絶望少女の治療法

@Kata-yu

第1話

爽やかな風の吹く春のある日、私は、高校に入学しました。




中学生の頃、私は、部活に入り、勉強を頑張り、そして、彼氏を作って順風満帆な生活を夢見ていました。








しかし、私の夢見た生活は崩れました……。




毎日、同じ教室で、同じクラスメイトと、バカなことをして騒いだりする。無益で時間の無駄とも思える生活をしたかった…………。






今、私がいる場所は、白い壁にベット、ベットの横には機械が置いてあり私の心拍数とかを測っている。




私には詳しいことは分からないけどおそらく合っているだろう。






私の手には、人差し指を覆うように小さな機械がはめられている。






そう……ここは病院。








私は、入院しているのだ。




そして私が掛かっている病気の病名は、決まっていないらしい。




私が掛かった病気は世界でまだ四人の少女しか掛かったことが無い、レアなものであった。




いや、レアとは言え、この病気は、体の神経がどんどん使えなくなって最後には深い眠りについてしまう恐ろしい病気なので喜べない。




現に私は、もう足が動かない。毎日動かなくなる箇所が広がっているのが私には分かる。








それがとてつもない恐怖に駆られる。








『この世界は、理不尽だ。』








私は、すでに諦めている。この体に、医療機関に、国に、世界に。








私が今いる病院も私を治すことが出来るから受け入れたのではなく、世界に五人しか掛かったことのない、未知の病気を調べるためだ。




治すためではなく、ただ、観察したいがために。




しかし、この国立病院もあからさまに「観察したいんで深い眠りに落ちるまで観察させてください」とは、言うことが出来ないので今は経過観察だけされている。






私は、どんな治療法を提案されても受けるつもりは無かった。なぜなら、それは治すためではなく、試すためだからだ。




そして、どんな副作用があるかも分からない治療法を受けるのは、病院に屈服し実験動物にされるに等しいことだと考える。








だから、だから私は治療をするつもりは無い。










◆❖◇◇❖◆












窓から見える外の景色は、青い空に白い雲。




そして、沢山の葉をつけた木々。木々には軽い足取りで枝の上を歩く鳥たち、




「あっ・・・」




鳥たちは一斉に空へ飛び出した。親子、友達とじゃれ合う様にくるくると飛ぶ。




「いいなぁ・・・」




そんな光景に何度も何度も感じさせられる。




『この世界は、理不尽だ。』と。




私は知っている。




鳥たちが自由に飛ぶだけで生活出来る筈がないということを。




毎日、毎日、食べるものを探して飛び回り、時々天敵に襲われて死ぬことを。




人間でいう所の狂った殺人鬼の様な存在に襲われ、自分の血肉を貪られる。




人として生活してきてそんな経験は私にはない。食べ物に困った事もない。




そんな苦労知らずな私に羨まれる鳥たちにとっては、「だったら立場を変わってよ」と言われてもしょうがない。私は、喜んで立場を変わるだろう。




こんな体から離れて少しの間だけでも空を飛んでみたい。餓死しても、殺されても、このまま・・・死んでも。




あまり変わらないだろう。




本当に?




私はそんなこと、決まっているだろ?と心の中で疑問を押し殺す。




「ああ、神様。どうか私を自由に空を飛んで、楽しく過ごせる。そんな時間を私に下さい。


私は、この体に、医療機関に、国に、世界を。諦めたとしても・・・。


私はまだ、神様の事は信じています。『神は人の上に人を作らず。人の下に人を作らず。』と。本当に神様が平等に私たちを作ったのならどうか、私をこの縛られた体から解放し、お救いになってください。」




手を胸の前で組んでお願いしてみる。




しかし……




本当は、分かっている。こんな言葉、『学問のすゝめ』を作ったある人が言った言葉に過ぎないと。






だけど、だけどどうか。お願いします。




「ダメ、か・・・」




当たり前だろう・・・。


なにせ私は生きることを心では諦めているから。


神などという存在も信じていない。


もし、本当に神様がいたとしても私を助けることなどありえない。




ああ、体から力が抜けていく。




昨日までの進行速度なら後、一週間は大丈夫だと思ってたのに。




下半身から、すぅーっと恐怖が押し寄せてくる。




お腹から胸へ、胸から首へ。




「お・・・母・・さん」






・・・なんでこんな時に思い出すのだろう。




もう、ずっと会っていないのに・・・。






最後に会ったのは中学校に入ってすぐ入院したころ。


その時、私はお母さんを突き放した。




私の気持ちなんて分からないと・・・。




なんて言われたか覚えていないが、


今思えば私の事を心配して掛けてくれた言葉だったのかもしれない。




本当に悪いことをした。




私は親不孝行者だ。




言いたい。




『ごめんなさい。』って




言えなかった。




『ごめんなさい。』って




もう言えない。




『ごめんなさい。』って




最後に伝えたかったな・・・。




『ありがとう』って




・・・。






「ひなっ!!!!!」




病室のドアが勢いよく開く




「お・母・・・さん・?」




「そうよっ!!大丈夫なの!?」




お母さんは病院の先生の方に振り返って怒鳴っている。




「ひな・・・ごめんなさい・・・ひながこんなに苦しそうにしてるのに私が傍にいられなくて。」




そういってお母さんは私の手を握って泣いている。




「お母さんはね・・・ひなのそばにいない方がいいと思ったの。


お母さんはひなの気持ちも辛さも怖さも経験してないからどんな言葉を掛けたらいいか分からなくて。


だからお母さんはひなの『お・・母・さん。』・・・。」




私は、お母さんお話を遮る。




「私・・もね、言いたいことが・・あるの。お母・さん。ごめんなさい。」




私は謝る。


もう声が出しにくくなってきた。


すぐに声も出なくなってしまうだろう。




「なんで、ひなが、謝るのよ・・・!」




お母さんは涙を堪えようと目に力を入れ


堪えられずに決壊を起こしている。




「私は、お母さんを幸せに出来なかったから。」




最後の力を体が振り絞っているのか


なぜか、声が出やすくなった。


今、全ての言いたかったこと言えなかったこと言わなきゃ。




「ごめんなさい・・・。ごめんなさい。」




目の前がグラグラと揺れている。


遂に目まで恐怖が来たかと思ったが声は出る。


何だ?と思い


少し考えれば分かる。


お母さんと同じ涙だ。




「は・・・ははは・・。」




涙なんて全て諦めた時からずっと縁のないものだった。


諦めれば悲しい事、つらい事、そんなものは無くなった。




「そうか・・・。」




私はすべてを諦めていたわけじゃなかったのか。




「いいなぁ・・・はは。」




私が鳥たちに求めていたのは空を飛ぶ自由なんかじゃなくて、


こんな暖かい家族の温もりだったのか。




なんで今まで気づかなったのだろう。




なんで、今になってこんなことに気づいてしまったの?




なんで・・・。




何も、気づかないまま消えてなくなれたら私はこんなに苦しい思いをしなくてよかったのに。




「ごめんなざい。・・・ごめんなざい!お母さん」




私はお母さんに抱き着こうとする。


しかし、体は動かない。




「いいのよ、謝らないで・・・!」




そういってお母さんは私を抱きしめた。


暖かいお母さんの体温が私を包み込む。




何時ぶりだろう


こんな暖かい気持ちになったのは。




「・・・?」




暖かい?


私はもう一度その温度を感じようと体の表面に意識を向ける。




「暖かい・・・?」




いや、そう感じるだけか?




しかし、その感触は無くならない。


ずっと感じなかった感触が今戻っている。




私の体を覆っていた見えない塊が剥がれ落ちるように首から腹へ、腹から足へ。




「信じられない・・・?」




私の体に感覚が戻ってきた。




「暖かい・・・暖かいよ!!お母さん」




私は最後に動いたのがいつか分からない腕をお母さんを抱きしめるように動かす。


私の中では動くはずがないという気持ちと動くかもしれないという気持ちがせっていた。


しかし、私の腕は動いた。




「ひ、ひな!!腕が動いてるわよ!!」




お母さんは驚きの声を上げ、先ほどまでと比べ物にならないほど涙を流していた。




きっと、私も同じような顔をして笑っているのかな?












◆❖◇◇❖◆






私は今、お母さんに花嫁修業を受けている。




あの病気が治ってから私は夢見た学校生活というものを過ごした。


周りと年齢は合わないけどとても楽しい時間だった。


青春とはこんなものなのかと。


ただ、恋愛は出来なかったのが心残りだ。




いや、私は何度か告られる程度には綺麗な方だと自分では思っている。


しかし、相手は自分が同い年か一つ上に見えているわけで年齢の事をオープンしていない私は、なんだか騙しているみたいな気持ちになって断ってきた。




高校を卒業し、大学に行き、なかなかいい企業に就職して少しすると彼氏が出来た。


今はお互い結婚してからうまくいくか考えている期間だ。


私は料理や洗濯などの家事がしっかりできるんだぞってするために花嫁修業をしている。




今、私はとても幸せだ。




いい人生だと言い切れるだろう。




私はあの病気から学んだことだある。




それは、暖かさを大切にすることだ。


勿論、温度の話ではない。




人の心の部分の話だ。




皆が暖かければ皆が幸せになれるってね。




「ひなっ!!この洗濯物は分けなきゃだめよっ!!」




「は~いっ!!ごめんなさいぃ!!」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶望少女の治療法 @Kata-yu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ