第4話 交番

キロは出来るだけ高い木を探して、登り始めた。

家の屋根が見えるくらいまで何とか登ると、注意深く周りを見回す。


「あった!」


それはひときわ高い、オレンジ色のビルだった。


キロは時々ケージに入れられ町の動物病院に連れて行かれる。ケージの中なので、道は分からないが、町へ行くということはそのビルがある辺りに行く事だということは知っていた。


マンションのベランダの窓からも少し見えるオレンジのビルを指して、ももかさんが「町に行くよ。」と言っていたからだ。


木を降りると、ビル目指して歩き始めた。

交番に行くことを思いついたのだ。


キロは、警察のテレビをももかさんと好んでたまに見ていた。警察というものは町にある「はんざいしゃをかくほ」するものだが、時には迷子を家に届けたり、おばあさんの荷物を運んでやったりする、親切なものでもあるのだ。


「善良なる市民を守るのが我々の務めです。」


とテレビの中のお巡りさんは言っていた。


ならばきっとキロのことも助けてくれるだろう。

「はんざいしゃ」ではないキロだって「善良なる市民」の一員だろうから 。


しっぽやお腹はまだ痛むものの、キロは明るい気持ちになって人間の道を歩き出した。


「交番で、食べ物も少しくれるといいんだが。」


キロはお腹が空き始めていた。


20分ほど歩いただろうか。

民家は少なくなり高い建物が増え、オレンジのビルは地面からは見えないが、この辺りが町だろうとキロは思った。


なるべく人の多い大きな通りを選んで、すみっこをコソコソ隠れながら歩く。1時間ほどかけて交番を見つけることができた。


交番はテレビで見たのにそっくりだ。

薄暗い明りの中で、眼鏡をかけたお巡りさんが退屈そうに一人で座っていた。扉は開いていた。


どきどきしながらキロは中に入り、ニャーと鳴いた。


「おやおや、猫かい。」


お巡りさんはニコニコしてキロのそばに近寄り、喉のあたりを少し撫でてくれた。


「人懐っこいな。こりゃ飼い猫だな。早くおうちへお帰り。」


その時キロは気がついた。

自分が迷子だと伝えるすべがないことに。


テレビの中で迷子の女の子は、ただ泣いているだけで、家を探してもらっていた。キロも鳴けばいいのだろうか。


ニャーニャー、キロは一生懸命鳴いてみた。お巡りさんは困ったように、キロから離れてしまった。


なおも必死に泣き続けると、お巡りさんはキロを抱き上げ、交番の外に出してしまった。


「家族が心配しているよ。おうちへお帰り。」


と声をかけて扉を閉めてしまったのだ。


その家が分からないと言うのに、どうやって帰れと言うのだろう。


キロはすっかりガッカリして、あてもなく夜の街を歩き始めた。









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