第5話 何度でも君を愛すると約束しよう
あの日からカミラさんは眠り続けている。
恐らく、ルシファーに記憶を改竄された彼女の脳が、レリックさんと接触したことにより強い負荷を受け一時的な休眠状態になっている、というのがベルゼブブさんの見解だ。
「ベルは病と豊穣、死と再生の力を持つからな、医療への理解も深い」
レリックさんは以前と変わらず任務に励み、他愛もない会話をして……暇があればカミラさんの元に行っている。
「……レリックさん、夕食の時間ですよ」
「あぁ……もうそんな時間か、ありがとう」
「レリックさん、酷い顔してる自覚ありますか?」
「酷い言い草だな……昔のシオリはもうちょっと可愛げがあったぞ。教育係だった阿部のせいか?」
「私は元からこの性格です……ではなく、酷い顔というのは顔色のことです。ちゃんと寝てますか?」
元々色白なレリックさんの顔はもはや蒼白で目の下にはどす黒い隈がありありと見て取れた。
「……あぁ、寝ているぞ」
「嘘ですね、昨日も一晩中ここに居たでしょう……カミラさんが心配なのは分かりますけど、私はレリックさんが心配です。このままじゃカミラさんが目覚める前にレリックさんが倒れてしまいます」
「……心配かけてすまない」
レリックさんが眠っているカミラさんの顔を覗き込んだ。
長い金髪が檻のように二人を覆い隠してしまって、表情は見えない。
「何年でも何十年でも……たとえ何百年掛かろうとも君を待つ覚悟はある。……あるけれど、それでも胸が苦しい時はあるんだ」
小さな、本当に小さな囁きが零れた。
「君が目覚めた時に、最初にその目に写りたい」
そう思うと眠れないんだ。
苦しそうに愛しそうに溢れる言葉は止まらない。
唐突に、この人は涙の代わりに言葉を零しているのだと、気付いた。
「……なんて、夢見がちなガキみたいだな。分かったよ、今日はちゃんと寝る。シオリに怒られてしまったしな」
「寝てくれるなら良いんです」
パチンと電気を消して部屋を後にする。
暗い部屋の中で白いシーツだけが朧気に浮かび上がっていた。
たとえ君が全てを忘れてしまっても、何度でも君の全てを愛すると約束しよう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます