第11話 動物病院
キロが行くと、仙人は察したようだった。
「迷いはなくなったかね。」
「はい。ぼくは、ぼくのするべきことが分かりました。ありがとうございました。」
キロはお礼を言って、寺を後にした。
動物病院から見たオレンジのビルの角度と距離を思い出しながら、近い場所の通りをしらみつぶしに探して歩く。どんなに時間がかかっても、決してあきらめるつもりはなかった。
動物病院が見つかったのは、次の日の夕方だった。
見慣れたガラス戸の前にちょこんと座り、ニャーオニャーオと必死に鳴いた。
いつもの受付の女の子が出てきて、
「あら。にゃんこちゃん何してるの。どこか怪我したの。」
と抱き上げてくれた。
なおも必死に泣き続ける。
受付の女の子はキロをじっと見つめ、不思議そうな顔をした。そのうち、ハッとして、キロを抱いたまま病院の奥へ駆け込んだ。
「先生!先生!この子、キロちゃんじゃないかしら?ももかさんのとこの、ほら、居なくなったっていう。」
その後は、じっとしてるだけで良かった。
病院から連絡がいったようで、まもなく、ももかさんが駆けつけて来た。
ももかさんは、泣いたり、笑ったりしながら、
「キロ!キロ!こんなに痩せちゃって…。」
としっかりキロを抱き上げて、離さなかった。
受付の女の子はもらい泣きし、それを見てももかさんは、もっとおいおい泣いた。
先生はかるくキロの身体を見て、痩せて汚れているが、健康に問題ないとももかさんに話し、ももかさんは何度も何度もお礼を言って、キロを家に連れて帰った。(帰るとすぐ、ムチャクチャに洗われた。)
晩ごはんはフードの他に、マグロの刺身が付いていた。それもパック全部。8切れも!
「痩せちゃったね。たくさん食べて元気つけようね。」
ももかさんは、キロを撫でながら言った。
(ももかさんこそ。)
キロは思った。
少し痩せて、目の下にクマを作ったももかさん。
部屋もずいぶん荒れていた。
キロはマグロを4切れ食べて、後は残した。
「食べないの?」
ももかさんは不思議そうに言った。
「急にたくさん食べて、お腹いっぱいになっちゃったかしら。」
そう言って優しくキロの背中を撫でた。
「残りは、ももかさんが食べて。」
キロはそう言って、ももかさんの手に頭を擦り付けた。
通じたかどうかは分からないけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます