第15話 『婚約破棄を突きつけられて……』


(……なんだか、やけに人が多い気がするわ……)


 中庭へと向かう道。普段は閑散としているはずのその道は、何故か今日に限ってたくさんの人がいた。そして、皆が皆、中庭へと向かっているようで……。今日って、何かあったかしら? ……分からない。そんなことを思いながら、私が中庭へと一歩、また一歩と足を踏み出していく。


 ネイト様が私を呼び出した。そして、彼は私のことを「捨てる」らしい。もしかしたら……婚約破棄でも宣言されるのかも。まぁ、私としては別に構わないのだけれど。だって、婚約破棄したいのはこっちも同じだもの。


 そして、中庭へと入ると、中央にお二人の人が立っていた。お二人とも、私がよく知っている顔だ。私の一応の婚約者であるネイト・ニコルズ様と、ネイト様の浮気相手であるシェリア・ロード男爵令嬢。


「のこのことやって来たのか、アミーリア」

「……そちらが呼び出しておいて、何を言っているのですか? 私はただ単に呼び出されたから来ただけですわ」


 そう言って、ネイト様に視線を向ける。不意に周りを見渡せば、周りの人たちはみな私を見つめていた。その顔ぶれは、伯爵以下の貴族の人たちばかりで。ネイト様が、集めたのかもしれない。婚約破棄をするのならば証人がいたほうが良い。そんな浅はかな考えで呼んだのかもしれない。


「……本当に可愛くない女だな。まぁ、いい。お前は今日でこの学園を退学するのだからな」

「……何をぬかしておられるのですか? 私は退学なんてしませんよ」


 ネイト様は私の言葉を聞くと、「ぎりっと」私のことをにらみつけてきました。これが、一応の婚約者に対してする態度ですか。……ありえないわ。名門伯爵家のご令息様だというのに……。なんだか、シェリア様が哀れに見えてきたわ。こんな男と一緒にならないといけないなんて。そして、私も哀れだ。こんな男を繋ぎとめようとしていたなんて。


「ここに居る皆の者、聞いてくれ! 私、ネイト・ニコルズはここに居るアミーリア・オルコック子爵令嬢との婚約を破棄する!」


 堂々と、両手を掲げてそんなことをネイト様は叫ばれた。その言葉に、周りの人たちがざわつく。そりゃそうだ。婚約破棄と言えば、貴族の中では醜聞になる重大なこと。それを、堂々と宣言したのだ。相手に相当な悪い部分がないと、婚約破棄は基本的に醜聞になってしまう。


 私はただゆっくりとネイト様を見つめる。ネイト様は、満足気にうなずくと、私を強くにらみつけてきた。……やっぱり、前までの私は愚かで哀れだったわ。ナイジェル様が、シェリア様がそれに気が付かせてくれた。この男が、いかにダメなはずれの物件だったかということを。


「そして、ここに居るシェリア・ロード男爵令嬢と新たに婚約を結ぶ!」


 次に、そんなことを宣言されるネイト様。ネイト様に寄り添うシェリア様は「はい、私もそのつもりです!」と高らかに宣言されていた。それを聞いた周りの人たちは、他でもない私に対して憐みの視線を向けてこられた。「あの子、可哀そうに」「これからは社交界の笑いものね」とか、そんな声も聞こえてくる。だけど、そんな事私にとってはどうでもいい。それよりも……ネイト様との婚約破棄を、受け入れないといけない。


「……ネイト様。私、アミーリア・オルコックはネイト様との婚約破棄を受け入れますわ。これで、満足でしょうか?」


 そう言ってネイト様とシェリア様を見つめれば、ネイト様は「ふんっ!」と威張っておられた。……いったい、何を威張る必要があるのかしら? でも、それよりも気になることが一つ。シェリア様が……今にも泣きだしそうな表情をされていることだ。瞳が潤んでおり、プルプルと震えていらっしゃる。それは、必死に涙をこらえているような……。


(……なんだか、嫌な予感がするわ……)


 不意に、私の直感が働く。これから、私はとんでもないことに巻き込まれてしまうのではないか。そう、思ってしまった。早いところ、この場を立ち去らなくては。そう、思っていたのに……。


「満足なわけあるか! お前には罪がある! それを今ここで断罪するんだ!」


 ネイト様のそんな宣言が聞こえてきて、私はこの場を立ち去ることが出来なくなってしまった。そして……私に、罪がある? そんなの、身に覚えがなさすぎる。むしろ、ネイト様が浮気をしたのだから、そっちの方が悪いと思うのだけれど……。


「……私に罪はありませんわ。いったい、何があるというのでしょうか?」

「……とぼけるつもりか、アミーリア。お前が行っていたシェリアへの数々の嫌がらせ、俺はすべて聞いているぞ!」


 ……シェリア様への、嫌がらせ? そんなの……私には、一切身に覚えがなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る