3

 回りの視線が滅茶滅茶に気になる。そりゃあそうだろう。


 場所は大学近辺の繁華街。大学生は未だに夏休みということもあり、それなりに人通りもあった。


 そんな場所を端から見ればコスプレのようなまた子と昼間から闊歩すれば、こんな風に視線も集まるのも当然というものだ。


「なぁ、また子」


「なんですか? 竜也さん」


 少しばかり前を歩いていたまた子に声をかける。するとまた子はくるりと振り返り、真っ赤な着物の袖を揺らす。俺たちは今、また子の飼い主を探してる最中であった。


「やっぱり目立ちすぎじゃないか?」


 やはり目立ちすぎるというのはどのシチュエーションにおいても気が引ける物である。


「そうですか? 別に着物で出歩くのは普通じゃないですか?」


「まぁ、そういわれればそうだけど」


 また子は今、耳と尻尾は隠した状態だ。では何がそんなにも彼女へと視線を集めるのかと言えば、真っ赤にゆらゆらと揺れる着物とまた子の整った顔立ちのせいである。


 昨日、また子初めてあった際、確かに整った美形だとは思ったが、日をおいて改めて外で確認すると、こいつはとんでもなかった。やはり妖怪、テレビや雑誌で見かける女優達なんかにも引けを取らないほどの美貌であった。


 そりゃあ男だろうが女のだろうが振り替えるわけだ。おまけに付き添いでついてる俺は、正に平凡、いやそれより気持ち下のパっとしない男である。どのような関係なのか詮索されても文句は言えない。


 だからといって妖怪と契約してますなんて口にした日には、変人扱いどころか最悪警察病院だろう。


 ボブカットのように短く切り揃えられた漆のように美しい黒髪を翻し、再びまた子は歩きだす。


「ならいいじゃない!」


 ふふん! と鼻を鳴らしながら何故だかご機嫌のまた子。俺は渋々とついていくしかなかった。




 ●




「この辺だと思うんだけど……」


 キョロキョロと彼女が辺りを見渡す。俺たちは先程まで歩いていた繁華街から少し先、大学からも少し離れた住宅街にいた。


 そんな住宅街の一角、一件の家の前で彼女は立ち止まっていた。


 西洋風の立派な家。かなりの敷地を有しており、外玄関から少しばかり見える自家用の駐車場にはお高そうな車が止まっていた。


「ほんとにここか?」


「場所はこの辺りだと思うんだけど」


 首をかしげるまた子。なんだどうした、違うのか?


「なんか家の形が違う気がする」


「お前、自分の記憶なんだからそんなこと聞かれてもわからんわ俺は。それになんで曖昧なんだよ」


「仕方ないじゃないですか! 猫だったときの記憶なんですから!」


 腕を振り回しながら抗議するまた子。また子の外見は高校生くらいなので、その容姿とは相反した行動は、特殊な性癖を持ち合わせた人間であればたまらないものだろう。


「ていうか飼い主の名前覚えてないのか?」


「うーん……近所の人からはりょうさんって呼ばれてただけで名字と名前までは」


 猫だったときは漢字読めないし、名前も何となくの響きで覚えてるだけですからね! と自慢げに付け加えた。


 となると聞いてみる以外に道は無さそうだった。


「とりあえず聞いてみるか」


「そうですね。お願いします」


「は? 自分で聞けよ」


「いやいや! 無理ですよ! 初対面の人は怖いし!」


「俺とおめぇだって昨日、一昨日からのごく短い付き合いだろうが」


「あなたは何か平気なんですよぉー!」


 そんなどうしようもない争いを俺とまた子が繰り広げていると、その近所迷惑としか言いようがない声を聞き付けたのか、目的の家の主が現れた。


「おい! 家の前で騒ぐな! 誰だよ!」


「ほら怒られた」


「私のせいじゃないですよ」


「注意されてんのに喧嘩続けるとか……まず謝れやぁ」


 呆れたような家の主の声。


 しかし、俺は悪くないことは謝罪できないたちである。俺はまた子の頭をガシッとつかむと頭をぐいっと下げさせ謝罪した。


「こいつが大変申し訳ないです」


 だがそのとき俺は、その謝罪先にいた男に衝撃を受ける。


「あれ? わたる?」


「なんだよ。お前竜也じゃねぇか」


「「なにやってんだ?」」


 キョロキョロと猫のように様子を伺うまた子。


「あ、知り合いなんですか?」




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