第3話 マスクメロン先輩と俺。

「おわった…なにもかも終わった。」

テストが終わりすっかり俺は燃え尽きていた。

もうなにもしたくない。

しかし我が友和也はすぐに

今日イベ日なのにまじで最悪。と

スマホのゲーム画面をのぞきこみ

なにやらものすごい勢いでタップしている。

いつもなら何気ない光景のはずなのだが

今日は疲れているせいかやけに癪にさわり

あーあ。サッカー部の新星様はお忙しいですねーと思わず嫌みをこぼすが

まるで気にしない様子で

おーそうだな。と手を動かし続けていた。

…そういえばこいつは嫌みとか

全然気にしないタイプだったな。

「なぁお前このあとどうすんの?」

「んーとりあえず家帰って

ダラダラするかな。

あーでもその前に漫画の新刊発売するから本屋よるかも。」

「部活とか入らないのか?」

「俺が運動音痴なの知ってるだろ?

というか六月になって部活とか今更。」

「じゃあバイトは?

結構やってるやつ多いって聞くけど。」

バイトか。

たしかに金欲しいしいいかも。

「それ、ありかも。後で調べてみるわ。」

なんだ。和也って意外と俺のこと

思ってくれてるんだな。

「おー頑張れよ。ってあー!!まじ最悪。

詰んだわー。これだと効率悪いんだよな。」

(前言撤回。こいつなにも考えてないわ。)



その後とりあえずスマホで

【高校生 バイト募集】と検索してみた。

(コンビニや100円ショップ…

結構たくさんあるんだな)

そうしているうちに

自宅から距離が近いハンバーガーショップの募集案内に目が止まった。

この場所はそれほど人通りも多くないので

学校のやつらにばれる心配も少なそうだ。

さっそく必要事項をスマホで打ち込むと

すぐに返信が返ってきた。

返信には今度の土曜日に面接させてほしいと書いてある。

(土曜か。特になにもないし大丈夫だな。)

了承の返事を送るとさっそく面接のための

準備を整えた。

なんだか一歩大人に近づけた気がする。


そして運命の土曜日。

店内に入りバイト面接であることを伝えると

店長らしき少しハゲたおじさんが出てきた。

「本田です。今日はよろしくお願いします

これ、履歴書です。」

「あーうん。よろしく。」

履歴書を受けとると俺の体を

上から下までゆっくりと見られ

小さくうんと頷かれた。

「きみ、いつからシフト入れる?」

「え?」

その一言で無事面接終了。

さっそく明後日からバイト初日を

迎えることになった。

受かって嬉しい気持ちもあったが

正直あまりにあっけなく決まってしまったのでこの店本当に大丈夫なのか?という

不安感が拭えない。

でも楽観的思考な俺はまっなんとかなるよなと鼻歌まじりに自転車を漕ぎ帰宅した。


そしてバイト初日。

よし!と気合いを入れ制服に袖を通すと

鏡で身だしなみを整える。

なにごとも初日が肝心だ。

「今日からお世話になる本田です

よろしくお願いします。」

「うん。よろしく。さっそくだけど

まずは掃除からやってくれる?

やり方は倉橋くんに頼んであるから

彼女に聞いてくれ。」

「分かりました。」

店長が倉橋さーんと呼ぶと店内にいた

倉橋さんが俺の元へとやって来た。

「今日から入る本田くん。悪いが色々教えて

やってくれ。」

「はい。本田くんよろしくね。」

彼女がニコッと微笑むその表情よりも

俺の目線はそのたわわな胸元へ

釘付けになった。

まるでマスクメロンが二つあるかのような

りっぱなおっ…んんっ。いや失礼だよなと

先輩の言葉に集中しようとするが

残念ながら俺の視線はそのマスクメロンからは離れることはなかった。

「じゃあまずは掃除からだね。

ついてきて。」

「はっはい!」

その視線を誤魔化すかのように勢いよく返事すると先輩の後をついて店の外に出る。

心なしか風にのって石鹸のような爽やかな

匂いがする気がする。

「まずチリトリで店の外をはいてくれる?

終わったら声かけてね。」

「了解です。」

「ふふっもしかして緊張してる?

高校生だっけ?

わからないことがあったら

何でも聞いてね。」

「なっなんでも…」

「そう。な、ん、で、も。

ふふっじゃあ頑張ってね。」

その蠱惑的な言葉は童貞の俺には

刺激が強すぎてくらくらとする。

そんな俺の様子を見て

先輩はくすくすと笑いながら

店内に戻っていった。

その後先輩を気にしすぎて不自然な態度に

なりがらもどうにかバイト一日目が終了し

ほっと胸を撫で下ろした。

な、ん、で、もか。

いい響きだなぁ…。。。



「直紀、最近随分楽しそうだな。」

「えー?そうか?ははっ

あー今日も爽やかな朝だなぁ!」

「おい、人格まで変わってないか?」

「いやぁ!いつも通りだよ!いつも通り」

あれから俺は順調にバイトをこなしていた。

知らなかったが覚えるのは人より

早いらしくレジ打ちを任されている。

先輩も俺の教育係になったらしくて

できるだけ一緒のシフトに入って

フォローしてくれているので

なんとも嬉しい…いや頼もしい限りだ。

「バイトそんなに楽しいのか?」

「あぁ。まるでパラダイスだよ。」

「いい加減どこで働いてるのか言えよ。

一回直紀が働いてるとこみたいし。」

「それはダメだ。」

和也が来たら絶対店の中が大騒ぎになるし

先輩だって

「え?あの人友達なの?紹介して🖤」

ってなるに決まってる。

そうなったら俺のバイト生活は

一気に天国から地獄だ。

それだけはなんとしても阻止したい。

「えー日曜の昼くらいならいけると

思ったのになぁ。

もしかしてバイト先に気になる人でも

できたのか?

確かにギャルゲーではバイト先の先輩って

鉄板だしなー。

ちなみにバイト先の先輩と言えばさ

もういちどあの渚で。の

涼風先輩のルートがさ…」


あーあ。またはじまったよ。

こうなると誰のルートのここのシナリオが

いいとかあの台詞が最高だとかそんな話を

永遠と語るんだよな

しかもちゃんと聞いてないと怒るんだから

まじでめんどくせぇ。

これさえなければ完璧なのになぁ。

ちらりと和也の方をみると

だんだんのってきたのかオタク特有の

早口でしゃべっている。

「でさ、涼風先輩ってさ!」

あーはいはい。と適当に流して聞いていると

昼休み休憩終了のチャイムがなった。


「おはようございます。」

「あっおはよ。今日も頑張ろうね」

緩みきった顔ではいと返事をする。

あぁ。先輩、今日もまじで天使。

今日は日曜日。

そして飲食店における休日というのは

まるで戦場だ。

そのピークはだいたい11時から14時前

くらいなのだが

この時の店内の様子はもう想像すら

したくない。

特にうちの店はドライブスルーもやっている

ためそれはもうひどい有り様だ。

ドライブスルーの客は店内や持ち帰りの

客と違って遠方からきていることも

あるため商品を間違えると

客の怒り方が異常なくらい怖いため

できればスルーだけはやりたくなかった。

天にむかって祈りを捧げるが

店長の君、今日スルーね。という一言で

俺の願いは儚くも消え去ってしまった。

そして運命の時間。

さきほどまで静かだった店内の外には

もうすでに行列ができていた。

泣き叫ぶ子供、イラつく客。そして

焦るスタッフ。

まさに地獄絵図の店内の様子を横目に

モニターを見つめていると

ピンポンという音とともに一台の車がやって来た。

(うわっ来たよ。)

「いらっしゃいませ。ご注文をお願いします。」

「えー。ハンバーガーセットと

あとチーズバーガーセット。

ドリンクは…」

「はい。かしこまりました。お会計

1200円になります。前へどうぞ。」

そうしてすぐに会計を済ますと

また次の車がきて注文をとる。

これの繰り返しだ。

しまいにはあまりの行列に

おい、おせぇぞ!なにしてんだ!という

怒号も聞こえ一気にパニックになって

しまった。

しかし助けを求めようとしても

皆自分のことで手一杯といった様子で

かまってくれるような人はいない。

もう無理だ。と完全に心が折れかけた

そのときだった。

「すみません。お待たせしました。」

リベロ(フロアを自由に行き来する人。

いわばなんでも係)の先輩がヘットマイクをとりヘルプに入ってくれた。

「先輩…。」

「ほらいいからお会計!」

「はい!」

先輩のおかげでモチベーションを取り戻し

どうにかこの戦場を乗りきることができた。


「お疲れ様。疲れたでしょ?」

「正直へとへとです…。」

長時間たちっぱなしだったせいで

生まれたての小鹿のようになった俺を

先輩はいつものようにくすくすと笑っている

「これがんばったご褒美。皆には内緒ね」

そう言って先輩が渡してくれた紙袋の中には

発売されたばかりの新作バーガーが入って

いた。

「え!?いいんですか?」

「うん。本田くんほんと頑張ってるから。

特別。」

そんなことを言われたら期待しないという

ほうが無理があるだろう。

事実俺はその言葉におもいっきり期待して

しまっている。

そしてその期待は次の先輩の言葉で

確信に変わった。

「…それでね、後で話があるんだけど

時間もらえないかな。」

はいきたー!!!

これは先輩ルート確定。

なんだ俺好感度見えなくても

ちゃんとエンディングいけるんじゃーん。

「もうすぐあがるからここの近くの公園で

ちょっと待っててくれる?」

その言葉にはいよろこんで!と居酒屋

みたいな返事をするとじゃああとでね?と

意味深な笑みを浮かべ店内へと

戻っていった。

いやぁ皆様すみませんねぇ!

この物語はここで完結!

そして俺は先輩と…ふふふ。

妄想を膨らませつつ先輩が現れるのを

いまかいまかと待っていた。


「お待たせ。ごめんね、遅くなって。」

「いや、全然待ってないです!

それで話ってなんですか?」

顔を赤くしてもじもじとしている先輩に

ふふっ恥ずかしがらなくてもいいんだぜ?

と余裕ぶってその瞬間を待っていた。

「あのね。ひかないでほしいんだけど。

本田くんのこと見てるとね

その…

思わず生唾をごくりと飲み込む音が聞こえる

やっぱりこれって…!!!!!

「あのね、本田くんのこと見てるとね

私のSセンサーがびりびりきちゃって!

だ、か、ら、おねがーい。これからは

私の犬になって?」

「…は?」

え?いまなんて?

犬?

犬ってなに?

「あっやっぱりひいちゃった?

なんかピュアな感じで接してたから

イメージ壊れちゃったかんじかな?

だってーそうでもしないと嫌われると思ったんだもん。」

先輩はきゅるんとした目でこちらをみている。

いや、そんな目をされても。

俺のピュアな先輩像を返してくれ。

「あの、そんなこと言うためにわざわざ

呼びだしたんですか?」

「だってこんなの頼める人なかなか

いないの。ね?お、ね、が、い。」

腕をぐいっと絡められその豊満な胸に押しあてられると思わずうっという声を出してしまう。

これはまずい。非常にまずいぞ。

…そのいろいろと。

「そんな目で見たってダメなものは

ダメですから!」

なけなしの理性を振り絞り腕を引き離す。

「えー。けち。はぁせっかくいいペットに

巡り会えたと思ったのに。

けど私諦めないからね!」

ぱちっと星のとんできそうなウインクを

ひとつ受ける。

…くそっ悔しいがかわいい。

「ん?あれは」

またねと歩いていく先輩の頭の上には

いつの間にか大きなハートマークが

浮かんでいた。

(ということは先輩も攻略対象ってことか。)

なんだか複雑な気持ちでベンチに座り

先輩にもらった新作バーガーをひとり

むなしく口に運んだ。

「これうまっ。」

…どうやら人生悪いことばかりではないようだ。








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好感度が見えるようになったら俺の高校生活がハーレムになった話 石田夏目 @beerbeer

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