第5話 上野魔法爆発
地下鉄上野駅。
「なに……これ……」
五人は言葉を失った。
魔法爆発の起きた現場は、地獄のような光景だった。多数のけが人、散乱した車両の破片、崩れた天井。一目見ただけでかなり大きな爆発だったことは、容易に想像がつく。
「なんで、地下でこんな災害が……」
響華が声を震わせて言う。
「屋内や地下空間では魔法災害は起こらない、起こるはずがない、それが今までの常識だった」
芽生が呟くと、碧がそれに続ける。
「だが、その常識は崩壊した」
すると遥と雪乃は、怯えた顔で言った。
「それってつまり……、いやコワすぎて口に出したくないんだけど」
「安全圏は無くなった……そういうことですよね?」
五人は息をのむ。
魔法災害というのは屋外でしか起こらないというのが常識で、それは研究でも実証されている。しかし、今目の前に広がる光景はそれを根本から覆すものである。つまり、今までの魔法災害対策では対抗できなくなるという、恐ろしい状況なのだ。
「とりあえず、原因を探らないことには始まらないな」
「そうね。私たちが怖がっていては国民はもっと不安になるわ」
碧と芽生はなんとか心を落ち着かせると、ホームの奥へと進む。
「私たちも、行かなきゃだよね」
「ユッキー、大丈夫?」
「はい、仕事ですから、やります」
響華、遥、雪乃も二人の後を追った。
「一番ひどい箇所はこの辺だな」
「ええ、おそらくこの車両が爆発の中心ね」
碧と芽生が四両目のあたりで立ち止まると、三人も続いてやってきた。
「うわ何これ! 電車の半分吹っ飛んでるじゃん!」
遥が大きな声を上げ驚く。
「この状況から見て、爆発があったのはホーム側ではなく電車の方のようね」
芽生は遥の言葉を気にする様子もなく、冷静に分析を始める。
「でも電車の中にここまでの爆発を引き起こすような魔法物質が発生するってありえないよね?」
響華が芽生に聞いた。
「そうね、まずその原因を突き止めなくちゃね」
「う〜ん、混雑具合は関係ないし……、え〜と」
響華は頭をフル回転させて考えるも、原因が全く思いつかない。その時、碧が口を開いた。
「もしかして、昨日の練馬の災害と関係あるんじゃないか?」
それを聞いた雪乃は。
「それは十分あり得ると思います。ただその場合、災害ではなく事件の可能性が出てくるわけですが……」
少し顔を曇らせた。
「一旦本庁に戻って局長に判断を仰いだ方が良さそうだな」
「そうね。これは見習いの私たちが扱えるようなものじゃないわ」
現場を見終えた碧と芽生は二人で相談すると、三人に伝える。
「じゃあ一旦退散ってことで」
遥がそう言うと響華と雪乃も頷き、五人は駅の外へと向かった。
『予定を変更して引き続きニュースをお伝えします。上野駅で大規模な魔法爆発があり多数の負傷者が出ています。駅員によりますと、爆発があったのは地下鉄入谷線上野駅の上りホーム、電車が到着した瞬間だったということで、現在魔法災害隊が詳しい災害原因の調査を行なっています』
駅前の街頭ビジョンには緊急ニュースが流れていた。周りにも報道陣が集まっている。
「さすがにこれはおおごとになってきたな」
その様子を見た碧が呟くと、芽生が頷いて言う。
「そうね。でも魔法犯罪の可能性があると言ったらもっと大きな騒ぎになるわよ」
車に戻ると国元が電話で連絡を受けていた。相手は長官のようだ。
「どうしたんですか?」
響華が国元に聞く。
「長官曰く、皆さんにはこれから警視庁に向かってほしいとのことです」
「私たちがですか?」
「もちろん無理にとは言わないと言っていましたが」
「いえ、任せてください」
一瞬驚いた響華だったが、すぐに力強く頷いた。それを見た国元は。
「それでは、車出しますね」
そう言って車を発進させた。
「警視庁ということは警察も魔法犯罪であると考えているのか?」
碧が呟くと、芽生が答える。
「そうね。少なくとも疑っていることは確かでしょうね」
五人を乗せた車は、警視庁へと向かっていった。
警視庁に着くと一人の女性が待っていた。
「あなたたちが進藤長官の言っていたプラチナ世代ね」
その女性は五人を見ると優しい顔で話しかけた。
「こんにちは! あの、お勤めご苦労様です!」
響華がぎこちなく敬礼をする。
「ふふ、敬礼はこうじゃなくて、こう」
女性は響華の手を取ると、正しい位置と角度に直した。
「あっ、すみません」
響華は慌てて謝る。
「いいよ、気にしなくて。それにそんなに気を使わないで。私、大した役職じゃないから」
「あの〜、失礼ですがあなたは?」
碧が恐る恐る女性に問いかける。
「私は警視庁魔法犯罪対策室の刑事、
魔法犯罪対策室というと、魔法や魔法能力者に関連した事件を取り扱う部署で、配属される刑事には高度な知識と優れた能力が求められる。つまり彼女はかなりのエリートということになる。
「これは失礼いたしました!」
碧は慌てて頭を下げる。
「だから気を使わないでって。あなたたちはまだ高校生なんだから、もっと自由にやって。こっちが疲れるから」
「では、そうさせていただきます」
碧はそう答えたものの、どう接していいか分からないようだった。その様子を見た遥が碧に話しかける。
「アオ、それじゃまだ堅苦しいよ? 自由にって言ってるんだからもっと自由でいいんだよ」
「いや、自由と言っても節度というものが……」
碧が遥の言葉を否定しようとするとそれを遮るように遥が言う。
「も〜ホント堅すぎ! 何も気にせずガッと行っちゃえばいいんだよ。見てて」
遥が守屋刑事に歩み寄る。
「ねえ刑事さん?」
「どうしたの?」
守屋刑事が遥の方を向く。
「刑事さんのこと、みーちゃんって呼んでいい?」
これには碧のみならず、雪乃と芽生、更には響華までも固まってしまった。四人は怒られると思い目をぎゅっと閉じた。しかし聞こえてきたのは守屋刑事の優しい声だった。
「都だからみーちゃんね。ええ、別に構わないわ」
「じゃあみーちゃん、末永くよろしくお願いします!」
「フフ、よろしくね」
四人は守屋刑事の懐の広さに驚いた。
「ね? 自由で大丈夫だったでしょ?」
遥が碧に言う。
「いや大丈夫とかではないだろう」
碧は呆れたように言い返した。
「あなたたちも好きに呼んでいいからね」
その様子を見ていた守屋刑事は他の四人にもそう言うと。
「じゃあ早く本題に入らないとね。対策室まで案内するわ」
エレベーターの方へと歩き出した。
守屋刑事と五人がエレベーターホールに着くと、先に男性がエレベーターを待っていた。
「お疲れ様です」
響華がその男性に挨拶をした。するとその男性は、五人の顔を睨むように見ると守屋刑事に向かって不満げな顔で言う。
「全く、これだから魔犯対策室は。警視庁に女子高生引き連れてくるとはな。今日の一件が無ければもう廃止になってたろうに」
その言葉を聞いた遥は、男性の胸ぐらを掴んで怒りをぶつけた。
「ちょっと、そんな言い方ないんじゃないですか? もし対策室がなかったら今日の事件はどうやって解決するんですか?」
「おいおい、警察に喧嘩を売っちゃあいけないよ?」
男性は遥を煽るように言い返す。
「ねえ遥ちゃんやめようよ」
ヒートアップする二人の間に響華が割って入る。男性はバカにしたような目で遥を見ると、一人エレベーターに乗って行ってしまった。
「あんなやつ許せない! 対策室はエリートしか配属されないんでしょ? ただの嫌味じゃん!」
遥の怒りは全く収まっていない様子。それを見た守屋刑事はなだめるように言った。
「いいの。魔犯の扱いなんてこんなものよ」
「なぜですか?」
碧が問いかける。
「なぜもなにも十年前に比べて魔法犯罪は格段に減ってる。それに今日の事件が今年最初の魔法犯罪よ? 半年以上何もしてない部署、いらないって思うのが普通でしょ?」
すると雪乃が首を振って言った。
「それは違うと思います。何も起こらないことが理想ではありますけど、いつ何が起こるかは分からないじゃないですか。だから、もしものために備えている人間は必要だと思うんです」
芽生も雪乃の言葉に賛同する。
「ええ、あなたの言う通りだわ。狙撃部隊やドローン部隊だって、国賓来日だのサミットだので配備されてるけど、実際に出動したケースはほとんど無いわ。だけどもしもの時には絶対に必要になる。だから守屋さん、そう悲観しないで」
二人の言葉に守屋刑事は笑顔を見せて返す。
「あなたたちは優しいのね。進藤長官から聞いた通りだわ」
「えっ、聞いたってどう聞いたんですか?」
響華が守屋刑事の顔を見る。
「まだ高校生だけど強くて優しくて、日本の未来を託せるような五人だって、そう聞いたわ。会うまでは不安だったけど、その通りね」
「みーちゃん、そんな大げさですよ〜」
いつの間に怒りが収まったのか、遥が満面の笑みで謙遜する。すると碧が遥にツッコミを入れた。
「お前、本気でそのあだ名で呼ぶ気だったのか」
「アハハハ!」
五人と守屋刑事は大笑いした。すっかり嫌な気持ちも忘れたところで、守屋刑事が思い出したように本題を切り出す。
「そうだ、のんびりしている場合じゃなかったわね。上野の魔法災害、あなたたちはどう思う?」
五人は顔を見合わせる。そして碧が一歩前に出て言う。
「今日の上野の災害は、魔法犯罪だと、そう思います」
「分かったわ。じゃあ魔犯と協力関係成立ね。詳しい話は対策室で聞くわ」
守屋刑事と五人はエレベーターに乗り込み、魔法犯罪対策室へと向かった。
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