カレシンケイスイジャクは真面目にやったら負ける

ちびまるフォイ

彼氏のためならいくらでも

「あ~~彼氏欲しい」


「どれくらい?」


「砂漠で水を求めるくらいほしい」


「それならこんな噂知ってる?

 この学校には7不思議があるんだけど……」


「なに? 怖い話はいらないよ~~……」


「そのうち、私が作っていない1不思議があるの。

 夜の音楽室のピアノの鍵盤を開けると

 カレシンケイスイジャクのためのトランプがあるって……!」


「うそ……!? もう出品しちゃった……!!」

「大丈夫、買ったの私」

「さすがっ……!」


カレシンケイスイジャクは2人以上4人未満で行わなければならない。

私はルールにのっとり、事情を話した上で、彼氏に飢えた友達を集めた。


「それじゃ、はじめるよ。カレシンケイスイジャク……!」


床にカードを裏側で散らばらせていく。

順番を決めると、まずは私が1枚を表にする。


「"たくましい二の腕"……!?」


書かれているのは絵柄ではなく彼氏に欲しい要素のひとつだった。

でも私にとってはあまり筋肉フェチでもないのでハズレ札。


「まあ、最初は外してヒントを与えるようなものだから……」


近場にあった1枚をめくると、今度は"豊かな経済力"とあった。


「もう! こっちがほしかった!」


「ほらもう終わったんだから次にいってよ」


順番が交互にまわり、みんなカレシンケイスイジャクを進めていく。

記憶力には自身のない私は大きく出遅れてしまった。


「どう? 私の彼氏、イケメン札を手に入れたわ」


「顔だけの薄っぺらい男を見せびらかすなんてお笑いね。

 私のカードには経済力と清潔感があるのよ? これ以上のがあるの?」


「人の本当の価値は内面にあるのよ。彼氏をなんだと思ってるの?

 彼氏になった以上、ずっと一緒にいなくちゃいけないんだから

 "優しい"くて"思いやり"のある私の彼氏が一番に決まってるわ」


みんなが自分のカードを見せながら徐々に形ができ始める自分の彼氏に思いを馳せる。

カレシンケイスイジャクでは揃えたカードにより彼氏ができあがる。


私はみんなの彼氏自慢を聞いていて、我慢できずに笑ってしまった。


「あははは。ほんとみんな幸せね」


「なによ! 彼氏パーツ1つも持ってないくせに! 強がりはやめてよ!」


「強がり? そういうのじゃないわ。カレシンケイスイジャクのルールは読んだ?」


「そんなの……読んだわよ。彼氏パーツを集めて彼氏を作るんでしょう?」


「一番カードを持っている1人だけが、ね」


その言葉で彼氏自慢に明け暮れていた女達は、

サバンナのメスライオンかごときの目つきへと変わる。


「あなた達がしょうもない小競り合いをしている間に私は何をしていたと思う?」


「ま、まさか!! 一度ひっくり返された札の場所をシャッフルしたの!?」


「いいえ! 少し寝ていた!!」


「なっ……!」


「おかげで頭が少しスッキリしたわ。どのカードがどこにあるかも手にとるようにわかる。

 たとえば、"浮気しない"は……ここでしょう?」


"亭主関白"のカードを引き当て、順番は次へと移動する。

この中でただ1人しか彼氏を作れないと知ったら遊びじゃいられない。


「これだけは使わないようにと決めていたけど……彼氏のためならしょうがないわ」


友達はおもむろに立ち上がるや顔つきが変わった。


「私の番ね! ドロー!!!」


カレシンケイスイジャクの山札から勝手にカードを引いた。


「ちょっと何やってるの!?」


「私はこれまでひっくり返したカードで一致するカードが出るまで

 この山札からカードを引くことができるの!!」


「そ、そんな!」


「ドロー! 一致しない! もう一度、ドロー!!」


このままでは永久に手持ちのカードを増やされてしまう。

たしかにルールブックに山札の持ち込みは禁止されていないが、これでは……!


「ふふふ、あなたはやらかしてしまったようね……!」


「ど、ドロー……!?」


「手元のカードを見てみると良いわ」


「はっ……これは……!! いらないカードが多すぎる……!!」


「そう、あなたは勝負を焦るあまり無意味に手元にカードを貯めた。

 仮にゲームに買って彼氏を手に入れても、ごった煮の特徴の彼氏なんて

 一緒にいて楽しいわけがない。勝負に勝って彼氏を捨てたのよ!!」


「わ、わたしとしたことが……」


友達のひとりは強引に手に入れた"将来性"や"足が臭い"などのカードをばらまいて降参した。


「さあ、ここからが本当のカレシンケイスイジャクよ!!」





戦いは最後まで激戦だった。



もう少しでも腕力を鍛えるのをおろそかにしていたら

とても残りの人間を倒すことはできなかっただろう。


「これが……彼氏装置……!!」


カレシンケイスイジャクに優勝した人は手元のカードを持って

彼氏製造機のところへと進むことができる。


手元のカードをマシンに読み込ませて殿堂入りさせたあと、

カードの要素に基づいて彼氏が作られる。


「ついに私の彼氏ができるのね!!」


手元のカードには長所だけでなく、短所やよくわからない要素もある。

それでも必死に手に入れた彼氏の要素はどれも愛おしい。

これが愛なのだと感じた。


彼氏製造機に手元のカードを読み込ませると、機械が動き始める。


「彼氏が……ほしい~~!!!」


機械の前で祈るように手を組んだ。

轟音を上げていた機械が動きをとめる。


取り出し口からは入れたカードすべての要素をもった彼氏が生まれた。





「だぁ。だぁ。ばぶばぶ」




生まれたてで出てきた彼氏を見たとき、私の神経は完璧に衰弱へと至った。

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