第17話 バトルロイヤルゲーム
シナイ王国首都シャルル・エム・シェイク、リゾートホテル会議場。
四人はシナイ政府の男性から、覇権戦争のルール説明を受けることになった。
「まずはフィールドについて説明します。フィールドというのは戦闘可能エリアのことで、この国の半分がそれに指定されています。フィールド外で攻撃を行った場合、その国は失格となりますので注意してください。ただし正当防衛に限りフィールド外での武器使用を認めるものとします。また、フィールドの中には町や建物が点在していて、そこを制圧することで付近一帯を領地とすることができます。王宮の周辺も都市になっていますが、こちらは建物レベルでの制圧しかできないのでその点はご注意ください。ここまでで何か質問は?」
男性が問いかけると響華が手を挙げた。
「あの、質問とはちょっと違うかもしれないんですけど、私たちが乗っていた船が中国軍に襲われたんですけどそれはルール上どうなるんですか?」
「それはどこの海域での出来事ですか?」
「確かスリランカ沖です」
「少々お待ちください」
男性は資料のようなものをペラペラとめくる。
「えーとですね……フィールド外での攻撃は失格行為なのですが、スリランカ沖となりますとシナイの領海ではないので覇権戦争のルールが及ぶ範囲ではないんですね。こちらからも中国政府の方に警告はさせていただきますが、失格にすることはできないかと思われます」
「そうですか、ありがとうございます」
響華は軽く頭を下げた。
「では続いてですね、物資補給についての説明となります。武器に関してはあなた達の場合は魔法能力での戦闘ということなので簡略にさせていただきますが、町や建物内にいくつかポイントがありましてそちらの方で銃、弾薬、防弾チョッキなどを手に入れることができます。まあ防弾チョッキくらいは確保しておいてもいいかもしれませんね。食料に関してですがこちらは首都からヘリで輸送する形となります。皆さんの居場所は常に衛星通信によって伝えられますので確実にそちらに届くようになっています。もし苦手なもの、アレルギー、宗教上食べられないものなどあれば教えていただければと思いますが、そういったものある方いらっしゃいますか?」
「特に無いです」
四人は首を横に振る。
「分かりました。では何かございましたらその時にまた教えていただければと思います。最後にですね、王宮に到達した際の注意事項をお伝えしたいと思います。王宮の中に入った時点で勝者と認められます。ですので、入口のところで油断して後ろから攻撃を受けるということのないようにお気をつけください。王宮に入りましたら女王ラーの指示に従っていただければと思います。説明は以上となりますが、改めて質問等ございますか?」
四人は顔を見合わせる。
「大丈夫です」
男性は腕時計を確認すると立ち上がった。
「では本日はこれで。また明日フィールドまでお送りする際にお会いしましょう。ロビーの方でお伝えいただければお部屋の方へはスタッフにご案内していただけると思います」
「ありがとうございました」
四人も立ち上がり礼を述べる。男性は笑顔で会釈をすると会議場を後にした。
ロビーに向かった四人はホテルのスタッフに声をかけた。
「すみません、シナイ政府の人にこちらで声をかけるよう言われたんですが」
「日本からの来賓ですね。今ご案内します」
スタッフはフロントで鍵を手にすると、四人を部屋まで案内する。
「どんな部屋だろうね?」
響華は期待に胸を膨らませる。
「こちらになります」
スタッフが案内したのは最上階のいかにも高級そうな一室だった。
「って、ここスイートルームって書いてあるじゃん!」
遥が扉の文字を見て大声を出す。
「こら滝川、静かに」
碧が遥を落ち着かせる。
「お食事は下の食堂にご用意いたしますので六時以降にお越しください」
スタッフは一礼してロビーへと戻っていった。
スイートルームは部屋も広く、設備も充実していた。窓からはシャルル・エム・シェイクの街を見下ろすことができ、遠くにはシナイ政府の男性が説明していたフィールドも見ることができた。
「こうやって見ると普通の国なのにね」
響華がフィールドを眺めて言う。
「そうだな。だがこの国の半分は魔獣のためにあるようなもの。それはかなり異常だ」
「ええ。そのことを国民、いえ世界中のほとんどの人が知らないというのがまた不気味ね」
碧と芽生は響華の横に立つと窓の外を睨むように見つめた。
「なんか難しい話してそうだから私先にお風呂入っちゃうね?」
「うん、いいよ」
遥はスーツケースから着替えを取り出すとバスルームへと向かった。イージス艦にも一応シャワールームはあったが、全然落ち着けるようなものではなかった。実質一週間ぶりの入浴といってもいい。
「うわぁ、めっちゃすごい!」
スイートルームのバスルームというだけあって、ミストやジャグジーなど至れり尽くせりである。
「あ〜気持ちいい〜……」
バスタブに浸かった遥は全身の疲れが一気に取れたような気分だった。
「……」
「…………」
「………………」
広いバスタブに一人で入っていると、ついつい考え事をしてしまう。こういう時ほど良くないことを考えてしまうものである。
「ユッキー、どこにいるのかな……? ちゃんとお風呂とか入れてるかな……」
遥は人前では笑顔で振舞っているが、本心は雪乃のことが心配でたまらなかった。
「ユッキー、会いたいよ…………」
遥はポツリと呟いた。
すると突然バスルームのドアが開いた。
「うわあ何!?」
遥は驚いて声を上げる。
「ごめん驚かせちゃった?」
「なんだ響華っちか〜。びっくりさせないでよ、も〜」
入ってきたのは響華だった。
「一緒に入ってもいい?」
「あっ、うん。いいよ」
響華はバスタブに入ると遥の横に座った。
「遥ちゃんと一緒にお風呂なんて久しぶりだよね?」
「あれ? 響華っちと一緒に入ったことあったっけ?」
「もう覚えてないの〜?」
響華は頬を膨らませる。
「ごめんって。私って今を生きてるからさ、過去とかすぐ忘れちゃうんだよ」
遥は適当なことを言ってごまかす。
「遥ちゃん、本当に覚えてないんだ。私たちが養成校に入って最初の頃、山梨に合宿に行ったことあったでしょ?」
「あ〜、そういえばそんなこともあったかな」
遥はまだ思い出せない様子。
「その時私と遥ちゃんと雪乃ちゃんが同じ班になって、泊まる部屋が一緒だったでしょ? それで私が遥ちゃんに一緒に入ろうって誘って一緒に入ったんだけど、覚えてない?」
それを聞いた遥がポンと手を打った。
「思い出した! 確かあの時ユッキーに断られてしょうがなく、じゃなくてせっかくだから響華っちともお近づきになりたいなって一緒に入ることにしたんだっけ」
「いや遥ちゃんの事情は知らないけど。思い出した?」
「うん、懐かしいね〜」
遥は懐かしむように言う。
「あれから随分仲良くなったよね」
響華が遥に微笑みかける。
「そうだね。キャリアクラス五人の絆は永遠だね」
「永遠は言い過ぎだよ〜」
二人は笑った。だが、遥は五人という言葉で雪乃のことが脳裏をよぎり、心から笑うことができなかった。響華はそれを見逃さなかった。
「ねえ遥ちゃん? やっぱり雪乃ちゃんのこと、ずっと心配なんだよね?」
遥は俯いて答える。
「うん、そりゃそうだよ。だって中学校からの親友だよ? 気にならないわけないよ」
「だよね。でも遥ちゃん、そういうのあんまり表に出さないよね? 辛くならないの?」
「みんなだってクラスメイトが一人いなくなって辛いだろうなって思うし、それに……」
「それに?」
「きっと私が暗い顔してたら、ユッキーに何か言われそうだから」
遥は顔を上げると、ニコッと笑った。
「さっ、暗い話はおしまい! せっかく美味しい夕食が待ってるのにのぼせちゃったら台無しだからね」
遥はそう言ってお風呂から上がった。
夕方六時を回り、夕食の時間だ。四人が食堂に向かうと、そこには豪華な料理がずらっと並べられていた。
「これ全部食べ放題!?」
「寿司やそばもあるじゃないか」
「こっちにはスイーツもあるわよ」
「どれから食べようかな〜?」
四人は料理を前に目を輝かせる。
「日本からの来賓ということで日本食もご用意させていただきました。お口に合うといいのですが……」
厨房からシェフが出てきて四人に話しかける。
「どれも美味しそうで迷っちゃいます!」
響華は満面の笑みを浮かべる。
「ありがたいお言葉です。それと明日以降のお食事も私たちで担当させていただくのですが、おにぎりのような手軽に食べられるものの方がよろしいでしょうか?」
シェフの質問に響華が疑問を抱いた。
「あの、おにぎりとかってどこで知ったんですか?」
「もう一人シナイに滞在されている日本の方がいらっしゃいまして、そちらの方が」
シェフの言葉に、四人は同じことを頭に浮かべた。
(もしかして、雪乃ちゃん!?)
(北見か?)
(雪乃?)
(ユッキー!?)
四人は顔を見合わせる。
「それってどんな人ですか?」
響華が詰め寄る。詰め寄られている理由が分からないシェフは、少し引き気味に答えた。
「えっと、皆さんと同じくらいの女性で、髪は短めで、物静かな感じの方です」
その特徴は雪乃そのものだった。四人は確信した。シナイ王国のどこかに雪乃がいると。
翌朝、二〇二〇年二月二十二日。
この日の朝もリゾートホテルの食堂で豪華な朝食バイキングを食べすっかり満足した四人は、いよいよ覇権戦争の行われているフィールドへと足を踏み入れることになった。
「皆さん、準備はよろしいですね?」
シナイ政府の男性が車で迎えに来ていた。
「はい、大丈夫です」
四人が頷くと、男性は車のドアを開けた。
「では、フィールドの入り口までお連れします。そこから先は皆さんの力だけで進んでいただくことになりますので、お困りのことがあれば今のうちにお伝えいただければと思います」
四人が車に乗り込んだ車は、一路フィールドへと走り出した。
「あの、私たち以外に参加している日本人っていますか?」
響華が聞くと、男性は一瞬動揺を見せた。
「いえ、何のことでしょう?」
明らかにこの人は何かを知っている。
「私たちくらいの女の子、この国にいますよね?」
「さあ、私の知る範囲ではいなかったと認識していますが」
はぐらかされているのは明白だったが、あまり深追いすると危険な気がした響華は。
「いえ、なんでもないです」
そう言って追求することを諦めた。
一時間後。シャルル・エム・シェイクから北へ五十キロほどのところで車が停まった。
「ここがフィールドの入り口になります」
四人は車を降りて驚いた。
「この先全部ですか!?」
通行禁止と書かれた柵の先には広大な荒野が広がっていた。
「はい。国土の半分以上がフィールドですので、内陸はほぼ全てフィールドと言っていいでしょう。ただ王宮までは歩きでも一週間あれば到達できると思いますのでご安心ください」
男性はそう言うが、アメリカ、ロシア、中国の軍がいまだに戦いを繰り広げているところから、そう簡単なものではないと容易に想像できた。
「では私はこれで。勝者が確定した時点、もしくは棄権した時点でお迎えにあがりますのでその時にまたお会いしましょう」
「ありがとうございました」
四人が頭を下げると、男性は車に乗り込み来た道を戻っていった。
「じゃあ、入るよ?」
響華は通行禁止の柵の隙間から恐る恐る中に入った。三人もそれに続いて中へ入る。
「なんか本当にスマホのバトロワゲームみたい……」
遥が周りを見渡して呟く。
「こういうゲームがあるのか?」
ゲームに詳しくない碧が聞く。
「百人くらいのプレイヤーがマップにいて、武器を拾いながら最後の一人になるまで戦うっていうゲームが今流行ってるんだよ。そのマップに似てるなって」
「それは、随分と物騒なゲームだな……」
碧はあまり理解できないようだった。
「でもここはリアルの世界。撃たれれば血は出るし、死んでもリスポーンとはいかないのよ?」
芽生の言葉に遥は頷く。
「分かってるよ。それに、ユッキーがいるかもしれないなら死ぬわけにはいかないよ!」
響華も続けて言う。
「雪乃ちゃんも、この国の国民も、世界の人たちも、全部助けよう!」
四人は地図上で一番近い町、アルマディナット・アル・アウラーへと歩き出した。
東京、国会議事堂。
「先進デジタル技術プロジェクト予算案、賛成の方はご起立願います」
公民党、九州みらい党の議員と他数名が立ち上がる。
「賛成多数、可決成立となりました」
「続いて、憲法改正法案、賛成の方はご起立願います」
ヤジや怒りの声が飛び交う中、公民党と数名の議員が立ち上がる。しかし九州みらい党の議員は誰も立ち上がらなかった。
「反対多数、否決となりました」
公民党の議員がどよめく。
この時、神谷総裁は水瀬支局長を睨みつけていた。
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