五話 天塚花梨とシフォンケーキ

「やっほー、聡里君!」(今日も花梨ちゃん、バッチリ可愛いでしょ、ほらほら!)

「やぁ、天塚さん。今日も可愛いね」

「もう、聡里君ったらお世辞ばっかり~」(くひひ、相変わらず分かってるねぇ、この反応!)

 女子はこんなことを考えているのかと、少しげんなりする彼女。

 天塚花梨。ここのバイトで、同級生。

 胸も大きく、見た目的にはふわふわしていて可愛いのだが、性格が……。

 何というか、篠岡みたいな性格もちょっとアレだが、これも嫌だ。

「そう、それはお世辞よ」

 なんで毎度火中に油をぶん投げるかね、こいつは。

 花園の放った言葉でピシリと天塚さんが固まる。

「あ、あはは。そ、そうですよねー!」(なんだこいつ。新人のくせに……! でけ――)

「新人のくせにでけえ顔しやがって、かしら」

「なっ!? テメェ」(なんなんだこいつ、むな――)

「胸糞悪い目つきしやがって、貧乳のくせに。ね」

「っ!?」

 な、なるほど。

 心の中も最後までは言っていないが、彼女ほど頭が良ければ先読みも容易いのだろう。

「な、なんなの、花梨ちゃんの頭の中、読んでるの!?」

「単純な思考だもの」

「……ふん。でもいいもん。猫被ってたって、花梨ちゃんは可愛いし。ねー? 聡里君?」

「まぁ、そうだね。それ込みで可愛いから」

(この裏切り者。こんなビッチが良いのかしら? ……いや、まって。こいつ処女ね)

 何で分かるんだよ。

(私の能力と貴方の能力は、根本的に違うものよ。私は行動や表情からくる自動分析だけど、貴方は単純にシンパシーだから)

 ほほう、そうなのか。でも、俺そんなに表情変えてないんだけどなぁ。

(全く動かない人間なんてめったにいないもの。極稀にいるけど)

 そういやバイクの背中越しの会話とかどうやってたんだ?

(気配で感じるもの)

 ……まぁいいけど。

「そんなにツンケンすんなよ。天塚さんは可愛いウェイトレスだし、花園は……頭がいい。協力してやっていこうよ」

「うんうん、聡里君の言う通り! 思考読めるんだか何だか知らないけど、ここでのキャリアは花梨ちゃんの方が長いんだし、おとなしくしてて」

「なるほど、年月を過ごしたからそれが実力だと思い込んでいる間抜け――あいたっ!」

 ごつん、と花園に拳骨を落とす。

「別にお前がどう思おうと勝手だけど、わざわざ喧嘩を売るのは馬鹿のすることだ。いくら頭が良くても、俺は空気を読めない馬鹿は好きになれない」

「な、な、な……!?」

 花園は目を白黒させていた。

(た、叩かれた? 私、叩かれたの!?)

「花園。人の気持ちが読めるからって、それを逆手にとってからかうのは楽しいかもしれない。けどな、人の気持ちが分かるこそ、尊重するのが俺達の正しい在り方だと思う」

「そうそう、もっと言ってやってよ聡里君!」

「天塚さん、君ももう少し、自分が人にどう映っているか、考えた方がいい」

「え……」

「……そして、こんなことを受け流せずに言ってしまう俺も、忍耐力不足。悪かった。さ、喫茶店の準備しよう」

 何故か天塚さんは、顔を赤くしてるけど。

 感じ取れるのは、わたわたと甘い感情だ。何故。

「そ、それって、花梨ちゃんを心配しての事?」

「それ以外に言わないよ。ただでさえ、天塚さんは可愛いんだから、敵を増やさない方が良いと思う。目立つってだけで攻撃されるって、よくあるし、少し心配になっただけ。って、心配するっていうのも上からなのかな……ごめん」

「……」

「ムカついたら怒っていいよ。俺、めちゃくちゃ失礼だしね」

「う、ううん! いいの!」(ちゃんと、花梨ちゃんの事考えて、叱ってくれるんだ……)

 ……なんだよ、その思考。

 普通怒るもんなんじゃないのかな。

「ねね、花梨って呼んでほしいなぁ、そろそろ、天塚さんじゃなくて」(ちょっと聡里君いい感じだし)

「……じゃあ、花梨。今日の賄いは何がいい?」

「甘いものが良いなー。ケーキがいい!」

「……そっか。じゃあ、待ってて」

 冷蔵庫を見る。

 ……あ、紅茶のシフォンケーキがそろそろ期限だな。

「花園、花梨。シフォンケーキはどうかな?」

「頂くわ」(ご飯ご飯)

「食べる!」(少しカロリー気になるけど)

 これはマスターの作品。

 ふわふわのシフォンケーキ。それに、桃のリキュールの香るホイップクリームを添えれば、お店のシフォンケーキ。

 マシンを使ってコーヒーを作り、奥のキッチンに並べておく。

「俺が一人で番をするから、先に二人で食べちゃって」

「……」(え、こいつと?)

「……」(え、こいつと?)

 ……。

 実は相性がいいのかもしれないな……。

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