第11話 はるなんとかさんからのお手紙

  いじめられているきみへ


 きみは、学校に行きたくないって思うことがあるかな? まわりにいる人たちのことがきらいになることはあるかな?

 ボクにはあったよ。中学生のころ。

 女なのにボクなんて気持ち悪いって言われた。けられたりもした。だけど、ボクはボクでしかないし、納得がいかなかった。学校に行きたくなかった。みんなのことがきらいだった。

 学校がきらいだったからなるべく早く家に帰って、シュミであるインターネットばかりしてた。いわゆる、現実トウヒっていうやつ。ネットの世界ではボクが「ボク」って言っても、女だって言っても、だれも気持ち悪いなんて言わないから楽しかった。


 ある日、そのインターネットでたまたま、とある人の言葉を見つけた。鴻上尚史こうかみ しょうじさんっていう人。演劇の台本とか作ってる人だよ。今から、その人の言葉を伝えるよ。


「この世の中は、あなたが思うより、ずっと広いのです。あなたが安心して生活でき

る場所が、ぜったいにあります。どうか勇気をもってにげてください。」


 あのとき、この言葉がボクの心にズシンときた。どこかにある「安心して生活でき

る場所」のために、「にげて」も良いんだって、希望をくれた。


 そうしてボクがにげた場所。それは、芸能界だった。

 鴻上尚史こうかみ しょうじさんが関わっているような演劇のお仕事に興味を持って、インターネットでいろいろと調べた。そして、ボクみたいな中学生でも応ぼ可能な、芸能事務所のオーディションを知って、受けることにした。ラッキーなことにボクの両親は協力的で、オーディションを受けることに賛成してくれた。そしてこれまたラッキーなことに、合格して芸能活動を始めることになったんだ。


 きみがテレビを見てくれてるなら、ここからの話は大体知ってるよね。ボクは演劇に興味があったから元々は女優志望だったけど、今のお仕事はバラエティー中心。でも、楽しいよ。だって今は、ボクをいじめる人がいないから。

 もちろん、「どうして女の子なのにボクって言うの?」ってたずねてくる人はいる。だけどその人たちは、きちんと説明したらわかってくれる。

 ちなみに、高校は中学のころの知り合いがいないところに入った。芸能活動ができるようにという理由だけど、おかけであの人たちからにげられた。


 ねえ、きみのまわりにあるものはなにかな? イヤなことばかりなのかな?

 もしかしたらボクのように、にげられる場所、それを手伝ってくれる人が近くに存在するかもしれないよ。

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