第7話 公園ねこ

ぶちおに連れられ、30分ほど歩いただろうか。


そこは広々とした美しい公園だった。

木々が森のように集まり、風が吹くと優しいざわめきに包まれる。花壇や噴水があり、散歩道、テニス場、遊具と、町に住む人々が癒しを求めてくる場所だった。


ぶちおは公園の端で日向ぼっこしている若い薄茶の猫を見つけ声をかけると、その猫は走って行って、まもなくきれいなメスのミケ猫を連れて来た。


ぶちおとミケ猫は何やら小声で話し、ミケ猫はチラチラとキロを見た。


「そうね、まだ若いし、汚れているけど毛並みはきれいだわ。飼い猫の面影が十分にある。うちで預かりましょう。」


ミケ猫はそう言った。


「はい…よろしくお願いします。」


自分がどうなるのかよく分からないまま、とりあえず、キロはそう言った。


ぶちおは、それを聞くとすぐに引き返そうとしたので、キロはあわてて声をかけた。


「あの、ぶちおさん、ありがとうございました。

町猫さんたちも皆お元気で。」


ぶちおは振り向いて言った。


「町猫の心配は要らない。俺たちは俺たちで、ひどい暮らしに見えても、結構楽しくやってる。


お前はお前の道を探すんだ。

うまくいくよう祈っている。」


そう言って立ち去ってしまった。


「キロ。公園で暮らすにあたり、説明することがあります。」


ミケ猫はキロを見て言った。


「はい。」


「公園の出入りは自由ですが、猫にはそれぞれ縄張りがあります。公園の外での安全は保証しません。


食事は夜の九時から十一時の間に、正門と裏門に餌やりの人たちが持ってきてくれます。あなたは新入りなので、裏門で食べてください。


その人達は新しい猫を見つけると、捕まえて病院へ連れて行くことがあります。飼い猫になるために必要な処置を施してくれるのです。


そのあと、公園に戻されることもあれば、新しい飼い主の元へ運ばれ帰ってこないこともあります。

飼い猫に戻りたければ、抵抗しないように。


ここは病気になったり年をとれば住めない場所です。なるべく早く出会いがあるように、全てを起こるがままに委ねること。


公園内は自由に過ごしてかまいません。

何かあったら、他の猫に聞くか、サーシャを呼んでと言いなさい。それが私の名前です。」


それだけ言うとサーシャは悠然とした足取りで立ち去っていった。


後には、サーシャを連れてきた薄茶の猫とキロが残された。


「あの、ぼくキロって言います。よろしく。

君も公園で暮らしてるの?」


「ぼくはニンニだ。もう一年もここにいるよ。

ここは悪くない場所だ。だけど、あーあ、早く新しい飼い主と巡り会いたいよ。ぼくは家の中でノンビリ寝て暮らすのが好きなんだ。」


「君はどうして飼い猫じゃなくなったの?」


「捨てられたのさ。」


「えっ。」


「猫にはよくあることだ。だからぼくは前の飼い主なんかより、うんとお金持ちで優しい飼い主と巡り合うんだ。」


ニンニはそう言ってニッコリ笑った。

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