第3話 練馬同時多発災害
環八通り、練馬高野台駅付近。
「おそらくこの辺りです」
国元が車を停める。
「ありがとうございます」
五人は国元に礼を言い車から降りると、スマホを取り出し災害発生地点を確認する。
「うわなにこの数。印だらけじゃん!」
想像を上回る多さに思わず声を上げる遥。
「これは二手に別れた方が良さそうね」
「そうだな。お前は藤島と北見、私は滝川と行動する」
「分かったわ」
芽生と碧が作戦を考える。それを聞いた響華と雪乃、遥は。
「それが一番良さそうだね」
「そうですね」
「オッケー。メイメイとアオの指示は完璧だね」
コクリと頷いた。
「では、作戦を始める。お前たち、準備はいいな?」
碧が四人に問いかける。
「ええ」
「うん」
「はい」
「もちろん!」
五人は作戦通り、二手に別れて行動を開始した。
碧と遥が向かったのは、環八通りから一本入った、住宅が多く建ち並ぶエリア。
「こんなところに魔獣が出るなんて珍しいね」
遥はスマホを見ながら碧に話しかける。
「ああ、過去にここまで狭い路地に魔獣が現れたなんて話は聞いたことがないな」
碧は周りを警戒しながら答える。その時。
「グルルルル……」
突然どこかから魔獣のうめき声が聞こえて来た。
「静かに!近くにいるぞ」
碧が遥に注意を促す。
近くの植え込みがガサガサと音を立て始める。するとその瞬間、魔獣が二人をめがけて飛びかかって来た。
「うわ危なっ!」
思わず声を上げる遥。
「おい滝川、大丈夫か?」
「うん、ヘーキ」
なんとかかわした二人だったが、魔獣はその隙を逃すまいと反転してこちらに向かって来る。二人は体勢を立て直すと、すかさず魔法を唱えた。
「魔法目録八条二項、物質変換、弓矢」
碧が指先に神経を集中させると、魔法物質が集まってきて徐々に弓矢の形を形成していく。
「魔法目録一条、魔法弾!」
遥が右手を後ろに引くと、魔法物質が球状に集まり大きな球体になっていった。
魔獣の位置を確認した碧は、弓矢が形成されると素早く手に取り構える。
「くらえ!」
碧の放った矢は、目の前まで迫っていた魔獣の額に突き刺さった。
「グワアア!」
魔獣の動きが止まる。それを見た遥は。
「よし、やっちゃえ〜!」
右手に持った魔法物質の球体を、思い切り投げつけた。
ドカーン! 大きな音が響き渡ると、衝撃波が二人を襲う。
「お前! 力加減考えろ!」
碧は衝撃に耐えながら怒る。
「ゴメンって〜」
遥は吹き飛ばされそうになりながら必死に謝った。
衝撃がおさまると、魔獣は跡形もなく消滅していた。
「とりあえず一体撃破!」
遥がガッツポーズをする。
「おい滝川、早く次に行くぞ」
しかし碧は、すでに次の魔獣を探しているようだった。
一方その頃、響華と雪乃、芽生の三人は、練馬高野台駅のロータリーにいた。
「倒しても倒してもキリがないよ〜」
魔獣との連続の交戦に、響華が愚痴をこぼす。
「確かに、少し疲れてきましたね。」
雪乃が袖で汗を拭う。
「でも、まだ休ませてもらえないみたいよ」
芽生の視線をたどると、そこにはこちらを睨みつける巨大な魔獣がいた。
「いやいくら何でも大きすぎない!?」
あまりの大きさに驚く響華。
「これ、どうやって倒せばいいんでしょうか?」
雪乃は芽生に問いかける。
「そうね……」
しばらく考え込んだ芽生は、ゆっくりと口を開いた。
「これはあくまで私の考えだから、もっと他に方法があるかもしれないけど……」
「大丈夫です、教えてください」
雪乃のその言葉に頷くと、芽生は考えを話し始める。
「まず、あなたが物質変換銃で撃って怯ませる、その次に私が物質変換刀で斬りかかってキズを入れる。最後にそのキズに響華が魔法光線を撃ち込めば、おそらくだけど倒せると思うわ」
雪乃はそれを聞くと、響華に話しかける。
「藤島さん、今の桜木さんの意見、どう思いますか?」
響華は視線をこちらに向けると、真剣な表情で返事をした。
「うん、それで行こう」
三人はお互いの顔を見て頷くと、一斉に行動を始めた。
芽生の作戦通り、まずは雪乃が魔法を唱える。
「魔法目録八条二項、物質変換、狙撃銃」
手元にスナイパーライフルが形成されると、それを手に取り構える。
「行きます!」
雪乃は魔獣に照準を合わせると、引き金を引いた。
「グギャアアア!」
雪乃の放った弾丸は、見事魔獣に命中した。
続けて、芽生が魔法を唱える。
「魔法目録八条二項、物質変換、打刀」
手元に日本刀風の刀が形成されると、すかさずそれを手に取り魔獣に向かって走り出す。
「響華、準備できてる?」
「うん、いつでも」
響華の返事を聞いた芽生は、魔獣の腹部に勢いよく斬りかかった。
「ギャアアア……!」
大きなダメージを負い動きの鈍った魔獣に、響華はトドメを刺しにかかる。
「くらえ、魔法光線!」
響華の手から放たれた光線は、芽生に斬られた腹部のキズに命中した。
「グオオオオ…………」
魔獣は苦しそうな声を上げると、その場に倒れこむ。するとその瞬間、魔獣の体は分解をはじめ、程なく消滅した。
「あ〜、疲れた〜……」
その場にしゃがみ込む響華に、雪乃が声をかける。
「藤島さん、大丈夫ですか?」
「うん、平気。でも少し休ませて……」
響華は笑顔を見せるも、疲労の色は隠せていなかった。
「あなたたちは休んでていいわ。私は碧に電話してくるから」
そう言うと芽生は、スマホを取り出し碧に電話をかける。
「もしもし? 今大丈夫?」
『ああ、付近の魔獣はひと通り片付けた。そっちはどうだ?』
「私たちも倒しきったわ」
『じゃあ駅前で合流しよう』
「分かったわ」
どうやらこの付近に大量に現れた魔獣は全て倒しきったようだ。芽生は電話を切ると響華と雪乃の元へ向かう。
「二人とも、向こうも無事倒しきったそうよ」
その言葉に響華は安堵の表情を浮かべた。
「そうだ、国元さんにも連絡しておかないとね。ちょっと待ってて」
芽生はもう一度電話をかけに行く。
「新海さんと滝川さん、場所分かるでしょうか? ちょっと様子見てきますね」
雪乃も碧と遥を迎えに、その場を離れる。
「あれ、みんなどっか行っちゃった……」
響華だけがそこに取り残される。
「あ〜、本当に疲れた〜」
響華は大きくため息をつき、その場に座り込んだ。その時。
「…………」
「ん? 誰かいる?」
何か気配を感じた響華が振り返ると、一瞬人影のようなものが目に入った。
「こんなところに人?」
このロータリーには先ほどまで巨大な魔獣がいた上、周りにも無数の魔獣がうろうろしていた。住人や通行人は避難しているはずで、そんなすぐにここに来られるはずがない。だとしたらあの人影はなんだったのか。色々と考えを巡らせる響華。
「藤島さん、二人が来ましたよ」
雪乃に連れられ、遥と碧がやって来る。
「お〜い響華っち! 響華っち? ねえ聞いてる?」
「うわあ!」
人影の存在が気になりすぎて周りの音も聞こえなくなるほど考え込んでいたようで、遥の声に響華は思わず腰を抜かしてしまった。
「どうした、そんなにボ〜ッとして?」
碧が心配そうに問いかける。
「ごめん、考え事してて……」
「藤島さん、何かありましたか?」
雪乃もその様子が気になるようだった。
「あのね、さっきその辺に人影が見えた気がするんだけど……、気のせいかな?」
響華は確信を持てないのか、徐々に声が小さくなる。
「え? 人影?」
遥が響華に聞き返す。
「そう、人影が見えた気がしたんだけどな〜」
響華はもう一度その時の記憶を思い起こすも、やはり確信が持てない。
「藤島、疲れてるんだろう。今日はもう休め」
碧は響華が疲れで幻覚を見たと判断したのだろう。
「そうですね。かなり頑張ってましたもんね」
雪乃も碧の言葉に頷くと、響華のことを優しくねぎらった。
「ああ、もう合流してたのね」
芽生が戻って来る。
「国元さん、今こちらに車を回してるそうよ」
「さっすがメイメイ、仕事が早いねぇ〜」
遥が芽生を肘で小突いた。
「そういえば、桜木さんは人影とかって見ました? 藤島さんが見たって言ってたんですけど……」
雪乃は人影について芽生にも聞いてみる。
「人影? 見てないわね」
「そうですよね。すみません、変なこと聞いて」
雪乃は気にしないでと笑う。
「見たって言うのは響華でしょ? あなたこそあまり気にしなくていいと思うわ」
芽生は、響華の言葉を少し気にしている様子の雪乃にそう言って微笑んだ。
しばらくするとロータリーに車が入って来た。
「お〜い、国元さ〜ん!」
遥が両手を振りながら叫ぶ。
国元は車を五人の横に停め降りて来た。
「任務お疲れ様でした。大変でしたよね?」
「お気遣いありがとうございます」
国元の言葉に碧は礼を述べる。すると横で響華が駄々をこねはじめた。
「もう早く帰りたいよ〜」
それを見た国元は後ろのドアを開けながら言う。
「そうですよね、じゃあ皆さん車に乗ってください」
五人は車に乗ると、気が抜けたのかすぐに眠ってしまった。
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