第4話

 アジャジの生まれ育った村には十代の男性が六人、二十代が八人、三十代は十二人、それより上の歳はアジャジの結婚対象にはならない。土臭い健やかな体つきは嫌いじゃなく、黒眼の大きいやたら唇の分厚い顔も好感を持てる。褐色の肌合いもずれた感じはしない。


「でも気に入った人がいないのよね」アジャジは親しい女性にそう漏らすと、柔和な口辺を広げ、同情を求めて両肩を聳やかす。


 自宅に導入して二年となるパソコンを使い、なんとなく目についたサイトを歩き回っていると、何時の間にマムーンと親しくなり、婚約を申しこませようと働きかけていた。


 サイト掲載の画像を調べると、眉毛の濃い、白眼の黄ばんだ肉食獣さながら、ざわつく胸毛は雄々しく、血の気の滾りに揺らめき立つ。


 サイト掲載の経歴を調べると、程度の低い中等学校を卒業して、軍事学校に進学した後、国の内戦にゲリラとして参加する。戦火の鎮火後は大学に進学して、農学部ゲリラ耕作学科において、焼畑農業と戦闘の関連性を学んでいる。


 サイト掲載の趣味を調べると、モータースポーツの観戦、ブービートラップの開発、木登り、卓球、落穂拾い、匍匐前進、お菓子作り……


 アジャジに送られる求愛メールの文章は、距離を保ちつつひっそりと世間話をしながら、折々思わせな言葉を臭わせて、突拍子なく赤面する文句をつついてくる。さざ波に押し流される心地良さもあり、スコール後に立ち上る土いきれでもあり、蒼穹を貫く鋭利な雷もある。


「なにより電話の声が清々しいのよ」隣家のひなびた爺にそう話すと、アジャジはたまらない女らしさを身に感じて、しゃきしゃき洗濯物を干した。


 村を出て東へ三十分歩くとぶどう濁色の川に着き、櫛形の葉が伸びるニッパヤシに挟まれた細い川筋を小船で上ること一時間、鮫の生息する大河に合流してさらに二時間すると、瑠璃色の目立つ港町に到着する。そこから北西へ蒸気機関車で八時間、さらに草色の高速道路に一時間乗ると、マムーンの生まれ育った山間の村に到着する。栗を特産とする飴色の家並が目立つ場所だ。


 村の中央には特殊ウレタンゴム試用の風車が林立しており、風に合わせて柔らかくタワーは撓り、ライムイエローのプロペラを渦に回転させている。その内の一基の下にマムーン家は構え、山の環境と手を握り合って暮らしていた。


 肌理の粗いレンガ壁に覆われ、ミントグリーンの有機曲線の縁が磨硝子を飾り、沈み込む重厚さを放散させている。起伏の豊かな山岳風景に陸屋根は平坦として、周囲に阿ることなくのっぺりと、高くも低くも構えずに、それでいて奇抜に浮くことなく溶け込んでいる。


「屋根裏部屋にあこがれるわ」歳の離れたマムーンの小さい妹のサバラは、おさげ髪を振って濁らぬ瞳を向ける。


「紙飛行機とばすにはちょうどいいや」弟のネムは振り返って見上げる。


「先祖代々受け継がれているからのう」マムーンの祖父、リーチュンは腰が曲がっている。


「洗濯物を干すには困らないね」マムーンの生みの親、スニンは腰に両手を当てて胸を張る。


「わたしもそう思う。眺めも良いし」嫁いだばかりのアジャジは納得する。


 風車は巨大だが、陽射しを妨げることのないよう、周囲の家々に寄り添い、また遠慮してそそり立つ。村の営みに欠かせず、鼻をくすぐる微風さえも相手して、鷹揚に羽を広げて動きを作る。

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