十一話 水着とアイス

 六月後半。ほぼ夏も近いことから、水着の売り場は多種多様な混み合いだった。

 男子のバリエなんてあっても仕方ないとは思うけど、それでもかなりあるな。

「どうどう? 花梨ちゃんには何色が似合うと思う?」

「青か黒な。花梨は落ち着きを増したらより綺麗だろうし」

「私は?」

「花園は赤じゃないか? 少しでも足りない大人の色気を補って……痛い痛い」

 ローキックはやめろ。

「あ、あのあたしは……」

「篠岡は黄色とかオレンジとか、元気な色が似合うと思うよ」

 ほー、と全員から感心される。

「遥、あんたかなり人を見てるわね」(用意しようと思ってた色とドンピシャ)

「うん!」(いいとこ見てる!)

「はい! 参考になります!」(黄色かぁ。スポーティーなのあるかな)

 思い思いに散らばる彼女達。

 俺も適当に見ていくか。

「お、聡里じゃん!」

「あ、伊達」

 伊達祐介だ。

「最近花園さんとばっか絡んでるからさ、たまにはオレに付き合えよー。ゲーセン行こうぜ!」

 それしかないのかお前は。

 でも、水着選ぶの時間かかりそうだし。

「……いいよ。行くか」

「マジで!? よっしゃ、ガンシューやろうぜガンシュー!」

 伊達に付き合うことにした。



 伊達は二千円くらいを使い、にこやかに去っていった。

 ランキングに名前を連ねてやったぜとかで、二位にランクインしていた。

 まぁそれはどうでもよかったので、水着売り場に戻る。

 ……ま、まだ悩んでる。

 二時間くらいいなかったのに。

「あ、遥君。どっちがいいと思う?」

 花梨が手に取ってるのは、黒のビキニと蒼いワンピースだ。どっちも白のフリルがついてて可愛い系。

「スタイル的にはビキニなんじゃないか?」

「うーん、そうだよねぇ。でも、この青いワンピもビビってきたの!」(これぞ運命的!)

「どっちも似合いそうだから、迷うね」

「うーん……ビキニにしよっかな。やっぱ、花梨ちゃんスタイルもいいからね!」

「似合うと思うよ」

「えへへ、レジ行ってくる」(聡里君、打てば響くリアクションだよねぇ)

 まぁ正直、何を着ても似合いそうだからな、花梨は。

 ぐい、と引っ張られる。

 篠岡だ。

「あの……サイズは分かってるんですけど……助けてほしいんです」

「助ける?」

「……どういうのがいいのか、その、わかんなくて……」

「……じゃあ……」

 足を運んだのがそのサイズの場所なんだろう。

 水玉模様の黄色いビキニを彼女に押し付ける。

「……元気な篠岡には、これが似合うと思うよ」

「は、はだが……、お、お見苦しいというか、あたしなんか……」

「篠岡は綺麗だから、大丈夫」

「……はい、じゃあ、これにします……」

「うん。篠岡の水着姿、楽しみにしてる」

「あ、あはは。そんないいもんじゃないと思いますけど……」(……うう、自信ない)

「大丈夫だよ。何度だって言う。篠岡は、可愛いの」

「……」(う、あ……! 先輩、直球すぎます……!)

 恥ずかしかったのか、スタスタと歩き去っていく篠岡。

 さて、最後は花園か。

「……いないな」

 集合場所のベンチに戻ってみると、花園が満足そうにアイスクリームを食べていた。

「もう買ったのか、花園」

「ええ。……何とかサイズがあったわ。胸がなさすぎるのも困りものよね」

「いや、その、ドンマイ」

「スルーしなさい、気まずい場合は」

 せっかくフォローしたのに。

 隣に腰を下ろす。

「遥はどんな水着にしたの?」

「あ、決めてねえ」

 忘れてた。

「じゃあ、選んであげる」

「いらん、適当に買う」

「ダメよ、行くわよ」

 その後、花園に監視されながら水着を選んだ。

 無難な、蒼い海パンになった。

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