十五話 うどんと、先輩として

「蓮ちゃん、部活は何をやってるの?」

「いえ、部活には興味がなくて……。転校した時は、よくマネージャーに誘われました」

 まぁ、いればテンションが上がる系の美少女だからな。

 依歩と違って人当たりもいいし、本当に普通の子だ。

 いや、でも。

「蓮ちゃん、友達いないでしょ」

「うぐっ……!?」(そ、そんな直球すぎ……!?)

 気にしてたのね。

「まぁ、どこかのグループに属すようにも見えないし……大よそうわべだけの付き合いしてきたんでしょ?」

「み、見て来たかのように……」

「依歩も同じだったからね。で、人当たりが良いとやるんだけど、誰にでもいい顔をして、深く付き合えない。これは俺の数少ない知人がそうなんだ」

 花梨とか。

 まぁ花梨はあのキャラが強烈すぎるのもあるが。

「……」

「別にいいと思うけどね」

「でも、それが欠点だと思うんです」

「それを欠点と思えてるうちは大丈夫だよ。依歩くらいになると終わりだ」

「え、お姉ちゃんそんなに酷いんですか?」

「あいつは酷い。人の心が読めるから逆手にとって脅したりとか平気でするし。フォローが大変だ」

「す、すみません、姉が……」

「いや、別にいいけどね。で、話は戻るんだけど、自覚出来てるなら、友達出来ると思うよ」

「でも、同年代って、何だか子供っぽいというか……。くだらない話ばっかりしてるし。だれだれがカッコイイー、とかならまだいいんですけど、人を貶めることも平気で言います。許せないです」

 うん、蓮ちゃんは普通の女子ではないようだ。

 いい子ではあるんだけど。どこか……篠岡に似てるな。

 正義感の強いところとか。

「蓮ちゃん、別に友達は同世代とかに限った話じゃないよ。年上でもいいんだ」

「聡里さんでも?」

「俺と? 別に構わないが、つまらないぞ、俺なんて」

「いいえ! 是非、お、お友達に、なってください!」

「いいよ。蓮ちゃんがいいなら」

「は、はい! では……は、遥さん、で」

 ……。

 何か、新妻が呼んでるみたいだな。

 依歩がいなくてよかった。慣れておかねば。

「は、遥さんは好きな食べ物とかあるんですか?」

「俺? うどんかな。ラーメンでもいいけど」

「おお、ジャパニーズフードが来ましたね。アメリカでも、ラーメンありましたよ! 五風堂とか!」

「意外にメジャーチェーンなんだな」

 グローバルだ。

「今日は依歩がバイトでいないから、行ってみる? うどんかラーメン」

「はい! では、うどんで!」

「うん、分かった」

「ところで、なんでうどんとラーメンが好きなんですか?」

「職人技というか。店の方が美味いから。俺も作れるには作れるんだけど、やっぱ素材とか、設備とか。諸々あっての結晶だから、厳しいんだ」

「遥さん、料理上手ですからね。でも、家でラーメンって作れるんですか?」

「作れるには作れるけど……しょうゆベースならよかったんだけど、豚骨を試したら酷かったな……」

 凄まじい臭いだった。こればっかりは、福岡人でよかったと思える。耐性ができていたおかげで、何とか過ごせた。

 思うまい。寝室にまで豚骨の匂いが漂ってきているとか。

 初挑戦だったから臭みも完全に飛ばしきれなかったし。

「まぁ、行こうか」

「はい!」



 うどん屋、『イースト』に来店。

 名前は東なのだが関西風のうどん。

 醤油ではなく出汁を利かせた、旨味が特徴的な味の店。

 麺は冷凍してあるのか。つるりとしていて適度な弾力があり、バランスが取れている。

 コシに特化した讃岐うどん、のど越しに特化した京うどんとも違い、そう、やはりバランスが取れている。

「うーん……迷うなぁ」

「俺のおススメは肉ごぼう」

「ごぼう?」

「興味あるなら、一緒にしてみる?」

「は、はい!」

「うん。すみませーん」

 俺は大盛り。彼女は普通で、温め出汁を頼んだ。

「猫舌なの?」

「はい、そうなんです。熱いのは苦手で」

 照れくさそうにしている蓮ちゃんに微笑み返し、うどんを待つ。

 混んでいたのだが、すぐにうどんが来た。

「ほほう、これが肉ごぼううどんですか……」

「食べよう。そこのケースにネギと……いらないかもしれないけど天かすがあるから」

「おお。でも、天かすって何のためにいれるんですか?」

「あっさりとしたうどんの出汁に油のコクがでるんだよ」

「なるほど。でも、ごぼう天が乗ってますね、既に」

「うん、俺はいらない。ただ、ネギを……」

「え、乗せ過ぎじゃないですか?」

「周りの人を見てみな」

「……ホントだ、みんな結構入れてますね」

「無料だからな」

「じゃあわたしも真似しちゃいます」

 ネギを盛ると、心なしか嬉しそうだった。

「写真撮っちゃおう! 初うどん、と」

 パシャリとスマホで写真を撮る蓮ちゃん。

 まぁいいや、食べてしまおう。

「頂きます」

「わたしも、いただきます」

「……箸、上手だな」

「練習、しました。うん、美味しいです!」

「ならよかった」

 そう微笑む彼女は、なんかやたらと中学生には見えない大人っぽさがある。

 うん、やっぱり外見は蓮ちゃんは抜群だな。

「……」

「何、蓮ちゃん」

「そんなに食べてるのに、細いですよね、遥さん」

「まぁ、そりゃ。適度に運動してますから」

「今度運動する時は誘ってください。実は最近、ぷにってきてるんです」

「充分やせてると思うけど?」

「いいえ! 痩せてません! 痩せてないんですよ、遥さん!」

「どうどう、落ち着こう」

「は、はい、すみません……」

「……じゃあ、しばらくヘルシーな感じにしたい?」

「できれば……。アメリカではそう言った生活とは無縁で……」

「オーケー。蓮ちゃんも日本人だから、すぐに馴染むと思うよ」

「はい! ダイエット、しましょう!」

「明日からね」

「はい! あれ、これは? 野菜も入ってるし、ヘルシーなはずでは?」

「うどんは糖質だからね。まぁ最低限取るにはいいと思うよ。そうしないと逆に太ったりイライラするしね」

「は、はぁ……ならいいんですけど」

 納得が行ってないみたいだが、蓮ちゃんはうどんを完食してくれた。

 うん、美味いものは美味しく食べないと罰が当たる。

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