第2話 飛音さんにもワケがある
俺たち2年3組は他のクラスと比べると若干女子の方が多い。
しかも男子からしてみれば、女子にかわいい子がいっぱいいるので当たりクラスと言わざるを得ない。俺の推しは
1年の頃はこの学校の花形であるダンス部に所属し、無邪気で明るい性格のおかげか(あと美貌)、圧倒的に広い交友関係を築き同期では知らない者はいないくらいの有名人になっていたが、今はその頃のきらきらした面影はない。ダンス部も退部したらしい。
飛音さんが完全に変わってしまったのは、サッカー部で学年問わず大人気な3年の
何か、酷いことをされたのだろうか。
それからの彼女は人と関わることを避け1人で毎日退屈そうな生活を送っていた。
あまりに急な変化だったため飛音さんの友達も何があったか迂闊に聞けず、まるで腫れ物を扱うような空気になったと聞いている。
当の高杉先輩もその事については話したがらず、今は別の彼女とよろしくやっているらしい。
でも俺にはどこか安心したような雰囲気が漂っているのも見える、気がする。
俺なんかが踏み込んでいい問題なのか分からず悶々とした日々を過ごしているのが現状だ。
今思えば、飛音さんに「本当の友達」っていうのはいなかったんじゃないだろうか。
こういう性格がまるっきり変わってしまうようなことがあったのに誰も詳細を知らない。
そんなのあんまりじゃないか。
1人でも誰か彼女に寄り添える人がいたならば、何かが変わっていたのかもしれないと思うとやるせない気持ちになる。
こんなことを考えるのは余計なお世話なのかもしれない。でもそんなことを考えるほどに俺はもう彼女のことをもっと知りたいと思ってしまっている。
今日もさりげなく彼女に話しかけてみよう。
いつか彼女が自分のことを話してくれる日のために。
________
「今日の日直お前じゃね?」
俺が朝自分の机に座るなり話しかけてきたこいつは俺の幼なじみである
思春期の男子高校生を体現したような性格をしており黙っていればモテるタイプのイケメン。おまけに高身長。ちょっと神様仕事しろよ。
「いやお前だよ。さりげなく俺に押し付けようとすんな。そんなことばっかしてるからいつまでもももちゃんと付き合えねえんじゃねーの?」
「待って最後の一言きついわ。朝から絶好調だな
「どうもどうも」
ももちゃんっていうのは同じく俺と大地の幼なじみである
お察しの通り大地はももちゃんのことが大好きだ。幼稚園のとき、ももちゃんに「おっきくなったらだいちとけっこんする!」と言われたことをまだ本気にしている。かわいい。
当のももちゃんは最近俺へのスキンシップが激しい。
なぜかと言うと大地に嫉妬させて早く告白させるためである。クラスでは天真爛漫な元気美少女キャラで通っているのにこういうことを平気でやるから昔からももちゃんはちょっと苦手である。大地から羨ましそうな目で見られんのちょっと苦痛なんだからな。できれば早くくっついて欲しい。
「………」
今もももちゃんは大地に気づかれないようにこっちを見ている。俺がなにかいらないことを言わないか監視しているのだ。怖すぎる。
ちなみにももちゃんが大地のことが好きなのは女子の間ではもうバレてしまっているらしい。ただその事にももちゃんが気づいていないというのはかなりおもしろい。ほら今も大地を見ているももちゃんを見て何人かの女子がニヤニヤしている。見られてるもとい監視されてんの俺なんだけど……。
「ほら仕事しろ仕事」
「くっそー!あほの燈なら騙せると思ったんだけどなー!」
「は?」
居心地悪すぎて早めに話を切り上げちまったぜ。言っておくが俺はちょっと勉強が出来ないだけで別にあほではない。別にあほではない。
そのとき教室の立て付けの悪いドアがガガッと耳障りな音を立てて開いた。
彼女は周りの視線をものともせずマイペースな足取りで俺の隣の席に座る。
毎朝のちょっとした静寂。
それもすぐに終わりクラスにはまた騒がしさが戻った。
いつもより早いな。同じクラスになってからはずっと遅刻ギリギリに来ていたのに。
カバンから教科書とか出したらいつもつるんでる奴らとおしゃべりしようと思っていたが、気が変わった。
「今日、ちょっと早いじゃん」
「まあね」
「なんで?」
「別に。なんでもいーじゃん」
「まあ…そっか」
飛音さんはたまにちょっと長い返ししてくれるけど、大体はこんな感じに冷たい返事しかしない。
道のりは長いなーとぼんやり思っていると、彼女の口からとんでもない一言が飛び出した。
「ねえ。今日ちょっと昼飯付き合ってよ」
「………え?……は!?」
「嫌ならいーけど」
「い、嫌じゃねーけど?別に……飛音さんがどーしてもって言うなら?」
「ん。なら昼休みに屋上来てね」
時代遅れの俺のツンデレを無視されて若干ショックだがこれは凄まじい進歩じゃないか?裏があるのほぼ見えてるけど飛音さんとランチできるなら関係ないよね!
その日の午前の授業中は世界が輝いて見えた。
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