22 合流
《亥ノ上直毅は、性格特性「邪悪」の強度がⅤ+になった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「開き直り」の強度がⅤ+になった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「現実逃避」の強度がⅤ+になった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「妄想」の強度がⅤ+になった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「冷血」の強度がⅤになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「夜行性」の強度がⅤになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「利己主義」の強度がⅤになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「人間洞察」の強度がⅤになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「現実主義」の強度がⅢになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「快楽主義」の強度がⅢになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「解脱」の強度がⅢになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「マキャベリズム」の強度がⅡになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「愛欲」の強度がⅡになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「用意周到」の強度がⅡになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「理想主義」の強度がⅡになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「パラノイア」を発現した。「パラノイア」の強度がⅠになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「支配」を発現した。「支配」の強度がⅠになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「魅了」を発現した。「魅了」の強度がⅠになった。》
《亥ノ上直毅は、性格特性「カリスマ」を発現した。「カリスマ」の強度がⅠになった。》
《亥ノ上直毅は、魔法適性「魔法陣」に開眼した。》
《亥ノ上直毅は、魔法適性「魔法融合」に開眼した。》
《亥ノ上直毅は、魔法適性「造魔」に開眼した。》
《亥ノ上直毅は、武器適性「魔玉」に開眼した。》
《亥ノ上直毅は、武器適性「触手」に開眼した。》
《亥ノ上直毅は、技「詠唱破棄」を閃いた。》
《亥ノ上直毅は、種族「越境者」に進化した。》
《亥ノ上直毅のアイテムボックスの容量が無限になった。》
これまで空気を読んでいたのか、「天の声」がいきなり大量の通知を送ってくる。
事前の選択肢でわかっていた通り、悪魔召喚の成功で性格特性が大きく上がったようだ。
整理のためにも一度自分自身を「インスペクト」。
―――――
亥ノ上直毅
覚醒者、吸血鬼、越境者
固有スキル:天の声
武器適性:投・射・杖・牙・爪・鎌・体・玉・触
魔法適性:死・召・援・妨・時・次・吸・闇・氷・火・回・風・陣・融・造
性格特性:邪悪Ⅴ+、開き直りⅤ+、現実逃避Ⅴ+、妄想Ⅴ+、寄生Ⅴ、冷血Ⅴ、夜行性Ⅴ、利己主義Ⅴ、人間洞察Ⅴ、厭世Ⅳ、利己主義Ⅳ、現実主義Ⅲ、快楽主義Ⅲ、邪婬Ⅱ、誘惑Ⅱ、解脱Ⅲ、マキャベリズムⅡ、愛欲Ⅱ、用意周到Ⅱ、理想主義Ⅱ、虚言癖Ⅰ、慈愛Ⅰ、偽善Ⅰ、克己心Ⅰ、マイペースⅠ、直感Ⅰ、パラノイアⅠ、支配Ⅰ、魅了Ⅰ、カリスマⅠ
魔法:「インスペクト」「リキッドドレイン」「アイテムボックス」「マジックサーチ」「アポート」「マジックアブソーブ」「ダークフォグ」「ダークファング」「ブラッドスピア」「イノセントクラウド」「スリープクラウド」「ポイズンクラウド」「デスクラウド」「スロウクラウド」「アンガークラウド」「ブラインドクラウド」「デプレッションクラウド」「オーダサティ」「ヘイトレッドクラウド」「オーバーサスピシャス」「サイレントクラウド」「クロックアップ」「ソリッドバリア」「ドレインクラウド」「アンチインスペクト」(略)「アイシクルレイン」「ファイヤーボール」「ヒール」
技:「ナイフスロー」「精密射撃」「五月雨撃ち」「杖ガード」「杖パリング」「白刃取り:牙」「ポイズンクロー」「ブラッディファング」「ソウルリッパー」「獣化:ウェアウルフ」「特攻」「ナイトハント」(略)「ピュリファイ」「詠唱破棄」
―――――
なんともはや。技と魔法の一部を省略してもなかなかのボリュームで、自分でもちょっと覚えきる自信がない。
「魔法陣」だの「魔法融合」だのという他の魔法と組み合わせて使用する魔法を覚えたから、研究すべきことが山のように増えてしまった。
だが、柊木瑠璃との戦いは今晩となるはずなので、せっかくの新魔法もどこまで準備が間に合うかわからない。
とりあえず、「越境者」だけでも「インスペクト」しておく。
―――――
越境者:世界の境界を越えし者。この世界とは異なる世界からなんらかのモノを呼び出すことに成功した。この種族を獲得すると、魔法適性「次元」「時空」「召喚」などへの理解が深くなり、性格特性「妄想」「解脱」「現実逃避」「厭世」などが強化される。
―――――
さらに、悪魔ベルベットにも「インスペクト」を使ってみる。
―――――
ベルベット
悪魔
―――――
「悪魔には性格特性とかはないのか?」
シンプルな鑑定結果に思わずそう聞くと、
「性格特性? なんじゃそれは?」
「知らないのか。えっとだな⋯⋯」
俺はこれまでに得たステータスについての知識をベルベットに説明する。
「ほう。隕石が人間に異質な力を与えておるのはわかっておったが、そのようなものじゃったのか」
「そうか、悪魔とは関係がなかったのか」
とすると、ベルベットが魔法や技を使うには、覚醒者になる必要があるんだろうか?
「心配せずともよい。妾には悪魔としての力がある。しかも今回は過去の召喚でも類を見ないほどに強力じゃ。これほどに高度な召喚が成し得たのは、おぬしの素質もあろうが、それが隕石の与えし力によって増幅され、使いやすいように補助までされておったからなのだな」
「がっかりしたか?」
「いや、それとておぬしの力であることに変わりはない。誰かから借りてこようが、その場その時に使えさえすれば、それはおぬしの力なのだ。すべてを自前で賄う必要はない。そもそも人間の持つ力などもともとごく些細なものなのじゃから、いずこかから力を借りねば簡単な魔術を使うことすらおぼつかぬ」
「そういうもんか」
長く社会人となって独り立ちすることができないでいた俺は、誰にも頼らず生きていけるようにならなければと思っていた。
だが、俺が社会人になれていたとして、それだけで誰にも頼っていないとはいえないだろう。
たしかに親から経済的に自立することはできただろうが、その代わりに会社に貢献し、それに応じて金を受け取る必要がある。自分一人でゼロから金を稼いでいるわけではなく、会社組織のもつ金儲けのシステムを利用して――悪くいえば依存して、金を稼いでいるわけだ。その会社組織もまた、社会全体で見れば、税金で運用される公共サービスがなければビジネスが立ち行かない。世界的な自動車メーカーだって、自力で国中の道路を整備したわけじゃない。そしてその政府だって国民の支払う税金に依存して運営されている。
魔術でなくても、会社の看板や組織を借りてビジネスをし、政府の公共サービスを利用して日々の生活を営む。たとえ起業家になって一からビジネスを起こしたとしても、誰かの力を借りていることに変わりはない。⋯⋯まあ、ひきこもりが自立してないのと同じにするな、と反論されそうだけどな。
ともあれ、誰かに頼ることは悪いことじゃない。むしろ必要なことだ。その逆に誰かに頼られることもあるだろう。世の中は厳密に持ちつ持たれつなのであり、完全に自立した人間など文明社会には存在しない。
「あの⋯⋯」
ステータスとは関係のないことを考えていると、後ろからおずおずと声をかけられた。
「ベルベットさん、いつまで裸でいるんです?」
「あっ」
西園寺芳乃の指摘に、俺は思わずベルベットを見る。
台風の風雨に、白い肌が晒されている。
さっきは純粋な美と感じた身体なのだが、今はなぜか普通にエロティックなものに感じられた。
小柄で華奢で、折れそうなほどに身体が薄く、胸は小さいながらも劣情を煽る絶妙な曲線を描いている。あばらの浮いた胸、くびれた脇、骨盤の形が見える腰、細いながらも病的な感じがなく、思わずほおを擦り付けたくなるような脚⋯⋯。
「おそらくは名付けの影響であろうな。おぬしは妾に女を求めた。妾の本質に『女であること』が加わったのだ。生身の女を象った陶磁器と、生身の女そのものとはまるで違うものであろう?」
「わ、わかったよ。とりあえず、なんか着てもらうか」
といっても雨降りしきる中で服を着たらあっというまにずぶ濡れだ。
「心配はいらぬ。こうして⋯⋯」
ベルベットの足元から赤い霧が立ち上り、ベルベットの全身を覆っていく。
赤いハイヒール、赤いタイツ、黒と赤のチェックのスカート、上半身は黒い襟付きシャツの上に黒赤チェックのブレザーだ。
学校の制服っぽくもあるが、どっちかというとアイドル衣装のような格好だった。
雨の中だが、どんな魔法かベルベットの周囲だけには雨風が来なくなっていた。
「そこな娘たちの格好を参考に編み上げてみたが⋯⋯どうだろうか?」
「か、かわいいです!」
と言ったのは、俺ではなく西園寺芳乃だった。
「娘の意見は聞いておらぬ。じゃが、褒められて悪い気はせんな」
「すごくかわいいです! ASK17のセンターが務まります!」
ASK17⋯⋯あすか市のご当地アイドルだったかな。前にも言った通り、俺は大人の女性が好みなので、十代のアイドルにはほとんど興味がないのだが。
「似合ってると思うよ」
「であればよかった。今後肌はおぬし以外には見せぬこととしよう」
ベルベットははにかむような笑顔でそう言った。
ベルベットの召喚に成功した後、俺は対岸で待っていた母親を呼び寄せ、セフィロト組と合流させた。
不死者となった母親については、三人とも戸惑ってはいるようだったが、深くは聞いてこなかった。軽く、隕石の日に死んでしまったので死霊魔法で不死者にした、とは説明したけどな。肉親の死体と霊魂を弄ぶような真似をすることの是非なんて、十人を生贄に悪魔を召喚した後ではむしろささいな問題だ。⋯⋯というのは強化された「開き直り」の効果なんだろうか。
橋にあったバリケードの撤去は、俺が魔法の実験がてらやってみた。
バリケードの周囲に魔法陣を書き、「風」と「時空」を魔法融合して、バリケードを風化させる魔法陣魔法を発動させた。効果は抜群で、自動車数台と土嚢、部分的にはセメントで固められていたバリケードが、数分ほどで粒子の細かい砂と化した。
これまでも複数の魔法適性を組み合わせた魔法は使ってきたが、それはあくまでも組み合わせ――強引に混ぜているといったほうが近いものだ。魔法融合の場合は、複数の魔法が溶け合って、別種の魔法と言ってもいいくらいの変化を遂げる。かなり研究しがいのありそうな技術だが、残念ながら今はそれだけの時間がない。
北条真那には、柊木瑠璃への定時連絡を入れさせた。
俺も北条真那もすっかり忘れていたのだが、「天の声」がそうせよと言ってくれたのだ。たしかに、柊木瑠璃ならば渡河地点の見張りに立てた手勢に定時連絡をさせるだろう。そうでないと、奇襲に遭って無力化されたような場合(まさに今回のような場合)に対応が遅くなるからだ。
その後、合流した母親の車に俺と母親と西園寺芳乃が乗り、セフィロト組がキャンプ場への足に使っていたミニバスは北条真那に運転を頼んだ。千南咲希はミニバスだ。
車の運転ができるのは母親と北条真那だけだし(俺もとっくの昔に失効した免許はあるが)、俺はセフィロト組の誰かから話を聞きたい。俺がミニバスに乗る手もあるが、そうすると自動車は母親一人で残りがミニバスとなってしまう。不死者の母親の運転する車に生徒のどちらかを相乗りさせるのは気の毒だからな。不死者として判断力に限界のある母親を一人にするのも気がかりなので、俺が母親と同乗するしかない。自動車に生徒二人を乗せることはできるが、その場合はミニバスが北条真那一人となり、戦力バランスが悪すぎる。西園寺芳乃か千南咲希のどちらをこっちに乗せるかと考えた場合、さっきまでの会話で状況を理路整然と説明してくれた西園寺のほうがいいだろう。西園寺なら、母親の状況について余計な詮索もしなさそうだ。もちろん、ベルベットは俺と一緒の組である。
「先導は頼むな、真那」
俺はミニバスに乗り込む北条真那にそう言った。
話し合いによって、三人の呼び名は今後名前で統一することにした。真那、芳乃、咲希ってことだ。女の子を名前で呼ぶなんて生まれて初めての経験なので緊張したが、性格特性のおかげか「ま、ままっ、真那、さん」みたいな醜態を晒さずに済んだ。
昔恋をした女性バーテンダーと北条真那がすこし似てることに気づいたせいか、俺の真那への態度が若干ぎこちなくなってる気がする。乗り物が分かれたのはよかったかもしれない。
なお、その女性バーテンダー=北条真那という可能性は絶対にない。雰囲気は似てるが明らかに別人だし、俺がバーテンダーに出会ったのはもう十数年は前のことだ。真那はどう見ても二十代、それも半ばを超えてないだろう。
「お任せください、マスター」
真那がそう言って敬礼をする。
その目はいたずらっぽく笑っていた。
「やめてくれよ。普通にしゃべってくれればいいって」
「そうですね。直毅さん」
「敬語も落ち着かないんだけどな」
「そうは言ってもわたしより歳上ですし。歳上⋯⋯ですよね?」
「ああ。見ればわかるだろ?」
「そう、ですか? 思ったよりも上なんでしょうか」
「なんでだよ。どっちかと言うと老けて見えそうなもんだけどな」
どこか噛み合わない会話に、俺も真那も首をひねる。
その真那の隣には千南咲希が、俺の背後には母親と西園寺芳乃とベルベットがいる。
真那はミニバスのほうを振り返って言った。
「では、打ち合わせ通り、
「頼むよ」
先導は真那の運転するミニバスだ。
こっちの乗用車のほうが目立ちにくいが、車を運転できるのは母親と真那だけで、母親はミニバスのようなサイズの車を運転したことがない。自家用車を他人に貸し出すことに母親がどう反応するかもわからない。
真那もミニバスを運転するのは今回のことが初めてで、対応する免許も持ってないらしいのだが、母親や俺が運転するよりはマシだろう。
俺、母親、真那、芳乃、咲希、ベルベットの六人を乗用車に押し込んで移動する、という手も考えなくはなかったが、さすがに窮屈で即応性に欠けるし、もしこの車がダメになったら足を失うことになる。かといって、全員でミニバスに乗って乗用車は乗り捨てていく、というのは、母親が抵抗するかもしれない。それに、今後柊木側の覚醒者を吸血して眷属化する機会があるかもしれないことを思うと、十五人が乗れるミニバスはぜひ確保しておきたいところである。
ミニバスにはセフィロト女子の校名と校章がでかでかと入っていたので、俺はホームセンターで拝借してきたスプレーを使って、車体の他の部分に近い色で校名と校章を塗りつぶした。明るいところで見れば不自然だろうが、夜のあいだならそんなには目立たないはずだ。校名と校章がなくてもセフィロト側の見張りがこのバスを見逃す可能性は低いが、やらないよりはマシだろう。
侵攻ルートは、二つの案があった。
一つは、
もう一つは、川から離れ、セフィロト女子のある丘の裏を迂回、一度南浅生市街に出てモンスターを狩るというもの。
後者の問題は、セフィロト女子のある丘の裏は北にある山へと連なっていく山道で、おそらくは柊木瑠璃の監視の目があるだろうってことだな。もし市街に出られれば、モンスターを狩ってステータス強化&アイテム入手が可能だが、それをやってるとすぐに夜が明けてしまう。そこを柊木瑠璃陣営に強襲されればこちらから犠牲が出てしまうおそれがある。実質、あの選択肢でBを選んだのと同じような結果にならないとも限らない。
あの選択肢では「天の声」はいずれの場合でも決戦を今夜と見込んでいたから、決戦を先延ばしにしようとする試みは「天の声」の想定するルートから外れているということでもある。
俺たちはそれぞれの車に分乗した。
俺は母親がハンドルを握る乗用車の助手席に。
同じ車の背後の席には西園寺芳乃とベルベットが座る。
「⋯⋯お友達?」
母親がバックミラーで後部座席の二人を見て聞いてくる。
さっきも顔合わせをしたはずだが、母親はうつろな顔で聞いてるかどうかわからない感じだったからな。考えれみれば、母親をセフィロト組の三人に紹介はしたが、その逆はしなかった。
自家用車に俺と一緒に乗り込んできた二人を見て、遅ればせながら俺のツレとして認識したのだろう。
「ん、ああ、まあ⋯⋯そんなとこかな」
「直毅が友達を連れてくるなんて珍しい。それも女の子なんて初めて」
うるさいわ。
「西園寺さんとベルベットだ。西園寺さんは母さんの母校のセフィロト女子の生徒だよ」
「あ、あの⋯⋯初めまして、お母様。西園寺芳乃と申します。直毅さんには、いつもお世話に⋯⋯ええと」
芳乃の言葉が尻すぼみになる。
芳乃が俺のお世話になってるわけがないが、芳乃は無難な挨拶をしてくれた。咲希ではなく芳乃を選んでおいてよかったと思う。
ベルベットが口を開く前に、母親は手を叩いて(無表情のまま)喜び、芳乃のほうを振り返った。
「まあ、じゃああなたも魔女なのかしら?」
母親が、いきなり謎なことを言い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます