六話 女子とフードコート
ショッピングモールの書店に行って、本を数冊買う。
料理本。最近はネットでもレシピが出回るようになったが、学校でも読む分が欲しかったのだ。
「いっぱい食うからなぁ、あいつ」
花園が来てから、我が家のエンゲル係数が大幅に増えた。
平気で二人前から三人前を食べるのでびっくりする。
最近は落ち着いてきてるけど、最初は茶碗五杯とか。食える時に食っておくというスタンスが目立っていた。
彼女の過去を知りたくもあったけど、そこまで首を突っ込みたくもない。
我ながら矛盾していると思う。家に置いておくなら、事情くらい知っておきたいと思うのが普通なんだろうけど。
「ん?」
見慣れた連中を見つけ、近寄ってみる。
「これなんかどう? 可愛いよ!」(似合うだろ、これ絶対!)
「ひぃぃぃっ!? そんなフリフリなの、勘弁してくださいよぉ!?」(無理無理、絶対無理!)
「何やってんだよ。篠岡、花梨」
「あ! 聡里先輩ぃぃぃぃ! 助けてください! マジで助けてくださいお願いします!」(これぞ天の助け! ナイスタイミングです先輩!)
「あ、遥君!」(ほほう、助っ人登場ね)
……さりげなく花梨も俺を下の名前で呼んでるし。別にいいけど。
「花梨、どうせ服を勧めてるんだろ? 篠岡は微妙に嫌がってるじゃん」
「いや、がっつり無理です! 新しい服っててっきりジャージだと思ってて……!」
「女の子二人でジャージなんか買いに行くわけないでしょ!」
男がいてもジャージはどうなんだろうな……。
ともあれ。
「篠岡は女性物の服は持ってないのか? ジャージ以外で」
「ないです」
「それは……さすがにどうなんだ……?」
「え!? ダメなんですかッ!?」
「だめっつーか。一着は、お出かけ用の可愛い奴があってもいいと思うよ。篠岡、可愛いんだし」
「だよねだよねー? ほーら、お着換えしましょうねぇぇ!」
「嫌だぁぁぁッ! ジャージが良いのぉぉぉぉ!」
そんなガチで拒否らなくても。
「でも、デートでもジャージなのか? それはさすがに引くぞ」
「え!? で、でも、若いなんか金髪のチャラチャラした女性は男性と歩く時にジャージを着ているのを……」
「それはファッションジャージだろ……。ついでに言えば、篠岡はそんなちゃらちゃらした人間なのか?」
「断固としてッ! 違います!」
「だろ。なら、やっぱり、ふりふりとまではいかなくとも、女の子の格好でいてくれてた方が、相手も嬉しいと思うぞ」
「……そ、それは、聡里先輩もですか?」
「俺も篠岡の可愛い姿見たい」
「む、むぅ……先輩が、そこまで言うのなら……いいでしょう。給料も入ったし、これも試練……」
そこまで嫌なのか。
「じゃあじゃあ、遥君も一緒に選ぼう!」
「え!? ちょ、何言いだすんですか!?」
「いいな。よっしゃ、いこう!」
「聡里先輩まで!? ちょ、待ってくださいよぉぉぉぉッ!?」
蒼いドレス。
「綺麗だし、ボディラインも出ていいんじゃないこれ!」
「の、のののノォー!? 無理です無理! 肩紐ないじゃないですか! え、どうやって固定するのこれ!?」
ゴスロリ。
「何でこんなもんが置いてあるんだ?」
「さあ? これにする、篠岡ちゃん」
「ぶるぶるぶるぶる」(フリフリ……恐怖ッ!!)
怖がるなよ、ただの服に。
「……そだな。これなんかいいかもな」
白いワンピースに、デニムのホットパンツ。
「……」
「ん、これから夏だから、良いんじゃない?」
「むぅ……ちょっと、肌が出すぎじゃないですか?」
「そこでジャージの出番だ」
「え?」
ホットパンツに白いワンピース、そして上からピンクのラインが入った藍色のジャージを纏う。
「おお、良い感じですッ! 動きやすいですし!」
「うーん、ジャージとかを缶バッジでデコればいいね。後、靴もミュールとかにしようよ、スニーカーにそんな野暮ったいソックスじゃなしに」
「ヒールは邪魔です! 歩きにくいです!」
「いや、まぁ、それはそうかもしれないけど……」
「いいんじゃない、そっちの方が篠岡らしくて」
「えー、もっと可愛い服着せたいよー!」
「今も、充分可愛いよ」
「ま、また先輩は軟派なんですから。もっと、背中で語る男になりましょう!」
「それは無理だな。気持ちは伝わるけど、表すってなると難しいんだよ。だから、俺は言葉を使う」
「……」
「? どうしたの、篠岡」
「いえ。これと決めたものがあるのは素晴らしいと思いますッ! なるほど、言葉を表す体のほかに、聡里先輩はあえて言葉を分かって使うという!」
「というか、みんなそうだよ。篠岡みたいに、別の方法で伝えようとするのは、何というか、逆にムズくない?」
苦笑して、とりあえず、手を打った。
「じゃあ、お昼だし、そろそろ何か食べない?」
「あ、じゃあかつ丼が良いです!」
「えー……パスタとかが良いわよ」
「んじゃ、フードコート行くか」
「……中間地点に着地しましたね。あそこ、かつ丼あったかなぁ」
「あったはず。パスタもね。俺はうどん食うけど」
「もっと高いもの食べなよ遥君~」
「おいおい、花梨。あんまり金遣いが荒いとアレだろ」
「む……。でも、安い女に見られたくないわよ?」
「安いものを食べた程度でその人間が安いと思うのは、思いあがったバカしかいない。だから、好きなもの食えばいいんだよ」
「……」
「何? 花梨」
「遥君、あなた落ち着き過ぎ」
そうかなぁ。
その後、三人で食事を摂った。
「うーん、女の子らしく……」
「あんま深く考えんなよ。篠岡は篠岡のままで可愛いんだから」
「花梨ちゃんにも可愛いって言ってよー」(不公平だよなー)
「そりゃ花梨が可愛いのは当たり前だろ?」
「えへへー、やっぱ分かってるなぁ、遥君は」(ま、確かに可愛いのは当然だしね)
俺は女子に囲まれながら、うどんを啜った。
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