第6話 後日談:そう遠くない未来の話

眠たくなるような暖かい日差しの日。

相も変わらず眠り続ける彼女の嫋やかな手をとりながら、レリックは今日あった他愛もないことをぽつぽつと語っていた。

「……そう言えば今日、教会の庭に猫が居たんだ。身体は小さいのに目は大きくてまん丸でな、可愛かったぞ」

昔も同じような会話をした記憶がある。

あの時は確か、猫を連れてくると約束したんだったか。

……結局、彼女に猫を見せてやることは出来なかったのだが。

「君が目を覚ましたら、可愛い猫を連れて来るよ。それに昔より絵も上手くなったんだ」

いくら言葉を零しても届かないと知っていても、君を目の前にすると自然に言葉が溢れてしまうのは、我ながら重症だと思う。



「……カミラは嘘吐きだ、どうしたって会えない時に君を想う時間は好きになれない」

時計を見ればそろそろ任務に行かねばならない時間を示していて、名残惜しく思いつつもカミラの手を離そうとした時、その手を強く握り返された。

「……え」

「嘘吐きとは心外ね、私は本当にそう思ったのよ?」


視界が滲む。

もう二度と見られないかもしれないと思っていた銀色が、此方を見つめているのがこんなにも胸を震わせる。

「……もちろん、一番好きなのはあなたと過ごす時間だけれど」

花がほころぶように笑う笑顔は、最後に見た哀しい笑顔を塗り替えるのに十分だった。

「……あの時の約束を果たせてくれないか?」


誰かから逃げる為でもなく、彼女を阻む為でもなく、彼女と手を繋げる今をどれだけ待ち望んだことか。

さぁ、可愛い猫を探しに行こう。

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君が忘れてしまっても 人鳥風月 @zintyouhuugetu

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