第5話 帰り道

 あ、今日も目の前を歩いてる。

「かおるさん」

 はっ、しまった。見かけたからつい声をかけちゃったけど、あんなことがあった後だから、話しかけられるのイヤだったかしら。

 でも、ゆっくりだけど、こっちふり向いてはいる。

「みづきさん」

 にげたりはしないんだ。なんかひと安心。とりあえず、さっきのことをフォローしとかないと。

「さっきのはことは気にしないで良いからね。だれにも言わないから」

「……ありがとう」

 思い出させない方が良かったかな。っていっしゅん思ったけれど、この反応なら多分だいじょうぶよね。


 で、何話そうとしてたんだっけ。うーん。あ、そうそう。休み時間のときのこと。なんで私、忘れてたんだろう。

「ねえ、みづきさんって」

 聞く前にむこうからきた。

「ぼくのことどう思う?」

「どうって」

 どういうことを知りたいのかしら。

「うーん、背が高くて、歩き方きれいだなって」

「そうじゃなくって。自分のことをぼくって呼ぶこと」

「ん?」

 正直、今までそんなに考えたことなかった。そういう人なんだってくらいにしか。

「清田、くんは、女のくせに気持ち悪いって」

「は。何言ってんのあいつ」

 そんなのめずらしくも何ともないじゃない。学校では少ないけれど。ほら、げいのう人の、はるなんとかって人とかも使ってるし。

「女子って、大体自分のことは私とかうちとか言うよね」

「多いといえば多いけど」

「だから、女子なのにぼくって言うなって」

 圭、昨日かおるさんの話をしてたとき、そんなことは全然言ってなかったのに。なんで?

「でも、どうしても自分のこと、私って呼ぶのはイヤで」

 まじめな話してるのよね。ちゃんと聞かなきゃ。

「みづきさんみたいに女の子らしくもないし」

「そんなことないわよ」

「ううん。みづきさんは可愛いし、女言葉も似合ってる」

 はずかしい。今まで無意識で、「わよ」とか「のよね」とか言ってた。

「だけどぼくは、そういうしゃべり方をする自分は想像したくない」

「かおるさんは、男の子みたいになりたいの?」

「そんなことない! ぼくは男子がきらいだ!」

 ちょっと、いきなりどうしたの? びっくりした。ああ、でも。

「悪いこと言ったならごめん」

「いや。こっちこそごめん」

「だけど、悪いのは圭よね。男子ってひとくくりにしなくても」

「他にもいるよ。ひどい男子」

「たとえば? 何かあったの?」

「…………それは、言えない」

 なんかもやもやする。だけど、無理矢理知ろうとするのは良くないわよね。

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