サンタさん流クリスマスの過ごし方

@OBASHU

第1話 サンタさんだって普通に高校生

俺の名は楠木 進

高校生、ケーキ屋の息子、そして言わずと知れたサンタクロースだ!

決して、頭をどこかに強く打ったわけでは無い。

僕の父も、祖父も、その祖父も、さらにその祖父も、さらにその祖父も、祖父も・・・・・・・・・・・すいません しつこかったですね・・・・・・・・・

とにかく、うちの家族は全員 サンタクロースなのだ!

しかし、俺は普通のなんの変哲も無いただの高校生だ。そして 今は冬・・・・

俺たちサンタを家業としている一家にとっては魔のシーズンがやってきた。

冬といえばなんだろうか、そう『クリスマス』だ!

俺はこのクリスマスのシーズンはいつもすごく忙しいので、僕は友達や恋人と過ごす楽しい『クリスマス』を送れた試しがない。まぁ 恋人なんていた事ないんだけど・・・・・・あ〜あ それにしてもめんどくさいなサンタの仕事!

なんて毎回冬が来ると憂鬱な気分になる。本当に勘弁して欲しい・・・・・・

と憂鬱な俺は国語の先生の話をなんとなく上の空で聞き流しながらどんよりした雲を見つめていた。

雲を見飽きると俺は無意識のうちに顔が斜め前の席に座る苫宮 莉子の方に向いていた。最近、暇になると彼女の方を向いてしまう。彼女はこの学年のマドンナ的存在でとてもいい子だと聞いている。せっかく席が近くなったのだから話しかけようと幾度となく試みたがどうしても話しかけられない。そして鈍感な俺はゆずの『恋、弾けました』を聞くまで自分が苫宮さんのことをどう思っているかに気付かなかった。最近はクリスマスのことと彼女にどう話しかけるかということで頭がいっぱいで授業なんかろくに聞けていない。

そして今日も安定でぼーっとしているうちに国語の授業が終わってしまった。

お昼休みを告げるチャイムがなると、幼馴染の鳥井轍(とりい てつ)がお弁当を持って俺の席まで来た。

「おい お前最近ぼーっとしまくってるけど大丈夫か?」

と轍が俺の顔を覗き込みなら言った。

「ああ 大丈夫だ」

と俺はあまり気のこもっていない返事をした。

「やっぱり おかしいな、病気か?」

と轍は俺のひたいに手を当てて熱を調べたが、もちろん原因は熱などではない。すると幼馴染の水戸涼子がやって来て

「進はきっと恋煩いよ」

とさらっと爆弾を落としていった。しかし轍はキョトンとした顔で

「涼子、コイワズライってなんだ?」

と涼子に聞いた。こいつは見た目以上のアホできっと脳みそを除いても空っぽに違いない。そして轍は悔しいが、いいやつすぎると行っても過言ではないナイスガイなので、クラスの女子からの受けは良い。だが、本人は俺以上の鈍感というかそれ以前にアホなので今のとこ彼女はいない。ちなみに涼子ももれなく轍に恋しているうちの一人である。

「恋煩いっていうのはね、その人を見ると胸がドキドキしたり、気づいたらその人のことを見てたりすること、つまり一日中その子のことが頭から離れないってことだよ」

と涼子が説明して轍の方を大きい目で見つめるが、轍はなるほどと感情のこもってない返事をしただけだった。わかっているとは思えない。

確かに 恋煩いをしているのはあっているがその相手が苫宮さんだなんて絶対に知られてはならない。涼子はどうせまたいらない世話を焼きたがるに違いない。

「おい 大丈夫か、またどっかと交信してたぞお前」

と轍がシュウマイを口に運びながら言った。

「ああ 悪りぃ」

と俺は答えた。どうか顔が赤くなっていませんように、と心の中で願いながらそれを誤魔化すようにご飯を掻き込んだ。その時だ

「あの この消しゴム、楠木くんのかな?」

という可憐な声が聞こえた。鼓動の音が早まるのが聞こえる。

振り返ると苫宮さんが消しゴムを俺の目の前に差し出しながら立っていた・・・

顔が真っ赤になるのを感じる。

湯気が出てそうだ。

「苫宮さん あ…ありがと」

と俺はタジタジしながら消しゴムを受け取った。そして苫宮さんは俺に消しゴムを渡すとどっかに行ってしまった。

「ほっほう」

と言った後に涼子はニヤリと笑った。

「なんだ?なんだ?」

と轍はバカだから気づいてないが今ので完全に涼子には気付かれてしまった。

だが轍は何事もなかったかのように弁当をものすご勢いでかきこみ

「ごちそうさまでした、よし進 サッカー行こうぜ!」

と言った。よしこれはいい逃げるアリバイができた。

俺が急いで弁当を食べサッカーに行こうと席を立つと、涼子が俺の襟を掴んで無理やり席に戻した

「轍さ ちょっと進と話があるから、先行ってて」

そして

「おう じゃあな進、早く来いよ」

と言って轍はサッカーに行ってしまった。待て 轍!!!と叫びたかったが涼子がものすごい睨んでくるので俺は逃げるわけには行かなかった。

「さあ 進、取引しましょ」

と涼子がにっこり笑った。その後 引きずられるようにして俺は校舎裏まで連れて行かれた。情けないと思う人もいるかもしれないが涼子は空手道場の娘で故に昔から喧嘩は男よりも強い

「あんた 苫ちゃんのこと好きなの?」

といきなり本題を切り出して来た。こいつ『苫ちゃん』ってと間宮さんと仲良いのか?

「いや あの その」

と僕は言葉を濁す。と涼子が今にも襲いかかって来そうな目でこちらを見た

「進 答えはYESかNOで答えて」

と言われたので、もう腹を括った

「わかった、わかった、YESだ」

と俺は言った。ものすごい恥ずかしいが、なんかスッキリした気がした。

「そうなのね まさかあの鈍感男、進が恋に落ちるなんて 私たちも年だな〜」

と涼子は言って、自分で笑った

「ごめん、ごめん それであのさ」

と涼子は俺の耳元に口を近づけて

「私が轍のこと好きなのは知ってるでしょ」

俺はこくんと頷いた

「取引しない?私があなたと苫ちゃんを結びつける恋のキューッピットになるからあなたは私と轍のことなんとかしてくんない?」

という提案をしてきた。悪くない提案だ、俺から直接には話しづらいが仲のいい涼子からなら無理なく話しかけられるかもしれない。それに轍なら話しやすい

「そりゃ いいな、よし 交渉成立だ」

とおれはいって涼子と握手した。

そしてこんなことがあったおかげで俺は午後の授業も上の空だった。そして上の空の状態のまま俺はぼんやりと家に帰った。

「おお 進 おかえり」

と父がにこやかに言った。すると奥から

「進 おかえり〜」

と母が出て来た。

いきなりで悪いんだが、例年のようにサンタさんの本を図書館で借りて来てくれないか?」

と父さんは言った

「は〜い」

と俺はいうとまっすぐ自分の部屋に上がって制服からパーカーとジーパンに着替えた。俺のサンタとしての初仕事はいつも図書館に行って新刊のクリスマスに関する本を読んでくることだ。そしてサンタさんが時代によってどう変化をしているかを報告するのが俺の毎年の恒例行事となっている。着替えが終ると俺は近所の図書館に向かった。そして誰もいない子供の本のコーナーに行ってクリスマスに関する本を20冊ほどとり、これまた誰もない畳のコーナーで寝っ転がりながら読み始めた。絵本はそんなに嫌いじゃない。なにせほっこりする絵とほっこりするストーリーがなかなか面白い。しかしいつになってもサンタさんは子供たちに夢運ぶいい人なんだなと絵本を読みながら俺は思った。そして半分くらい読み終わった頃

「楠木君だよね」

という声がいきなりした。どっかで聞いたことがある声だ。そして絵本を途中で閉じて顔を見上げると、なんと私服の苫宮さんが立っていた。俺は驚いて思わず立ち上がってしまった。

「苫宮さん…ど どうしてこんなところに?」

解いた後で、なんてトンチンカンな質問なのだろうと思った。図書館に本を借りに来たに決まってるだろう。

「ええ 弟に何か絵本でも借りて行ってあげようと思って」

と答えてくれた。俺はなんて答えていいのかわからないまま

「そうか」

と訳のわからない相槌を打った。

「ところで 楠木くんこそなにやってるの?」

と苫宮さんは優しい声で聞いてくれた。今のこの全く機能しない脳みそでクリスマスに関する絵本を読み漁っていた理由を聞かれても上手い言い訳が浮かばなかったが

「ああ うちの家ケーキ屋だから、どんなケーキがいいか こうやって絵本を読みながら考えるんだ」

と支離滅裂な言い訳をした。苫宮さんはふ〜んと言った。まあ そうなるだろうな 俺だってよくわかってないだから。その後 気まずい沈黙がしばらく続いた。まずいな、なんか話さなきゃと俺は思ったが、頭が真っ白でなにも浮かんでこなかった。そして 情けないことに最初に沈黙を破ったのは苫宮さんだった。

「あの 私にもその絵本読ませてもらっていい?」

と俺に聞いた。てっきり『あの じゃあ またね』だと思っていた俺は少し面食らって返答が遅れた

「あっ もちろん、どうぞ」

と俺はたどたどしく言った。すると苫宮さんはおれのとなりに座って絵本を読み出した。まるで夢のようだ。嘘だろ、と自分の頬を思いっきりつねった。

「痛っ」

と思わず声が出た。苫宮さんは不思議そうにこっちを覗いて

「いや、なんでもない 大丈夫」

と俺はいった。そのあとは大概想像できるだろう。僕は頭が真っ白になってクリスマスの絵本どころの騒ぎではなくなってしまった。心臓は張り裂けるくらいドキドキなって彼女の方をチラチラ向いてしまう。頑張って話しかけようと試みたがなんて言っていいのかわからず。情けないけど彼女から『これ面白いね』とか『おすすめは?』とか話しかけてもらって、それに対して答えるので精一杯だった。そして夢のような時間はあっという間に過ぎ閉館時間がやって来た。

「じゃあ また 学校でね」

と俺がいうと、苫宮さんはにっこり笑って

「じゃあ またね」

とこ脇に本を何冊か抱え、俺が帰る道とは反対の方向に歩いて行った。そんな彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見届けた後、俺は軽くスキップしながら家に帰った。えっ? ただの高校生じゃないかって? サンタらしい事をしていない?

まぁ まぁ 今度は多分 サンタらしい事するから・・・・・







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