第13話 かおるの本音

「……やめろっ……はなせ……」

 ていこうしてもムダだってわかってる。だけど、あそこにだけは行きたくない。

 どうしてこんなことになったんだろう。修学旅行の前まではなかったのに。


 最初に始めたのは……心の中とはいえ、名前を出したくもない。Kだ。イニシャルなら許せるというわけでもないけれど。名字や名前で呼ぶよりはマシだ。顔を思いうかべなくてすむ。

 最初はK一人だったのに、すぐに男子が増えた。相手が一人だったらまだ、がんばったらはなれるチャンスがあったかもしれないのに。集まってくるとにげられない。

 こんなことして楽しいのかな。楽しいからやってるんだろうな。男子なんてきらいだ。

「K、許せない」

 こんな言葉、だれかに聞かれでもしたら。だけど、おさえられない。


「ねえ、かおるさんって好きな人いるの?」

 みづきさん? どうしてそんなこと聞くの?

「いきなりどうしたの?」

「たとえば、圭とかどう思う? 私のおさななじみなんだけど」

 男子なんてきらいだから、下の名前までいちいち覚えてない。

「ケイ、くん?」

「うちのクラスの清田圭のことよ」

 え、なんで。あんな人、一番きらいなのに。


 みづきさんに見られた。男子トイレから出てくるところなんて、だれにも見られたくなかったのに。よりによって、好きな人に見られるなんて。もうやだ。ひかれたらどうしよう。


「かおるさん、いっしょに帰りましょ」

「えっ」

 良いの? あんなことがあったのに。男子が言っているみたいに、ぼくのこと、気持ち悪いって、思ったりしないのかな。


「かおるさん、一つきいていい?」

「うん」

「言いたくなかったら別に良いんだけど。圭はかおるさんに、何やってるの?」

「それは……」

「ごめんね。この前、見ちゃったの。圭がかおるさんを連れて行くとこ」

 本当は言いたくない。だけどみづきさんなら。

「それから、中の音も聞こえた」

 もう見られたし、まじめだから言いふらしたりはしないだろうし。


 みづきさんはやさしい。多分今まで出会ってきた人の中で一番だ。

「これからは毎日いっしょに帰りましょ」

 うそ。本当に?


「みづきさんは、ぼくといっしょに帰ること、イヤじゃない?」

「どうして?」

「だって、ぼく、告白したから」

「別に、イヤじゃないわよ」

 うれしい。


 Kにはいやなことたくさんされたけれど、それがあったからこそ、みづきさんといっしょに帰れることになった。そういう意味では、K、きらいだけど、感謝はしてやっても良いのかも。

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