第45話 特殊部隊の反撃
二〇二〇年七月二十六日。魔法災害隊東京本庁舎、司令室。
響華たちは長官と話をしていた。
「そっか、昨日も大変だったね。ごめんね、毎日辛い思いさせて……」
爆弾を体に巻き付けた男の話を聞いた長官は、申し訳なさそうに言う。
「いえ、別に構いません。あの言葉からしても、狙われているのは私たちでしょうし」
碧は真剣な表情を浮かべている。
「爆弾男は最初に『お前らが、俺の仲間を殺した魔法能力者か?』って言ってたくらいだし、オリンピックの会場とかはきっと関係なくて、私たちを襲うのが目的なんだと思う」
遥の言葉に、響華が続ける。
「だから長官、私たちをオリンピックの警備任務から外してください!」
響華は長官の顔をまっすぐに見つめる。
長官は少し考えて答える。
「……そうだね、五輪会場警備の任務からは外した方がいいのかもね。これ以上オリンピックを危険に晒す訳にはいかないし」
「すみません、ありがとうございます」
雪乃が頭を下げる。
「いいよいいよ、気にしないで。君たちが悪い訳じゃないんだから」
長官は笑顔でそう言うが、ただでさえ人手不足の状況で五人の戦力を失うのは痛いはずだ。そう思った芽生が問いかける。
「長官。代わりって訳でもないけど、ここの警備をさせてもらえないかしら?」
「ここって、本庁舎の?」
長官が聞くと、芽生は首を縦に振る。
「ええ。ここの警備担当と私たちのシフトを交換すれば、少しは人手不足を補えると思うのだけど。魔法災害に対応できる人間がオリンピック会場に待機していないのはリスクが高すぎるし、かと言って本庁舎の警備が手薄になるのも問題でしょう?」
「確かに、それならいけるかも。本庁舎の中にいれば君たちもそこまで危険じゃないだろうし……。よし、じゃあその提案乗った!」
長官は大きく頷くと、早速本庁舎のエントランスの警備担当にスマホで連絡を入れる。
「もしもし、今大丈夫? あのね、突然なんだけど、今日は五輪会場の警備に入ってもらえるかな? うん、ありがとう。それじゃあ後で司令室まで来て。は〜い、よろしくね」
長官は電話を切ると、響華たちに向かって指示を出した。
「それじゃあ君たち、今日は本庁舎のエントランス警備をお願いね。くれぐれも安全第一で、何かあったらすぐに連絡すること」
「分かりました!」
響華たちは大きく返事をすると、エントランスへと向かっていった。
魔法災害隊東京本庁舎一階、エントランス。
「あっ、あなた達が代わりの人ですか?」
元のエントランス警備担当の少女が声をかけてきた。
「ああ、そうだ。本庁舎はしっかりと守るから安心してくれ」
碧が言うと、その少女は。
「はい、分かりました。では、よろしくお願いします」
とお辞儀をして司令室へと向かっていった。
「今の子、年下かな?」
響華が呟く。
「そういえば、夏休み期間中に養成校の生徒が実習に来るみたいな話があったような?」
遥が思い出せない様子でいると、雪乃がそれを補足した。
「一般クラス生徒の実習プログラムですね。私たちはキャリアクラスなので二年生の後期からこうやって見習いとして魔災隊で働いてますけど、一般クラスの生徒は卒業するまで現場経験は積めません。なので、こういう長期休暇中に希望者が実習できるプログラムが用意されているんです」
「さすが雪乃、詳しいわね」
芽生が褒めると、雪乃は照れてしまったのか遥の後ろに隠れた。
「ちょっとユッキー、毎度のように私を盾にしないでよ〜」
遥は振り返って、背中にぴったりとくっつく雪乃に話しかける。
「もう、何ですか? 私のことその気にさせておいて。手に入ったら興味無くなっちゃいましたか?」
雪乃がムッとした表情を見せると、遥はニヤついて言う。
「あれ〜? もしかしてユッキー、私のフィアンセになってくれるのかな?」
その言葉を聞いた雪乃は。
「ち、違いますよ! 誰が滝川さんと結婚なんて……」
顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「あはは、二人は本当に仲良いね〜」
響華が二人の様子を微笑ましく眺めている。
すると碧がパンと手を叩いた。
「おいお前たち、いつまでやってるんだ。早く配置につけ」
「は〜い」
響華が返事をすると、遥と雪乃、芽生も頷いて各々のポジションについた。
同時刻、司令室。
長官に任務内容を聞きに来ていた元のエントランス担当少女たちと入れ替わるように、木下副長官が入ってきた。
「あれ? 木下副長官どうかした?」
長官が問いかけると、木下副長官は右手で何かをすっと差し出した。
「長官、スマホを落とされてましたよ」
長官はそれを受け取ると笑顔を見せた。
「うん、ありがとう……」
しかし、その笑顔は少し引きつっていて、それを木下副長官は見逃さなかった。
「長官、どうかされましたか?」
「ううん、何でもない」
長官が首を横に振ると、木下副長官は。
「そうですか、では失礼します」
と頭を下げ、踵を返した。
長官はスマホの真っ暗な画面を見つめながら考える。
(私、スマホ落とした記憶無いんだけど……。もしかして、木下副長官に何かを探られた?)
長官は慌ててスマホのロックを解除し、データを確認する。
《通話履歴 10:03 守屋刑事》
「私、三十分前に守屋刑事に電話なんてしてない……。というか、ここ一時間スマホなんて開いてない。ってことはやっぱり、木下副長官はスマホを拾ったんじゃなくて、盗んだんだ……! 木下副長官、あなたは何を企んでいるの?」
長官はそう呟くと、どうしていいのか分からず頭を抱えてしまった。
十三時二十六分、魔法災害隊東京本庁舎エントランス。
昼食を取り終えた響華たちは再び警備に当たっていた。
「いや〜、平和だね〜」
遥が呑気に言う。
「うん、何だか眠くなってきちゃうね」
響華は大きなあくびをした。
「滝川も藤島も、もっと緊張感を持て」
碧が注意すると、遥と響華は。
「「は〜い」」
とだるそうな返事を返した。
「全く、あなたたち。しっかりしておかないと、もしもの時に対応できないわよ?」
芽生が呆れたような表情を見せる。
「あはは……。でも、何も起きないならそれが一番ですけどね」
雪乃の言葉に、芽生は小さく頷いた。
「そうね。眠くなるくらい平和なのはいいことって思っておくわ」
するとそこへ、ダンボール箱を持った男性が入ってきて、エレベーターの方へ向かおうとする。
「あの人、宅配便かな?」
響華がその男性を見ながら呟く。
「分からん。ちょっと聞いてくる」
碧は駆け足でその男性の元へ行き、声をかける。
「すみません、身分を証明できるものとご用件をお聞かせ願えますか?」
しかし男性は、黙って下を向いたまま答えようとしない。
「怪しいな……。答えられないようなら中に入れるわけにはいかないのですが?」
碧が詰め寄ると、男性は急にダンボール箱を床に置き、テープを剥がし始めた。
「碧、気をつけて!」
芽生が言ったのと同時に、男性はダンボール箱の中から何かを取り出した。
「あれは……!」
雪乃が息を呑む。
男性が手に持っていたのは爆弾だった。
「え〜! 爆弾とか誰が頼んだの!?」
遥が驚いて大声を出す。
「絶対宅配じゃないから!」
遥の言葉に響華がツッコミを入れると、周りの人たちも異変に気づき始めた様子で。
「おい、爆弾って言ってなかったか?」
「やばいよ、逃げた方が良くない?」
エントランスはパニック寸前に陥ってしまった。
「建物内で爆発したらまずいな。外に誘導するぞ」
碧が言うと、響華たちがこくりと頷く。
「それじゃあ雪乃ちゃんは先に外に出て避難誘導、その後どこかのビルに登って誰かがダメージを受けた時は上から回復魔法をかけて。芽生ちゃんは後方から指揮を、碧ちゃんと遥ちゃん、私で爆発を止める。これでいい?」
響華の作戦に芽生が首を縦に振る。
「それでいいわ。さすが響華、頼りになるわね」
「じゃあ、私は先に外に行ってますね」
雪乃が外へと走っていく。
「よし、ユッキーも行ったし作戦開始! 魔法目録一条、魔法弾!」
遥が合図を出すと、響華、碧も魔法を唱えた。
「魔法目録二条、魔法光線!」
「魔法目録八条二項、物質変換、弓矢」
それぞれが戦闘態勢を取る。
「最初はこの建物ごとぶっ壊そうかと思ったが、お前らさえ殺せればそれでいい。今度は俺らが反撃する番だ!」
男性はそう叫ぶと、爆弾を持ったままこちらに向かってくる。
「芽生ちゃん、攻撃の指示は任せたよ」
響華が話しかけると、芽生は。
「責任重大ね。でも、任せて」
と自信あり気に答えた。
本庁舎近くのビル、屋上。
高が狙撃銃を構え、エントランスの方を狙っている。
「お、一人出てきたな。だが今あいつを撃つと場所が割れるから後回しだな……」
スコープには雪乃の姿が映っていた。
すると、その横にいたリンファが言う。
「それにあの人はヒーラー、回復要員デス。戦力にはなりまセン」
「なるほど、参考にしておく。確かお前はあの組織に潜入してるんだっけな?」
高が問いかけに、リンファが頷く。
「ハイ。遼寧をスリランカ沖で機能停止に追い込んだ恨みを、ここで晴らさせてもらいマス。では、作戦通りに行きそうなので、私は庁舎に戻りますネ」
リンファはそう告げると、転移魔法で分析室へと戻っていった。
「フッ。この作戦が成功すれば、俺も神に近づける……」
高はスコープを覗き込みながら、不敵な笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます