第2話 『浮気の噂』


 そもそものお話をすると、私はどうしてネイト様が急に私に対して冷たくなったのか、と言うことの理由を知らなかった。だって、私とネイト様はクラスが違うし、交友関係も重なっていない。だからこそ、私は知るのが遅れてしまった。噂でしか、知ることが出来なかったのです。


 ……ネイト様が――ほかの女性と会っている。夢中だと、言うことに……。


「ねぇねぇ、知ってる? 最近噂になっている男爵令嬢のお話」

「あぁ! シェリア・ロード男爵令嬢……だっけ? って子でしょう? 知ってる知ってる。そう言えば、ニコルズ伯爵家の令息様が夢中だっていう噂よ。なんでも……シェリア様もまんざらでもないだって」

「え~、あの人婚約者がいなかったかしら? 可哀想ね~」


 私が腰かけているベンチの真後ろから聞こえてきた声。それは、まぎれもない女子生徒の声だった。だけど、私はそんな事どうでもよかった。誰が話しているとか、どうでもいいのだ。問題なのは……お話の、内容だ。


(……ネイト様が、男爵令嬢に夢中? お相手の方も、まんざらでもない?)


 何よ、それ。


 さっきの女子生徒たちは、まさかここに座っている私が、ネイト様の婚約者だとは思わなかったのだろう。だからこそ、私に聞こえる位置でそんなことを話してしまった。それを、しっかりと聞いてしまったのが婚約者である私。……なんだか、私最近不運が重なってるんじゃない? 運勢が最悪なんじゃないの……?


 しかも、シェリア・ロード男爵令嬢っておっしゃっていた。確か、彼女はとても美しい男爵令嬢だったはず。友好国から留学生としてやってこられた彼女は、数々の男性を魅了した。しかし、彼女はそんな男性たちを一切相手にせず、一人勉学に勤しんでいる……という噂を聞いていたのに。


 まんざらでもないってことは、もしかしてシェリア様もネイト様に惚れ込んでしまったの? 二人は、両想いなの? その場合……ネイト様の婚約者である私は、すごい邪魔者みたいじゃない。二人の愛を引き裂く、悪役の女のポジションじゃない。


「……何なのよ、どうして、なのよ……」


 どうして、私がこんな目に遭っているのだろうか。別に、シェリア様が悪いわけではないと思う。悪いのは、全面的にネイト様だ。なのに、私はネイト様に対して割り切ることが出来なかった。両親のために、この婚約は破棄出来ないのだ。でも、私自身は愛されない結婚なんて、まっぴらごめん。このままだと私は……所謂二番目の女として、そこに存在することになってしまう。それしか、許されなくなってしまう。


「……いやよ。そんなの、絶対に嫌なのに……」


 ボロボロと涙が零れていく。それは、間違いなく悲しさからこぼれてきた涙だった。ネイト様に、私は捨てられて見放されたのだ。その真実が……私の胸に、傷をつけていく。勢いよく、切り裂いていく。


 だからこそ、私は気が付かなかった。


「……大丈夫ですか? 泣いていらっしゃるようですが……」


 後ろから、人が近づいてきていた、と言うことに。

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