最終話 圭のまわりにあるものは?

 京野かおる。修学旅行のとき、みづきをじっと見てた、変わったヤツだ。女のくせに自分のことを「ぼく」って言うし。だれに話しかけられても、それこそ、オレだったらイヤだなと思うような口うるさい先生とかが相手でも、笑顔で答えてるし。

 あいつ、どんなヤツなんだろう。

 泣いたらどんな顔するんだろう。


 そう考えた結果してきたことなのに、京野は泣かない。やり方が悪いのか?

「ケイ、許せない」

 京野、自分一人しかいないと思って言ってるんだろうか。聞こえてるっつーの。

 ケイってオレのことか? あんなことしてるのに、下の名前で呼んでもらえるのか?


「ねえ、かおるさんって好きな人いるの?」

 みづきは何をきいてるんだ。

「たとえば、圭とかどう思う? 私のおさななじみなんだけど」

 確かに、みづきには京野のことが気になるとは言ったけどな。そういう意味じゃねえよ。

 まあいいか。みづきが人の話をゴカイするのはよくあることだ。

「……だって、ぼくはみづきさんのことが好きだから」

 今なんつった? なんで好きな相手がみづきなんだよ。女同士だろ。


 京野にとっての一番はみづきか。そんなのつまんねえ。

 オレが、京野にとって一番忘れられない存在になってやる。

「女が“ぼく”だなんて気持ち悪いんだよ」

 これでいいだろう。今日のところは帰るか。

 ……って。なんでいるんだよ、みづき。

「みづき、何してんの? こんなところで」

「それはこっちの台詞よ」

「はあ」

「はあ、じゃないわよ。見てたんだからね。あんたが、あんたがかおるさんを」

 もしかしてばれたか? やばい。


 あれからだ。京野とみづきがいつもいっしょにいるようになったのは。

「清田、あいつら引きはなせないのか?」

「難しいな」

「今までだれかにばれそうになったときは、ごまかしてこれただろ」

「でもみづきはなあ。オレの親とかに出会ったら、何を言い出すか」

「くだんねえ。そもそも、清田が始めたことだろ」

「そうなんだけどさ」

「しょせん、清田はおさななじみには勝てないってことか。つまんねえ」

「そんなことよりさ、サッカーしないか?」

「サッカーなんかしても楽しくねえよ」

 じゃあなんで今までしてたんだよ。

「あーあ。せっかく面白いことが見つかったと思ってたのに。残念だ」

 オレはお前が残念だ。


 京野にはもう近付けない。みづきはあれから話しかけてこなくなった。

 友達だと思っていたヤツも、はなれていった。

 どうしてこうなったんだろう。オレ、どこかでまちがえたのか?

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