第8話 ニンニとサーシャ
ニンニは陽気な猫だった。
年のころも近く、すぐ仲良くなった。
はじめて出来た友達。
追いかけっこしたり木のぼりしたり、公園で遊ぶ生活は楽しかった 。
ニンニはまた、キロの知らない外猫の世界のことを教えてくれた。
「飼い主が見つからないと、どうなるの?」
キロは尋ねた。
「公園を出て行くのさ。そしてまた別の暮らしを探さないといけない。この辺りには他に川猫、山猫、商店街猫、工場猫とかのグループがいっぱいある。町猫だってぶちおさんのグループ以外にもいくつかあるし。
だけどぼくは飼われたいよ。
外は自由だけど冬は寒いし、美味しいものにもありつけない。ぼくはぜったい良い飼い主に巡り合う。」
「1年も公園にいるのに、楽天的だなあ。」
「大丈夫さ。ぼくは処置も受けたし、一度拾われかけたこともある。その時はうまくいかなくて、また公園に戻されちゃったけどさ。
餌やりの人も力になってくれるし、サーシャはとっても勘が鋭いんだ。どういうわけか、猫が欲しい人がわかるんだ。その能力おかげでメスなのにここでボスをやってるって訳さ。」
「へえ。」
公園に来て4日が経った。
ニンニとチョウを追いかけて遊んでいたキロは、サーシャに呼ばれた。
「キロ、噴水のベンチで腰掛けて編み物をしているおばあさんのところへ行って顔を見せてみなさい。連れて帰ってくれるかもしれませんよ。」
「だけど、あのおばあさんいつもいるよ。猫を欲しそうには見えないけどなあ。」
「人の気持ちはいつも同じではありません。今日という日、茶色いオス猫、この二つが大事なのです。行きなさい。」
キロは言われるがまま、歩きだした。
突然、ももかさんの顔が浮かんだ。
キロの足は止まってしまった。
「どうしたのです。」
「ぼく…ぼく、行けません。ぼくは、新しい飼い主なんか欲しくない。欲しくないんだ。
ぼくじゃなくて、ニンニが行けばいい。あのおばあさんはお金持ちそうだし、ニンニだって茶色いオス猫だ。」
サーシャは困ったようにしばらく考え込んでいたが、やがてニンニに向かって言った。
「ではニンニ、お前がお行き。」
「はい!」
ニンニは嬉しそうに返事をすると、とっておきの愛らしい表情を浮かべて、噴水へ歩いて行った。
うまくいきますように。
キロはニンニのために気持ちを込めて願い、その後ろ姿を見守った。
「キロ。」
サーシャが厳しい顔で言った。
「飼い主を探すつもりがない以上、この公園に住むことはできません。ここに来たい猫たちは他にもいるのです。
あなたは、自分の道に迷いがありますね。
ここを出て、寺猫のところに行くといいでしょう。
案内します。」
キロは不満を言えるはずもなく、黙ってサーシャに従い、二匹は公園を後にした。
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