第2話 エースの悩み

好感度が見えるようになりいろいろ気づいたことがある。

まずピンクのキラキラは嬉しい反応で

青いキラキラは嫌な反応らしい

そしてその大きなハートマークは誰にでもあるわけではない。

(実際クラスメイトでついていたのはデレ子だけだった。)

…こんなところだろうか。

だが正直まだまだわからないところだらけだ

ぽりぽりと頭をかきながら歩いていると

突然声をかけられた。


「おっす!君が渡瀬だろうか。」


「は?そうですけど。」


ベリーショートの髪にはっきりした目鼻立ち

そしてスカートからのびるすらりと長い足

きっと男だったらかなりのイケメンだろう。

…が正直男じゃなくてよかった。


「僕は上から読んでも下から読んでも

田中かなただ!よろしく頼む!」


目の前に手を差し出される。

上から読んでも下から読んでも田中かなた。

なんと覚えやすい。

ん?

そういえば田中かなたって聞いたことあるような


「あぁ!もしかしてあの陸上部エースの?」


「いや、エースなんてとんでもない!

ただ人より少し走るのがはやいだけさ。」

パチッとウインクを決められる

危ない。危ない。

俺が女なら間違いなく恋に落ちていた。


「で。俺に何かようですか?」


「あぁ悪い。

実は君の友達に用事があるんだが」


「あぁ。そういうことですか。」


その言葉でだいたいの察しがついた。

もう何度言われたのか数えるのも嫌になってしまったが。


「ん?まだ何も言っていないが」


「どうせ好きな女性のタイプが知りたいとかラブレター渡してほしいとかそんなとこだろ?」


「いや、全然違う。」


違う?

他に理由なんてあるのか?


「ともかく今日話があるから放課後図書室に来てくれと伝えてほしい。頼んだぞ。」


じゃあと一言言い残しと風のように

駆け出していった。

さすが陸上部エース

無駄のない美しいフォームだ。


「…ということなんだが。」


「へぇー。悪いけど全く興味ないから

直紀行ってきてよ。」


「やっぱりそう言うと思ったがな。」


いつもそうだ。

ラブレターの断りの返事を書くのも俺。

俺づたいに告白してきた子の告白を断るのも俺。

どうして女は俺じゃなくてこんなやつがいいんだろう。

やっぱり顔か?

顔なのか?


「たまにはさ自分で行けよ。」


「だって田中って喋ったことないし。

それにめんどくさいしさ。」


「いや。まぁさそんなこと言わずに。」


女性の皆さん、こいつはこういうやつです

騙されてはいけません。


「今度学食奢るからさぁ。な?頼む。」


「うーん。学食か。」

それは少しそそられる。

ここの学食は味はかなり美味しいのだが

わりと高めの値段設定で

学生には正直結構きつい。


悩んでいると二日分ならどうだ?という

悪魔の囁きにも似た言葉が聞こえた。


「のった。」


あぁ単純すぎる自分が恨めしい。


「よし。交渉成立。

さすがは俺の親友。」

がちっと握手をかわす。

親友か…

なかなかいい響きだ。



「おっす。遅かったな。

で肝心の工藤は?」


「あいつなら来ません。

なので代わりに俺が来ました。」


「…そうか。」

窓にもたれかけふぅとため息をひとつ

くそっ。それだけで絵になるな。


「すみません。俺で。」


「いや、

実は相談したいことがあったのだが。」


相談?


「実は同じ陸上部の後輩の女の子に告白されて困っているんだ。」


あぁ。なるほど。

自分でもびっくりするほど全然驚かない。

なんというか納得だ。


「うまく断りたいのだが、何せ同じ部活だから断り方が難しくてな。

そこで彼に相談しようと思ったんだ。

彼は断りのプロだと風の便りで聞いてな。

彼に告白した女の子は皆すっぱりと諦めきれるらしい。」


誰だよそんな情報流したやつ。

というか二次元の女の子にしか興味ないって言われたら誰だってすっぱり諦めるしかないだろう。


「つまり田中は告白を上手く断る方法を探していると。」


「そうだ。」


「…俺にいい考えがある。」


何せ俺は断りのプロだからな。


そうして次の日。

田中と後輩の女の子は体育館裏に来ていた

そっと建物の後ろに身を隠しその様子をうかがう。


上手くいくといいのだが。



「それで先輩。

今日返事を聞かせてくれるって」


「あぁ。…すまないが

君の気持ちには答えられない」


「そう…ですか。」


「気遣いもできていつも一生懸命な君は

将来陸上部を引っ張っていく大事な人になる。

だから今は僕も君も部活に集中したほうがいいと思うんだ。

君は僕のかわいい後輩だからね。」


「先輩…、ありがとうございます。

私先輩の期待に応えられるようにもっともっと頑張ります。」


彼女はぺこっとおじきをすると笑顔でその場を去っていった

うまくいったの…か?


「なぁそこにいるんだろ?」


…やっぱりバレてたか。

建物の影からそっと出ていくと

そこには晴れ晴れした顔をした

田中の姿があった。


「ありがとう。

君のアドバイス通りうまく断れたよ。」


「あぁ。うまくいってよかったよ。」


「それで少しお願いがあるのだが」

やけにもじもじとしている。

嫌な予感がするのは気のせいだろうか。


「今後君のことを師匠と呼ばせてほしい!」


は?師匠?

思わず大きく口を開きポカンとしてしまう


「僕のことも好きに呼んでくれて構わないから。」


「いっいやいや、師匠ってなんだよ。」


「いやぁいい響きだろう?師匠!」


いや俺の意見無視するなよ!

…って言っても無駄か。

すると体からピンクのキラキラがのぼっていき頭の上のハートマークの中にいっぱい溜まりハートマークの色が黄色へと変わった。


どうやら彼女もデレ子と同じ対象者らしい。


「師匠!」


はぁ

嬉しそうにそう呼ぶ田中を見ていると

これ以上言う気にはなれなかった。

仕方ない…。

しかしやられっぱなしも癪にさわる。

そういえば好きに呼んでくれと言ってたよな

よし…。


「エース」


ふとそう呼んでみる。

単純なあだ名だなと自分でもあきれたが

響きは悪くない。


「なんだそれは!

恥ずかしいからやめてくれ」


「お前が好きに呼んでくれとそう言ったんだろ?

嫌なら俺の師匠呼びもやめろ。」


「師匠呼びはやめないぞ。

いいだろう。確かに好きに呼んでくれと言ったのは僕だからな。

ただあまり皆の前で呼ぶのはやめてくれ」


少し耳を赤くしながらふいっと下を向く

意外とかわいいところあるんだな。


「よし、分かったぞ。エース。」


「お前それわざとやってるだろ。」


「なんの話かな?」


「君がそのつもりなら僕も何度も言ってやる。師匠、師匠、師匠…!」


「エース、エース、エース…!」


我ながら馬鹿なやりとりだと思う。

けれとそんなやりとりも不思議と悪くないと思えたのだった。

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