エピソード・ゼロ|兆し

「この〈本〉、きみにあげるよ」

「え? ほんとうに…?」

「俺より、きみのほうが、この〈本〉のことを理解してるようだしね」


〈エムズの青年〉はそういって、まだあどけなさの残る顔立ちの少女に、その本…〈聖書〉を手渡した。


「うれしい…わたし、一生大切にするわ…」

 少女は、腰のあたりまである黒髪をゆらし、聖書を胸元でぎゅっと抱きかかえ、青年にほほえみかける。


「この本、大好きなの。、ね…」

 少女の熱いまなざしに、うろたえ、戸惑いながら、青年もやさしくほほえみかえす。


「俺も好きだよ、L=6エル・シックス…」

「………」

 少女は、青年の言葉に顔を赤らめ、はにかんだ。


 13歳になったばかりの少女の、それは淡い恋のはじまりだった。









 ―― to be continued <第二章へ続く> ――

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