飛音さんはひねくれてる
天茶
第1話 飛音さんはひねくれてる
桜の木もすっかり緑一色となり、クラスのみんなはだんだん新しい環境にも馴染んでいった。
高校2年生になってから1ヶ月が経った今、窓の外を退屈そうに眺める隣の席の彼女は何を考えているんだろうか。
何を考えているにしろ、今彼女の前の子が先生に当てられていることには気づいていないみたいだ。
「次、
俺は小声で彼女に告げる。しかし反応しない。なんだこいつ。
「……知ってるし」
なんだよ聞こえてんじゃんとは言わない。彼女は人との交流を避けたいタイプらしい。
俺は飛音さんの完璧な源氏物語の音読を聞きながら寝る体勢に入った。やっぱり5時間目は睡眠にぴったりなのだ。幸い席も後ろの方だしこりゃたまらん。
「ありがとう飛音。じゃあ次は…」
「先生。
「おい根賀なに寝とる。飛音が読んだとこの次の行から読め」
……なるほどね。そーいうことすんのね。
「覚えとけよ」
俺の小声の抗議は華麗にスルーされた。
________
1クラス30人ってのは一般的には少ない方だと思う。別に不満とかはないけど。
高校生になればきらきらした青春を送れると思いわざわざ女子生徒の方が多いこの学校に来たのに、現実というものはそんな甘くなく俺たちモテない男子高校生を襲った。彼女ができるのはやっぱり男前な奴だけなのだ。俺調べな。
モテる部活と言えばバスケだろと思い入ったはいいものの今年の2月に同期をいじめてた先輩をぶん殴って退部になった。別に後悔はしてないがそいつに彼女がいるのは今でもおかしいと思っている。しかも可愛い。この世はどこかバグってるんだ。
その事件以来俺は男にモテるようになった。つまり友達は増えた。素直に嬉しいが俺が欲しいのは彼女だ。放課後一緒に帰ったり寄り道してみたりデート行ったりエッチなことしたりというごくありふれたことがしたい。俺は欲望に忠実なんだよ。
そんなことを友達と愚痴ったり願ったりしてるうちに2年生になってしまった。
来年は進路が重くのしかかかるから青春できるのは今年だけと思った方がいいだろう。悲しすぎるぜ。
ただ今までとひとつ違うことがあるとすれば、それは気になる存在ができたことだ。
これが恋なのかどうかはまだ判断しかねるが、とりあえず仲良くなりたいという思いはある。
「何見てんの?」
「…桜」
「へぇ…桜ね。いいよね桜。もう花散ってるけど」
「幸せな奴らも早く桜みたいに散ればいいのにね。ほら、きれいなまま終われるじゃん」
「oh……」
うわぁ……。
どうも俺の気になる存在はかなりひねくれているらしい。仲良くなる自信なくなってきたぞ。
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