第4話 飛音さんは打ち明けたい

 飛音ひねさんとの昼食を終え、教室に戻るとクラスの男子から質問攻めを受けたが軽く流した。その方がちょっとかっこいいでしょ?


 午後の授業は考え事をしていたらあっという間に終わった。そう、言うまでもなく飛音さんのことである。


 最後の言葉の真意はなんなのだろうか。


 いや、良くないな。相手の言葉の裏を見ようとするのはさすがに性格悪いわ。俺はもしかしたら飛音さんよりひねくれてるのかもしれない。


 どちらにしろ飛音さんと友達になれるのならとても嬉しい。あの人おもしろいし。



「んじゃあ部活行ってくるわー」

「……おう」



 終礼も終わっていたらしい。


 大地だいちはサッカー部で部長を務めている。なんでも3年が今月で引退するからその引き継ぎとして早めに後輩に仕事を慣れさせておきたいらしいのだ。



「なあ」

「ん?」



 大地が困ったような悩んでいるような曖昧な表情をしている。

 すると俺に近づいてきて耳元で一言だけ告げた。



「なんか困ったことあったら言えよ。飛音さん関連だとちょっと厳しいかもしんないけど」



 とてつもなく良い奴だな。でも俺は困ってるどころか今は嬉しさMAXなんだぜ、とは言いづらいからありがとなとだけ言っておいた。


 慣れないウインクをひとつして大地は走り去っていったが、俺の隣人はどうも席から動かないらしい。



「今日の掃除当番飛音さんじゃないよ」

「知ってる」

「帰んないの?」

「帰るから待ってるんじゃん」

「誰を?」

「あんたを」


 ドキッとした。一緒に帰るつもりなのか。


「そ、それはちょっとなー」

「ちょっと、何?」

「恥ずかしい」

「あはは、恥ずかしいって。あんた昼飯のときもっと恥ずかしいこと言ってたよ」


 顔が熱い。まずいな、どんどん飛音さんのペースに持っていかれてる。何がまずいってどんどんボロを出しそう。クラスではまだクールキャラで通っているからな。



「友達なら別に一緒に帰ってもおかしくないでしょ?」

「いや、そーだけどさ。俺なんかと一緒に帰ってもいいの?」

「ん?どゆこと?」

「もしかしたらカップルって思われるかも」

「あはは!そんなこと気にしてたんだ!あはははっ!」



 飛音さんはひとしきり笑ったあと笑い涙を拭きながら俺をまっすぐ見た。



「あたしとあんたじゃ釣り合わないよ」

「そんなことはっきり言わないでくれる?俺メンタル結構弱いんだけど」

「いやいやそっちじゃなくて……あたしがあんたに釣り合わないって言ったの。っていうかメンタル弱い奴は先輩殴ったりしないでしょ」

「なんで知ってんの?」

「そりゃあんだけ教室ででかい声で話してたら聞こえるよ」

「そっか」



 何も飾っていない今の飛音さんは去年会ったときとはまるで別人だが俺はこっちの方が好きだ。



「俺はそうは思わないけどな」

「あんた十分声でかいって」

「ははっ、そうかもな」





 ________





 夕日が校舎を真っ赤に染め上げ、校庭でランニングしている野球部員達の影を伸ばす。


 時の流れってのは案外早いもんで、来月にはもう体育祭が控えている。まあその前に中間テストがあるんだけどね。死にたい。


 でもそんな些細なことはどうでもいい。今俺は入学以来の夢である『女の子と2人でこの河川敷を一緒に歩く(ももちゃんを除く)』を達成しているのだ。


 飛音さんもわりと近所に住んでいるらしいからこれからは毎日一緒に帰れるのではと期待に胸を膨らませている。



「根賀ってさ、もう他の部活入ったりしないの?」

「帰宅部の楽さ知っちゃったからなー。他のとこ入っても今さらって感じだし」

「確かに」

「でもバスケ部っていうモテるブランド自分から捨てたのはちょっと惜しいことしたなって思ってる」

「女子からしたら結局は顔が判断基準だけどね」

「ひでえ」

「まあ嘘だけど」

「嘘かよ」



 やっぱり男は中身が大事なのだ。そう思っておかないとこの世の理不尽さに耐えきれなくなる。


 飛音さんのカバンについたなにかのキャラクターのキーホルダーがブラブラ揺れた。



「そのキーホルダー。高杉先輩に買ってもらったの?」

「だとしたらどーする?」

「ちぎって投げ捨てる」

「あははっ、結構横暴だね」

「俺高杉先輩嫌いだし」

「あたしも。まーこれは自分で買ったけど」



 ふと、飛音さんの表情に影が差す。



「………飛音さんが別れた日何があったか教えてくれない?」



 頬を撫でていたそよ風は止み、俺の声だけがその場に残る。


 飛音さんはちょっと困ったような笑みを浮かべてゆっくりと口を開いた。















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