わたしのトラウマ[ 閲覧注意 ]

(注)これはわたしの個人的トラウマについてです。わたしの主観や感情で書いていますので、読まれて不快な思いをされる方もおられるかもしれない、と大袈裟なようですが[閲覧注意]と入れました。

 そんなネガティブなものは読みたくないと思われましたら、ここまででページを閉じてくださいますよう。


 人様には今更?ということだったりするかもしれませんが、忘れてしまいたいのにずっと残って消えなくなっている引っかき傷のようなものはやっぱりあります。

 思い出した引っ掻き傷の疼きに、書かずにいられなくなる時もあります。


 言い訳ばかりが長くなりました。

 お許しください。















 ■あれは、夫が何度目かの危篤状態をむかえた時だったと思います。

 それまで、病院に泊まり込んで(ホスピタルだったので、個室でした)いたわたしでしたが、さすがに子供たちの事も気になるし(子供達は自宅で実家の両親が見てくれていました)

 その日は少しだけ病院に断り、その間、子供たちの様子を見る為に戻っていたのでした。


 その間の付き添いは義母にお任せしました。

 実は義実家の方からは「あなたの悔いが残らないように存分に付き添ってやって」と付き添いの交代にも暫くは来て貰えなかったのですが。

(思えば、この時もわたしは知らされてなかったけど義弟の借金問題で大変だったんでしょうね)


 そんな時に病院から夫の危篤の連絡が入りました。

 ああ、今度こそは、もうダメなのかもしれない。

 助かることは奇跡が起きても有り得なくて、後は本当に死んでいくのを見ていることしかできない状態でした。

 日々、死に向かっている人が目の前にいて、出来ることは、ただ、痛み苦しみを少しでもいいから無くしてくださいとお医者様に頼むしかできないのです。


 それでも、何度もの危篤状態を乗り越えていたのは、本人の生きたいという、強い思いだったんだろうなと。


 わたしは3人の子供たちを連れて、タクシーに飛び乗りました。

 とにかく病院へ、病院へ、とその一心で。


 病院へ着き、病室へと急ぎます。

 そこには義母に義父も来ていました。


 わたしは夫の姿を見て思わず手を握りながら涙声で

「パパ!しっかりして!」と言いました。


 その瞬間、義父が

「聞こえる!声が大きい!うるさい!」

 と言ったのです。


 何かで頭を殴られたような気がしました。

 そんなに叫びまわった訳でもなく、そんな大きな声で言ったつもりもなかったのに。


 この場で、そんな言葉をこの人はわたしに言うのか。


 怒りというよりも、ショックでした。


 ならわたしに、なんと言葉をかけろというのか、この状況で。この人の妻であるわたしに。


 後で聞くと、危篤状態でも本人は聴力だけは残っていて聞こえていると聞いたから、と。

 だから聞こえる声で話すなと言いたかったようです。


 そんなことはわたしも聞いています。

 聴力と触感だけは最期まで残るということ。


 でも、「パパしっかりして!」という言葉は今際の本人にとって、そんなに聞きたくない言葉でしょうか?

 そう、声をかけることすら、いけなかったら、わたしは……。


 ここで感情をあらわにしてはいけない。

 この死にゆく人の前で、それをしてはいけない。


 ただ、その一心で、わたしは「すみませんでした」と謝って口をつぐみました。

 幸いにも、その時の危篤状態は持ち直しました。結局、夫は最期、わたしが病室のソファでうたた寝している間に逝ったのですから。


 この出来事から後、わたしは少しでも大きな声を出すのが怖くなりました。

 あの義父の「声が大きい!うるさい!」というのが耳の奥に再現されるのです。


 歳月が過ぎて、今はマシにはなりました。

 カラオケで大きな声で歌ったりできていますからね。


 でも人と話しながら、感情が良くも悪くも高まった時に、やっぱりあの声が聞こえてしまう時があります。


 そうして、自分の話し声を確認しているわたしがいるのです。

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