図書館へ
「ああ、どうして僕がこんな目に……」
ぶつくさと文句を言う文哉を従え、桃華と朱莉は図書館の近くへとやってきた。
図書館の前には大きな門がそびえ立っていた。
夜の闇に溶け込むその黒々とした門は、一行の恐怖心を一層駆り立てる。
「ほ、本当に入るのかい? ぼ、僕はここで待っているよ……」
文哉が回れ右をして元来た道を帰ろうとする。その肩を、桃華が掴んだ。
「あら? この世界を救うと宣言していたのは、どなただったかしら?」
桃華の瞳が意地悪く光る。ここへ来る前、酒場で彼は言ったのだ。
「仕方がないから、僕がこの世界を救ってあげよう」
大勢の前でそう宣言し、朱莉と桃華をオマケと称したのだ。
桃華が根に持つのも仕方ないことである。朱莉はため息をついた。
門を上から下まで観察した朱莉は、その片方が少しだけ開いているのに気づく。
「門が少しだけ開いています、きっとここから旅人さんが入ったのでしょう」
朱莉が門に手をかけると、文哉が甲高い声で叫んだ。
「行かなくていいって! 不法侵入で訴えられるぞ!」
「街の人たちが困っているのに放っておく気ですの?」
「今逃げ出せば、ばれないって」
文哉の言葉に、桃華は呆れかえって言う。
「今まであの宿で尽くしてもらいましたのに、それはあり得ませんわ」
「アイツらが勝手にしたことだろ。僕たちは勇者じゃない」
「勇者だと持ち上げる人々を否定せずに、好き放題やっていたでしょう、アナタは」
桃華は言うと、朱莉と共に門を押し開けながら続ける。
「いいですわ、アナタが来ないのならあたくしたちが勇者になります。そして」
そこで文哉を振り返って、桃華は舌を出した。
「アナタがいかに残念な勇者もどきだったかをお話してやりますわっ」
それを聞いて、文哉は肩を震わせる。
「そんなことしたら、街の人になんていわれるか……」
「そんなこと、あたくしたちが知ったことじゃありませんわ」
桃華は鼻を鳴らすと、朱莉に向かって言う。
「まだここへ来たばかりなのに、なんだかごめんなさいね。巻き込んでしまって」
「いえ」
元の世界では、自分は役立たずだ。そう、彼女は思っていた。
でもこの世界が少しでも自分を必要としてくれるのなら。
その期待に、少しでも応えたい。そう彼女は今思っていた。
「何か役に立てることがあればいいですけど……」
朱莉がそう呟くように言うと、桃華はにっこり微笑んで言った。
「今は、アナタがいてくれるだけで、嬉しいですわ。一人じゃないですから」
それを聞いて、朱莉は心が少し軽くなった気がする。
「あたくしと文哉二人っきりであれば、ここまで来られませんでしたもの」
桃華は言って、朱莉の服の裾を軽く引っ張って前方を見据えた。
「参りましょう」
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