第46話 最終決戦

 二〇二〇年七月二十六日、十三時三十一分。魔法災害隊東京本庁舎前。

「避難誘導終わりました!」

 雪乃は周囲を確認すると、エントランスにいる芽生に大声で伝える。

「分かったわ! それじゃあ爆弾犯を外に連れ出すから、あなたはどこかのビルの屋上に行って!」

 芽生が大声で返すと、雪乃は大きく頷いて近くのビルへと入っていった。

「響華、遥、準備は平気?」

 芽生が聞くと、二人は首を縦に振った。

「いつでも行けるよ」

「オッケー!」

 芽生は碧に向けてサインを出す。

 碧はこくりと頷くと、物質変換で形成された弓矢を引いた。

「上手く誘導できるといいが……」

 碧の放った矢は爆弾を持った男性の右側をかすめる。

「あぶねぇな! 爆発させてもいいのか?」

 男性は挑発しながら左に躱す。

「よし、待ってました!」

 続けて遥が魔法弾を男性の右の方へ放つ。

 すると男性はまた左に躱す。

「このまま行けば出口よ」

 芽生が呟く。

「これで最後だね。魔法光線!」

 響華が光線を放つ。

 男性は慌てた様子でそれを躱すと。

「ちっ、外に出るしかねぇようだな……」

 諦めたように言って、庁舎の外へと出た。

「私たちも追うぞ」

 碧の言葉に響華と遥、芽生が頷く。

 しかしこの時、プラン通りにいっていないはずの男性はにやりと笑っていた。


 魔法災害隊東京本庁舎、屋上。

 普段人が立ち入ることはないこの場所で、誰かが響華たちと特殊部隊の戦闘を眺めている。共工だ。

「我ノ勝利も近い。ここまで作戦通りニいくとは、桜木芽生もイレギュラーも大したことないナ」

 共工は余裕の表情を浮かべている。

「さて。どんな終わりヲ迎えるのか、我ハここから見届けさせてもらうぞ。フフフ、アハハハハハ!」

 高笑いする共工。だが、その背後に赤い目が光っていることに共工は気づいていなかった。




 爆弾を持った男性は外に出ると、車道の中央分離帯に向かった。

「近づいたらドカーンと爆発させるからな? それでも捕まえたけりゃかかってこい」

 男性は響華たちを煽り続けている。

「くっ、これじゃあ下手に近づけない……」

 響華が悔しそうに唇を噛む。

「でも、あの人は私たちを爆発に巻き込もうとしていた。それなのに何で外に出た途端に近づかせないようにしてるの?」

 芽生がふと疑問を口にする。

 すると遥が、ハッとした表情を見せた。

「違う。あの爆弾男、最初からこうするつもりだったんだ……」

「滝川、それはどういうことだ?」

 碧が首を傾げる。

「爆弾男は私たちが自分を外に追い出すと分かってた。というか、むしろそうなるように仕向けた。だから、私たちは相手の手のひらの上で転がされてたってこと」

 遥の言葉に、響華は驚いて男性の方を見る。

「だとしたら、あの人は次に何をしようとしてるの……?」

 しかし男性は、こちらを見て不敵な笑みを浮かべているだけで、アクションを起こす気配はない。

『ビチューン!』

 その時、レーザーのようなものが目の前を横切った。

「悪りぃ、外しちまった」

 声のした方を見ると、そこにはつくばで襲ってきた特殊部隊と同じ格好をした男性があの銃を持って立っていた。

「まずいわね、八方塞がりだわ……」

 芽生が呟く。

「もしもの時はユッキーの回復魔法があるから大丈夫だって。それより今は作戦を練り直すことが重要でしょ?」

 遥が声をかけると、芽生は首を縦に振る。

「……そうね、私が冷静にならなきゃ。あの苦しさを味わうのは、私だけで十分」

 芽生は自分に言い聞かせるように言うと、指示を出した。

「碧、昨日みたいにあの銃を射抜いて。響華はそのサポート。遥は私と二人で爆弾の方を何とかするわよ」

「分かった」

 芽生の指示を聞いた碧が頷く。

「よし、みんなで守るよ。本庁舎も、あの人たちも」

 響華の言葉で、四人は気合いを入れ直したように戦闘態勢を取った。


 魔法災害隊東京本庁舎、廊下。

 国元が歩いていると、向こうから木下副長官が歩いてきた。

「国元さん、捜査は順調ですか?」

 すれ違いざまに木下副長官が問いかける。

「何の話です? 僕はただのドライバーだって、前もお話ししたじゃないですか?」

 国元は立ち止まって答える。

 木下副長官も足を止め、さらに質問する。

「では、聞き方を変えましょう。国元さん、あなたは公安警察のスパイですね?」

「……だとしたら?」

 国元が聞き返す。

 すると木下副長官は追及をやめ、話を変えた。

「答える気は無いようですね。ですが、あなたに一つ伝えておきましょう。ユー・リンファは公民党の第三執行官です。捕まえるなら今のうちですよ」

 それを聞いた国元は。

「それはどうも」

 と嫌みっぽく言った。

 木下副長官が黙ってその場を去る。

(木下副長官は公民党の執行官で間違いなさそうですね。でも、なぜ仲間を売るようなことを……?)

 国元は疑問に思ったが、木下副長官の後ろ姿をじっと見つめるだけで探ろうとはしなかった。




 魔法災害隊東京本庁舎、屋上。

「勝った気デいるところ悪いが、そなたハ負けだ」

 後ろから声をかけられた共工が慌てて振り返る。

「久しいナ、共工」

 そこにいたのは、アマテラスだった。

「アマテラス、読んでいたのか?」

 共工が驚いた様子を見せる。

「然り。そなたノ動きなど簡単すぎて読むトいうほどでも無いわ」

 馬鹿にしたように言うアマテラスに、共工が言い返す。

「そういうアマテラスは、イレギュラーの動きは読めているのカ?」

 するとアマテラスは、開き直ったように答える。

「読めヌ。だからこそイレギュラーなのダ」

「そうカ、まあいい。それで、アマテラスは我に何の用ダ?」

 共工が問いかける。

 それに対して、アマテラスはフッと笑って一言。

「ちょっとそなたを倒しにナ」

 と言って、急に攻撃を繰り出した。

『ドカーン!』

 アマテラスの手から魔法光線が放たれ、共工の体に命中する。

「グ、グワァ……! 何をスル!」

 共工は衝撃で吹き飛ばされ地面に打ち付けられる。

 アマテラスはゆっくりと歩み寄り、さらに攻撃を打ち込む。

『ドカーン!』

「グ、ウゥ……」

 共工は立ち上がることもできず、地面に倒れたまま静かに目を閉じた。

 共工の体は光を放ち、消滅していく。

「これで東アジアは我のものダ。フフフフフ……」

 その様子を見届けたアマテラスは、そう呟いてどこかへ転移していった。


 魔法災害隊東京本庁舎前、桜田通り。

 響華たちと特殊部隊の戦闘は続いていた。

『ビチューン!』

『ドカン!』

 レーザーを響華の魔法防壁で防ぎつつ、碧が矢で銃を射抜こうと試みる。

「手強いな……」

 しかし、相手もかなり身体能力が高く、碧の矢はことごとく躱されてしまう。

「どうする? 碧ちゃんは自分で射抜けるって思う?」

 響華が聞くと、碧は。

「そうだな……。難しいとは思うが、やらせてくれ」

 と答え、弓を構えた。

「分かった。限界になったら言ってね」

 響華は碧の強い意志を感じ、サポートに徹することにした。

「魔法目録三条、魔法防壁」

『ビチューン!』

『ドカン!』

 響華が魔法防壁を展開すると、レーザーで撃たれすぐに壊される。

「今だ」

 その隙に碧が矢を放つ。

 ここまでは何度も繰り返してきた展開だ。だが、ここから今までとは大きく異なる展開になった。

「甘いな」

 特殊部隊の男性はそれをひらりと躱そうとする。

 しかしその時、魔法弾が男性の体に当たり体勢を崩した。

「何……!」

 男性は魔法弾の直撃に、思わず銃を落としてしまった。

「もらったぞ」

 碧がその銃に向かって矢を放つ。

『カシャン!』

 その矢は見事に銃を射抜き、粉々に砕け散った。

「く、くそっ!」

 男性が膝から崩れ落ちる。

「ありがとう、遥ちゃん」

 響華が遥に微笑みかける。

「うん、気にしないで」

 遥は笑顔で頷くと、再び芽生と共に爆弾犯との戦闘に戻った。


「ねえ、遥? 人の心配もいいけど、私たちもピンチなのよ?」

 響華の方を見ている遥に、芽生が話しかける。

「ごめん。向こうは限界っぽかったから、見てられなくて」

 遥は申し訳なさそうに言う。

「確かに、響華と碧はかなり消耗していた。悪い判断ではなかったと思うわ」

 芽生が褒めると、遥は照れ臭そうに頭を掻いた。

「いや〜、やっぱりメイメイに褒めてもらえると嬉しいよね〜」

「馬鹿なこと言ってないで、早くあの爆弾をどうにかしなさいよ」

 芽生が少し怒った表情を見せる。

「分かってる、何とかする。したい、けどさ……」

 遥は爆弾犯の方を見遣る。

 爆弾犯は不敵な笑みを浮かべ、こちらの様子をじっと眺めている。

「あの人、何でそんな余裕なのよ……」

 芽生はあまりの不気味さに恐怖を感じた。

 すると突然、爆弾犯がしびれを切らしたように声を上げた。

「そっちが来ねぇなら、こっちから行かせてもらうぜ」

 爆弾犯はポケットからあの銃を取り出し、こちらに向ける。

「まずい! メイメイ下がって!」

 遥は芽生を庇うように前に立つと、魔法を唱えた。

「魔法目録三条、魔法防壁!」

 しかし、防壁を展開する前に銃口からレーザーが放たれる。

『ビチューン!』

 そのレーザーは目にも留まらぬ速さで突き進み、遥の胸部を撃ち抜いた。

「ぐわぁっ!」

 遥が苦しそうに撃たれた箇所を押さえながら、その場に倒れ込む。

「遥!」

「遥ちゃん!」

「滝川!」

 真後ろで見ていた芽生と、男性を取り押さえていた響華と碧が一斉に叫ぶ。

「……ごめん、久々に、ミスっちゃった。あはは……」

 遥は無理に笑顔を作りそう呟くと、意識を失ってしまった。

「遥? ねえ遥! 目を覚まして!」

 芽生は必死に遥の体を揺するが、遥はぐったりとしたまま動かなかった。


 その光景を近くのビルの屋上からスコープ越しに見ていた高は、待ってましたとばかりに体勢を整え直す。

「一発で仕留める……」

 高は芽生に照準を合わせると。

「ゲームセットだ」

 そう言って引き金に指をかけた。

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