十話 テスト週間とカフェオレ
「ううう……」
「花梨、そこ数式違う」
「うぐ……数学、苦手……」
「花梨はまんべんなく苦手でしょ」
「な、何故それを!?」
「見てれば分かるよ」
「気力と根性で解きましょう!」
「それができるのは、篠岡くらいだよ」
「にしてもすみません、勉強を見てくれるというので飛びついてしまって……」
「今はお客さんもいないから、別に構わないよ」
篠岡と花梨の面倒も見ていた。
花梨の通っている高校も、俺達と同じ。ゆえにテスト期間らしく、彼女は半泣きになりながらも教材に向かっていた。
篠岡は難しい顔をして、時折頬をぴしゃんと叩いて集中しているようだった。
「篠岡、そこスペルミス」
「あ!」
「花梨、式の順番が違う」
「うぐうっ!?」
「あ、先輩も勉強してるんですか?」
「俺、授業は全部聞いて覚えるようにしてるから。学外で勉強はしない主義なんだ。そもそも実力テストの意味合いとしては、普段の学力を測量するものであって、付け焼刃を誇るものじゃないと思う。だから、俺は普段通りで受けてるけど?」
「くおおお、何という優等生……! あ、ここわかんないからノート貸して!」
「先輩流石です! 見習いたいですが、やっぱり見栄で勉強しちゃいますね……」
花梨に俺のノートを渡しながら、そんなものなのだろうかと思ってしまう。
だから授業中に集中した方がいいと思うんだけどなぁ。
「花梨ちゃん、これコピーしたいなぁ?」
「……別に構わないけど。今度のシフトの日に返してくれれば」
「ありがと! 優しいなぁ、遥君は」
「篠岡も、わからなければ気軽に聞いてくれ」
「ありがとうございます!」
「賄いのコーヒー、今淹れる?」
「お願い」「お願いしまっす!」
「何がいい?」
「キャラメルラテ!」「アイスラテの砂糖抜きを!」
「了解」
勉強って、やっぱりしなきゃいけないんだろうか。
いや、俺は授業中に最大限勉強してるからいいんだけどさ。
人と違うと、どうしても気になってしまう。
「はい、キャラメルラテとアイスラテ」
「ありがとー!」
「すみません、先輩!」
まぁ、俺も心を読める時点で世間からずれてる人間なんだろうし。
別にいいか。
「ありがと遥くーん! 赤点回避!」
「あら、そうなの。残念ね」
「……花園さん、いつか決着を付けようと思ってたわ」
「いい度胸じゃない。ちょっと胸が大きいからって調子こいてる馬鹿を相手にするのも馬鹿らしいのだけど、仕方ないから相手を――」
「やめんか、花園。お前だけ賄い無しにするぞ」
「そ、それは横暴よ!」
「先輩ッ! あたしも赤点回避出来ました! 感謝してます!」
「篠岡も頑張ったな。授業ちゃんと聞いてればもっと大丈夫だぞ」
「すみませんッ! 授業眠いですッ!」
「ああ、うん。そう……」
「むしろ、遥君は眠くないの?」
「いや、別に……」
「この人、十一時には寝てるから」
「うええ、夜更かししないんですか!?」
「する理由がない……」
取り立てて趣味もなかった俺は、寝て起きるくらいしか家でしていない。
読書や音楽鑑賞は暇つぶしで、こうしたいという強烈な趣味というものは持ち合わせていなかった。
「遥君、生きてて楽しい?」
「ほっとけ」
そう言えば、今日は全員集合している。
花園も、篠岡も、花梨も。
こういう日は珍しい。
マスターがいない時は俺が。俺に付随して花園が。
そしてたまたま同じ時に入っている篠岡と花梨が。
珍しい日もあるもんだな。
おまけに今日はマスターまでいるし。
「やぁ、みんなお疲れ。これ、どうかな。渡そうと思って」
「……?」
屋内プールのレジャー施設。
チケットだ。四枚ある。
「はい、どうぞ」
「どうしたんすか、これ」
「取引先でもらってねえ。茉子はサッカーがあるからいけないって言うし、君達で有効活用しておくれよ」
「いくらで売れっかな……」
「聡里君!?」
「冗談ですよ。ご厚意、頂戴します」
「ねーねー! それじゃこの四人で行こうよ! あ、三人でもいいのよ、花園さん。そのスタイル、可哀想だし」
「何を言うの。貧乳の素晴らしさを知らしめるいい機会じゃない」
「お前らは火花散らすことしかできんのか」
「プール……鍛錬に良いですね!」
「篠岡も、もうちょっとこう、ないのか……レジャープールだぞ。ガンガン泳ぐわけじゃないって」
「え!? そうなんですか!?」
「子供の頃いったろ、スライダーとか波打つプールとか。そういうのだよ。あ、スク水禁止な」
「えええええ!? じゃあ、水着はどうしろと!?」
「買いに行くに決まってるでしょ。花梨ちゃんも夏の水着見たかったし、女三人で行かない? あ、二人でもいいけど。四人でもいいわ」
「俺もか」
「そう。どう? 行きたいでしょ、女の子に着てほしい水着を選べるのよー? 興味あるでしょ。しかも美少女揃い!」
「……」
まぁ興味はあるけど。
女子の買い物、くそ長いと評判だからな……。
とはいえ、高校にはプールがなかった。
中学のままの水着、というわけにも行くまい。
「分かった、俺も行くよ」
「うんうん。花園さんは?」
「行くわよ。篠岡さんも来なさいね」
「はい! 競泳水着を買います!」
「ダメ」
「何故!?」
そんなわけで。
水着を買いに行くことになった。
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