめる。
「幸福の前触れじゃ!」右目に手をあててリーチュンが叫び出す。
「何言ってんだよ爺さん、前触れって、今が幸福じゃないか」スニンは笑って祖父に顎を向ける。
戸口の外で待っていた村人達は、泣き声を聞きつけて屋内になだれ込んだ。声と埃は舞い上がり、庇の燕は巣から飛び出し、大きく旋回して前方の山へと黒い線を刻む。首輪のついた羊は一鳴き。赤ん坊の両腕を必死に掴む、もう一対の小さな両手には誰も気づかなかった。
赤ん坊は常盤と名づけられた。
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