本編 第2章 『これは友情? それとも……恋なの?』
第7話 『アミーリアとナイジェル』
「そう言えば、アミーリア嬢には兄弟姉妹はいらっしゃるんですか?」
「えぇ、兄と弟がおります。私、真ん中で唯一の女の子なんです」
あの日から数日。私とナイジェル様はクラスメイトからよく話す間柄、という関係に変わった。ナイジェル様曰く、今の私は放っておけないらしい。だから、何度か会って話をしたい、と言ってくださったのだ。でも、表立って会うのは私がご遠慮願いたいので、こっそりと校舎裏の人目のない場所で会うことになった。……なんだか、こんなことをしているとこっちが浮気している気分だけれど、ナイジェル様と私じゃ身分が違いすぎるから……大丈夫、よね?
「……そうなんですか。俺は末っ子ですからね。弟や妹がいるってどんな感じなのかな、と気になっていまして」
ナイジェル様はそんなことをおっしゃった後、私のカバンの上にひいた布の上に置いてあるクッキーを一つつままれた。なぜだろうか。いつの間にか、私とナイジェル様の間にはクッキーがあるのが普通となってしまった。なんといえばいいのだろうか。ナイジェル様がつままれると、普通のクッキーも輝いて見えるというか……。まぁ、クッキーはいつでも輝かんばかりにまばゆいのだけれど。
何でも、ナイジェル様は庶民や下位貴族の食べ物に抵抗がないらしく、結構食べていらっしゃる。特に、ココアクッキーをお気に召したご様子で、よくつまんでいらっしゃることが多い。
「そう言えばそうでしたね。ナイジェル様は末王子でした。……私と弟はかなり年が離れているので、可愛いですよ。お姉様、って懐いてくれるんです」
私は家にいる弟を思い出して、自然と笑顔になっていた。……でも、その弟の為にも、ネイト様との関係を早めに何とかしないといけない、とも思ってしまう。すると、やっぱり自然と表情は曇ってしまって。それが、ナイジェル様に伝わったのだろう。ナイジェル様は露骨に話題をそらしてくださった。
「貴族王族は大変ですよね、兄弟関係も。……あぁ、そう言えば。このクッキーとても美味しいです。……どこのパティシエが作ったものですか?」
「え、あ、あぁ……これはすべてオルコック子爵家のメイドが作ったものなんです。……私、彼女と仲が良くて。年が近いこともあるんだと思うですけど、よくお話するんです。その過程で、私がお菓子の中でも特にクッキーが好きというお話になって。それを知った彼女が、よく作ってくれるようになったんです」
彼女は私専属のメイド……というわけではないのだけれど。それでも、年が近いこともあり、よく話す間柄なのだ。しかも、彼女のお菓子作りの腕はとてもすごい。クッキーなど簡単なものから、本格的なケーキまで何でも作れる。それに、味が美味しい。まさに完璧。作る工程を見せてもらったこともあるんだけれど、私には錬金術にしか見えなかった。
「……オルコック子爵家のメイドは、とてもお菓子作りが上手なんですね」
「……はい!」
ふと、ナイジェル様はそうつぶやかれた。それに、私は勢いよく返事をして頷いた。そして、そのままふわりと笑顔になれる。
(……嬉しい!)
だって、私の家のメイドのことを褒められたんだもの、嬉しくないわけがないの。あぁ、彼女に早くこのことを伝えたいわ。でも……伝えたらどうして王子様と……なんて言われるだろうから、ある意味伝えないほうが良いのかしら……? そもそも、あのクッキーが王子様の口に入ったと知ったら、彼女は緊張して倒れてしまうかもしれないわ。……やっぱり、黙っている方がいいのかもしれない。
「……本当に、美味しいですね。……そして、貴女も――俺の想像通り、とても優しい人だ」
「……あ、申し訳ございません。私、聞いておりませんでした……」
「いいえ、良いんですよ。何でもないつまらない独り言ですから」
つい、彼女のことを褒められて嬉しくなって舞い上がってしまった。しかも、ナイジェル様のお話を聞き流してしまうなんて。
でも、そんな失礼な態度を取ってしまった私を、ナイジェル様は咎めるわけでもなく。ただ、微笑んでくださった。あぁ、この方はやっぱり優しい人だ。そう思うと同時に……何故か、一瞬だけ胸が高鳴った。でも、それは気のせいだ。そう、自分に言い聞かせていた。
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