本編 第4章 『本当の運命の相手』
第19話 『優しくて素敵な彼』
「アミーリア。一緒に帰りましょう。馬車で屋敷まで送りますよ」
「……え、えぇ……」
あの日以来、ナイジェル様は私に対して驚くほど積極的になられた。ナイジェル様曰く、「婚約者がいないので、良いでしょう?」ということらしい。いや、私的にはそういう問題ではないのだけれど……。
ちなみに、ネイト様はあの日以来学校には来ていない。なんでも、ニコルズ伯爵家の不正についてが明るみになり、ここに通うお金も払えなくなってしまったそうだ。つまり、事実上の没落。近々爵位もはく奪されるそうだ。シェリア様に関しては、よく知らない。最近見かけないことから、留学が終わったのかなぁ、なんて勝手に思っている。シェリア様は、他国の方だから。
(……でも、シェリア様は……)
ネイト様のことを、愛していらっしゃったはずだ。ネイト様のピンチに、放って自国に帰るなんて彼女の性格上思えない。だけど、実際に見かけないのだから、どうしていらっしゃるのか知る方法はない。ナイジェル様にさりげなく尋ねても「さぁ、自国に帰ったんじゃないですか?」としかおっしゃらないんだもの。
「アミーリア。どうせだったら、今日は寄り道して帰りましょう」
ナイジェル様が、私の手にご自身の手を絡めながら、そうおっしゃる。……ナイジェル様は、とてもスキンシップが激しい方だ。それを、私は知ってしまった。だって、人前だろうが所かまわずに抱きしめてきますし、こうやって手をつなぐことにも抵抗がありませんから。
ちなみに、私はしばらくの間は「婚約破棄された哀れなご令嬢」という視線を向けられていたものの、ナイジェル様が私に惚れ込んでいる、という噂が広まって以来、何故か温かい視線を向けられることが多くなった。いつの間にか、私とナイジェル様の関係を悪く言う人もいなくなって……気が付いたら、ナイジェル様を応援するような声ばかりになっていた。それに、初めの頃の私は戸惑っていたものの、今ではもうすっかり慣れてしまった。
「アミーリア。ほら、もっとこっちによって」
「っつ!」
肩を抱かれて、ナイジェル様の方に抱き寄せられる。そのすぐそばをご令嬢が通り、「キャー!」とうれしそうな悲鳴を上げられる。多分、ナイジェル様を見かけたことが嬉しいのだろう。そう、思っていたのだけれど……。
「ねぇねぇ、ナイジェル様とアミーリア様のラブラブシーンを見られたわ! 私の恋も実るかしら!」
「そうよね! だって、ナイジェル様とアミーリア様の仲睦まじきシーンを見ると、恋が叶うって噂だものね!」
……なんだか、変な噂が広がっているようだった。……いや、何ですか。私とナイジェル様の仲睦まじきシーンを見ると、恋が叶うって……。何のおまじないでしょうか。そう思い、私はナイジェル様を見上げるのだけれど……ナイジェル様は、にっこりと笑われるだけ。まるで……この噂のことを、知っておられたかのようだ。……というか、もしかして、この噂を流したのって……。
「な、ナイジェル様? さっきの恋が実るとかいう噂、もしかして……」
「……ん? あぁ、俺じゃないですよ。でも、ね。アイリス様が流したんですよ」
「あ、アイリス様が!?」
私は、驚いて大きな声を上げてしまった。
ナイジェル様のその後のご説明では、アイリス様は長年、とある伯爵家の令息様に恋をされていたそうだ。そして、遂にその恋が実ったそう。つまり、婚約できたそうだ。ちなみに、アイリス様の取り巻きの方々の恋も次から次に実っているということから、いつの間にかそんな噂が流れてしまったということらしい。……信じられない。私は、てっきりナイジェル様が流したんだと思ったんだけれど……。
「俺が自ら流すわけないでしょう。だって、貴女と二人きりの時間を邪魔されるんですよ? 俺は耐えられませんよ」
肩を抱かれたまま、ナイジェル様はそうおっしゃる。その表情は、少しばかり不貞腐れていらっしゃるようで。なんだか、可愛らしいとさえ思ってしまった。ナイジェル様は、いつだって私の前ではかっこいい。だから、余計にそんな仕草が可愛らしいと思ってしまうのだ。……もしかして、私の恋も末期なのかな……。
「ほら、アミーリア。さっさと馬車に乗りますよ」
そうおっしゃったナイジェル様が、私と手をつないだまま移動を始める。でも、その移動のスピードは、とてもゆっくりで。私の歩幅に、合わせてくださっているのだということはすぐにわかった。それが、すごく嬉しくて。
(……でも、やっぱり……)
身分差が、気になってしまう。いくら周りがお祝いしてくださって、認めてくださっても、私の気持ちが付いていかない。だって、私は婚約を破棄されたばかりの身。すぐに王子様の婚約者に……なんて、なれないよ……。
「アミーリア?」
ナイジェル様がそうおっしゃって、私の顔を覗きこんでこられる。それに対して、私は静かに首を横に振る。「何でもないです」という意味を込めて、そんな行動をとった。心の中は、不安が渦巻いていて、とても冷静ではなかったのだけれど、顔だけは冷静を装っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます