第3話 モノクロの思い出

雪が降っていた。

朝から妙に肌寒いなとは思っていたが、外が一面の銀世界になっているとは流石に思わなかった。

「わぁ……」

思わず外で立ち尽くしていると、背後から上着を掛けられる。

「阿呆、風邪をひきたいのか?」

「あ、レリックさんおはようございます」

初任務の日からレリックさんと会うことが増えた。

といっても相変わらず忙しそうだが、必ず任務を終えるとこの教会に帰って来るのだ。

今まではそのまま次の任務に向かうことがほとんどだったのに。

一度、どうしてわざわざ帰って来るのか、と聞いてみたところ

「……一応、お前は家族だからな、家族の顔を見る為に帰ってくるだけだ。……お前をここに連れてきた責任もある」

とそっぽを向きながら答えてくれた。

どうやらこの人は、不器用に私のことを想ってくれているらしい。

安倍さんが言うことには、私を孤児院や学校からこちらへ連れてきたことと初任務で私が怪我をしたことを大分気にしているらしい。

……最終的には私が望んで来たのだからレリックさんが気にすることはないと思うのだが、それがこの人の不器用さであり優しさなのだと思う。

「……足の傷は大丈夫か?」

「もうとっくに治りましたよ、昨日も任務に行ってきましたし」

「そうか……ならいい」

白い息が小さな口から溢れる。

「今日の朝ご飯はシチューがあるみたいですよ」

「争奪戦だな、急ごう」

他愛もない話をする時間こそが一番尊いのだと知っている。



降った雪が全て溶けてしまった頃、任務から帰ってきたレリックさんが高熱を出して倒れた。

討伐対象の『夢幻ヴィード』が水を操るものだったようで、寒い中で濡れたまま長時間過ごしたことが原因らしい。

レリックさんは身体が成長途中で止まっている分、それ相応の体力しかない。

……あまり無理をしないで欲しいのだが。


「レリックさん、大丈夫ですか?」

看病の為に部屋を訪れる。

コンコンと扉をノックしても返事はなく、ドアノブを捻ると鍵は閉まっていなかった。

「……お邪魔します」

恐る恐る扉を開けると、以外に華やかな室内に驚かされる。

てっきり任務に明け暮れているから、必要最低限の物しか置いていないだろうと思っていた。

壁際にあるガラスの戸棚には大きな宝石のあしらわれた装飾品や繊細な絵柄の磁器がディスプレイされ、反対側の壁には私でも知っているような絵画が掛けられていた。

数々の宝物がある部屋のその奥で、豪奢な調度品に埋もれるように部屋の主は眠っていた。

あの力強い瞳が伏せられ、長い金髪を流している姿はあどけない少女にしか見えなかった。

起こしてしまわないようにそっと額に触れるとまだ熱は下がっていないようだったので、額の上の布を冷やし直す。


「……ラ?」

「あ、起こしてしまいましたか。体調は大丈夫ですか?」

「カミラ、なのか……?」

何時になくぼんやりとした様子のレリックさんは目の焦点も定かでなく、私と誰かを見間違えているようだった。

「レリックさん……?」

「頼む、置いて行かないでくれ……頼む……」

そう言って弱々しく腕を掴む姿があまりにも小さく見えて、私はその腕を離させることは出来なかった。

「……私はどこにも行きませんから、大丈夫ですよ」

「そうか……」

そう告げれば安心したように微笑んで、再びゆっくりと目を閉じて眠りへと落ちていった。

カミラ、とは誰のことなのだろうか。

もやもやとした疑問が胸に残った。



食堂で食事を貰ってから再びレリックさんの部屋を訪ねると、早くも目が覚めたようで今度は返事があった。

「まだ熱は下がってないんですから、大人しく寝ててくださいね」

「……」

むぅと口を尖らせる姿が頑是無い子供のようで少し微笑ましかった。



「……そう言えば、レリックさんって意外と物持ちなんですね」

「あぁ、この部屋にあるのは全部マモンへの対価だ。気に入った物があればやるぞ?……あいつは『手に入れること』には執着しても、手に入れた後は興味を無くすからな」

合点がいった。

確かに【強欲】の悪魔であるマモンが欲しがりそうな物達だ。

……あまり考えたくは無いが、マモンへの対価の総額は恐ろしいことになっているのではないだろうか。

「お前の対価よりは分かりやすくて楽だと思うぞ」

「いや、確かに私の対価はちょっとアレですけど……」

額に刻まれたダンタリオンとの契約印からダンタリオンの

「アレとは何だ、アレとは」

とでも言いたげな雰囲気が伝わってくる。

私のダンタリオンへの対価、【知識欲】は具体的に言うなれば『新しい知識を得ること』だ。

おかげで先日大きな任務を乗り越えた後は、対価を支払う為に図書室に籠りきりにならざるを得なかった。

「レリックさんって三体の悪魔と契約してるんですよね、他の悪魔の対価ってどうなってるんですか?」

私が知っているのは【強欲マモン】だけだが、一度雷のようなものを放っている所を見たことがある。

「他の……マリーは見たことがあったか?」

「雷みたいなのなら一度」

「あいつは特殊でな、【正義】を司る悪魔であらゆる不正や悪を裁く能力がある…んだが、その基準となる【正義】はあくまであいつにとっての正義だから、一般的な意味合いのそれとは少しズレてるんだよな……」

苦笑いするレリックさんのシャツから覗く胸に刻まれた蛇のような意匠の紋様____おそらくアンドロマリウスとの契約印____が抗議するように数度瞬いた。

「もう一体は…これは、企業秘密だな」

レリックさんはそう言って悪戯っぽく笑った。

レリックさんが契約している三体目の悪魔は誰も知らない。

一番最初に契約したというその悪魔は一体何者なのだろうか。

「ここまで言っておいて内緒ですか……?」

「【知識欲】の契約者相手には少し酷だったか?……仕方ない、それ以外だったら何でも答えてやろう」

駄目元でお願いすると、思ったより譲歩してくれた。

やはりこの人は私に甘い。


「じゃあ……カミラさん、ってどなたなんですか?」

この人が頼るような人、それがどんな人なのか酷く知りたかった。

「な、んでそれを……」

蒼い瞳が見開かれる。

この人がこんなに驚く所を初めて見た。

「ごめんなさい、レリックさんが魘されてる時に私と誰かを間違えて呼んだのを聞いてしまったんです」

「いや責めるつもりは無い……そうか、見間違えたか……」

蒼い瞳が何かを懐かしむように細められた。

「カミラは……とても大切な、人なんだ」


レリックさんが緩やかに語り始めたのは、遠い日の思い出だった。




カミラに出会ったのは確か……六歳の時だった。叔母さん____母さんの妹で流行病で亡くなった両親の代わりに哀れな孤児を育ててくれた人だ____にお使いを頼まれたんだが思ったより遅くなってしまって、近道をしようと思って廃墟になった洋館____大昔の貴族様だかの屋敷だったらしい____の庭を突っ切ろうとした。

新月の真っ暗な晩だった。

恐る恐る庭を進んでいたら誰もいないはずなのに、館の中にランプの灯りみたいなのが見えた。

その時はそれがどうしても気になって、屋敷へ入った。

灯りが見えたのは一階の左側の部屋、そこは図書室だった。

色の無いそこに彼女は居た。

古典的クラシカルなカンテラを傍においてゆっくりとページを捲る指先は一度も日を浴びたことがないように白くて、俯きがちな横顔に零れた髪は周囲の暗闇と同じ漆黒だった。

「……あら、珍しいお客さんね」

こちらを見やる瞳は美しい銀色だった。

「お姉さん、何でこんな所に居るの?」

「居たくている訳じゃないわ、でも私は外には出られないのよ」

当時はよく分からなかったが身体が弱いのだろうか、とぼんやり思った。

「一人で寂しくないの?」

「寂しい?……そう思ったことは無いわ、一人で居るのが普通だもの」

膨大な数の本に囲まれて淡々と発せられたその言葉が何だかとても悲しく思えて、気付けば彼女に向かって宣言していた。

「明日も来る!今日はもう遅いから帰るけど、明日もお姉さんに会いに来るよ。そうすれば一人じゃないでしょ?」

「……変な子ね、勝手にしなさい。ただし本を傷付けたら許さないわよ」

「分かった、じゃあまた明日!」


その日から、毎日のように彼女のいる洋館へ通った。

「おはようお姉さん、約束通り来たよ!」

「ねぇ、何の本を読んでるの?」

「今日ね、来る途中で綺麗な花を見つけたんだ。お姉さんにあげる」

「これはなんて読むの?」

「サンドイッチ持ってきたんだ、一緒に食べない?」


彼女のいる洋館へ通い始めてから季節が一巡りする頃、初めて彼女から話しかけられた。

「あなた、どうしてここに通い続けるの?」

何時もは本に向けられている瞳がこちらを向いている。

今まで質問には答えてくれても、それ以外には全く答えてくれなかった彼女から話しかけられたことにとても驚いて……嬉しかったことを覚えている。

「どうしてって……最初はお姉さんが寂しくないようにって思ってたけど、今は違うよ。お姉さんと一緒に居たいと思ったから来てるんだ」

彼女は無表情で無愛想で……優しい。

質問には丁寧に答えてくれる、高い所にある本を取ろうとすれば転ばないように見てくれている、昔あげた花を押し花にして持ってくれていることも知っている。

「居心地が良いから、ここに来たいから来たんだ」

「そう……」

「……迷惑だった?」

不安になった。

ここで静かに生きていた彼女にとって自分は酷く騒々しい存在なのではないか。

「別に、あなたが居ようが居まいが何も変わらないわ……それと、いつまで私をお姉さんと呼ぶつもり?」

「え、名前を教えてくれるの?」

「あなたが聞かないからよ……カミラ、これからはカミラと呼んで」

「分かった、カミラ!」

「私は教えたんだからあなたも教えて頂戴」

「レリック、レリック・グリード。レリックって呼んで!」




それから彼女____カミラは他愛もない世間話にもぽつぽつと返事をしてくれるようになった。

「今日、ここの庭に猫が居たよ。ちっちゃくて目がまん丸で可愛いんだよ」

「……猫ってどんな生き物なの?」

「見たことない?」

「無いわ、文書で読んだことはあるけどいまいちどんな姿なのか分からなくて……」

「じゃあ絵に書くよ」

ここの図書室は数多くの本がありながら、図鑑や挿絵の入った本はほとんど無い。

ランチボックスに入っていた紙ナプキンにカミラに借りた羽根ペンで簡単な絵を描く。

「猫はね、四本足で長いしっぽが生えてて三角の耳がぴょんってしてるんだ」

線はガタガタでお世辞にも上手な絵ではなかったけれど、カミラはそれをじっと見つめていた。

「……私も猫を見てみたい」

それは初めて聞くカミラの願いだった。

「じゃあ次に猫に会ったらそいつを捕まえて来るよ、待ってて」

「それは……楽しみだわ」

少し視線を下げながらほんの微かに口角を上げたあの表情は、確かに笑顔と呼べるものだった。

……結局、彼女に猫を見せることは出来なかったのだけれど。




彼女と出会ってから十年近く経った頃、叔母の元から自立し彼女の居る洋館の近くにある小屋で暮らすようになった頃、彼女は最大の理解者であり一番大切な存在になっていた。

「なぁ、どうしてカミラは外に出られないんだ?身体が弱い訳じゃないんだろ」

ある日、かねてからの疑問を口にするとカミラは一瞬きょとんとして、その後唇の端を微かに歪めた。

「レリック……あなた、悪魔について知っている?」


カミラは悪魔だった。

それも普通の欲で構成された悪魔でなく、【衝動】の悪魔。

衝動カミラ】の能力は悪魔の____ひいては『夢幻ヴィード』の強化。

それが『夢幻ヴィード』にとってどれほど魅力的か____想像に難くなかった。

「私が生まれた時、ある大悪魔が私をこの屋敷に封印した」

その時の記憶は朧気だけど、と微笑む横顔があまりに儚くてカミラが消えてしまいそうで怖かった。

「その悪魔は私に能力を使えとは言わなかったわ。でも外に出ることも許してくれなかった」

私はこの屋敷に監禁され護られているのよ

その言葉は酷く淡々としていた。

「でもある日、あなたが……レリックが来てくれた。……あの時は分からなかったけど、確かにあなたが来てくれて嬉しかったの。あなたに会ってから、私の世界に色が着いた。あなたと居ると全てが美しく見える、会えない時にあなたを想う時間も好きになったわ。……あなたがいつの日か来なくなる、それは多分……避けられないことだから。けど、お願いだからもう少しだけ、側にいて」

そう言って全てを諦めたように笑う彼女に酷く腹が立った。

「何で、カミラが決めるんだ!言っただろ、ここに来たいから、カミラに会いたいから来てるんだ!それを否定するのはたとえカミラでも許さない」

どうにもならないくらい言葉が溢れてしまう。

「カミラが本気で拒絶しない限りずっと通ってやるからな、覚悟しろよ!」

ぜいぜいと乱れた呼吸を整えていると、頭上から小さな笑い声が聞こえた。

「何笑ってるんだ……!」

「ふふっ……ごめんなさい、でもレリックの言葉が……まるで……熱烈な、告白みたいで……ごめんなさい、笑うつもりはなかったんだけど……」

口元を抑えて本当に楽しそうにカミラが笑うものだから、何だか毒気を抜かれてしまった。

「レリック、ありがとう。……私、あなたと一緒の時間を過ごしたいわ」

その言葉が聞きたかった。

彼女がそれを望んでくれたことが何よりも嬉しかった。


だから、無謀とも言える覚悟を決めた。

「ねぇ、カミラ。もしこの世から全ての『夢幻ヴィード』が消えたら、君は外に出られる?」

昔と違って同じ高さにある銀色をまっすぐに見る。

カミラは【衝動】の悪魔なんかじゃない、読書が好きで寂しがり屋で猫が好きな____普通の女の子だ。

「……本気で言ってるの?」

「カミラと一緒に買い物に行って、オシャレなカフェでご飯食べて、可愛い猫を探して、そうやって一緒に過ごしたいんだ」

君を自由に出来るなら、全ての『夢幻ヴィード』を狩り尽くそう。




その次の日、まずは『夢幻ヴィード』について学ばなくては、とカミラに教えを乞いに屋敷に来た時そこに彼女は居なかった。

「……は?」

床に落ちている壊れたカンテラ、開いたまま放置された本、そして姿の見えないカミラ。

嫌な予感がした。

「カミラ、何処に居るんだ!」

大声を上げて探し回っても何の返事もない。

焦りが募る。

「カミラ……?」

「……!」

本当に小さな声が聞こえた気がした。

それはほとんど入ったことのない二階からした。

恐る恐る軋む階段を登って行くと、奥の執務室と思われる部屋の扉が開いていた。

「今日はこっちに居たんだ…な」

言葉を失った。

見知らぬ男が彼女の首を絞めて、殺そうとしていた。

「っ……!!」

全身の血が沸騰するような怒りに任せて男に殴り掛かる。

「カミラを、離せっ!!」

男の手が緩んだ隙にカミラを引き寄せる。

元々白い肌からは更に血の気が引き、ぐったりとしていた。

細い首に着いた赤い痕が痛々しい。

「大丈夫か、しっかりしろ!」

「レリ…ク……逃げて……」

「カミラ?カミラ!」

ゆっくりと目を開いたカミラがよろめきながらながら男の前に立ち塞がる。

「美しい友情だな……反吐が出る。人間まで誑かしたのか」

男の蔑むような言葉が酷く癇に障る。

「カミラを悪く言うな!そもそもお前は何なんだ」

真紅の瞳を睨めば、男は愉快そうに笑った。

「俺様はルシファー、矮小なニンゲンよ、貴様ではこの女は手に余る。痛い思いをしたくなければ引け」

この男は何様のつもりなのか。

どこまでも傲慢な言葉が酷く不愉快だ。

「お前がすっこめクソ野郎!!」

そう吐き捨ててカミラを連れて部屋から走り出す。

カミラを、大切な人をこんな男に奪われてたまるか。

その態度は男の癇に障ったようで、男の顔からニヤニヤとした笑みが消えた。

「この俺様が忠告してやったと言うのに……後悔しても遅いぞニンゲン!」

「レリック、やめて!あいつには敵わない、あなたが死んでしまうわ。お願い、あなただけでも逃げて」

「……たとえ敵わないとしても、目の前でカミラを連れていかれるのを指をくわえて見ていられると思うか!?」


カミラの手を握って必死で走る。

どこまで逃げればいいのか、どうすれば逃げ切れるのか、全く分からない。

それでも足を止めることは出来ない。

森の中をどれだけ走っただろうか。

男の声も姿も見えなくなった時、ようやく足を緩めた。

「カミラ、大丈ぶっ……!?」

背後から突き飛ばされるような衝撃を感じる。

振り返るとそこには、振り切ったはずの男が居て……男の腕が胸を貫いていた。

「えっ……」

「レリック!!」

カミラの悲鳴のような叫びが聞こえる。

口から夥しい量の血が溢れた。

男の腕が引き抜かれると、身体を支えられず無様に崩れ落ちた。

「可哀想になぁ、お前に関わったせいで何の罪もない愚かなニンゲンが死ぬんだ。【衝動】、お前は封印されるべき害悪なんだよ」

「嫌、嫌よ!レリック、ごめんなさい、お願い死なないで!」

「カミ……ラ……」

銀の瞳から零れる涙が雨のように降ってくる。

身体が鉛のようだ。

言うことを聞かない身体を叱咤して、手を伸ばす。

「カミラ、泣か……ないで……君に、泣かれると……どうしたら……いいのか、分からない……んだ」

そっと頬に触れると、彼女の白い肌に血が付いてしまった。

あぁ、君の涙を拭いたかったのに。

「無理に喋らないで、どうしよう……血が止まらない……お願い、何でもするからレリックを助けて」

カミラが男に懇願する。

駄目だ、そいつから逃げなければカミラは……

「ならば俺様に服従すると誓え。そうすればそのニンゲンは助けてやる」

「誓うわ!誓うから、早くレリックを助けて」

「カミラ……やめ……」

「契約成立だな」

男が指を鳴らせば、胸の傷はあっという間に消えた。

「さぁ対価は払った。お前は俺様のモノだ」

「やめろ……行くな、カミラ……」

血を失いすぎた身体は思うように動かない。

必死で腕を伸ばした。



「さようならレリック……私、あなたと過ごす時間が何よりも幸せだったわ」

最後に見たのは哀しいくらい美しいカミラの笑顔だった。




「その後、カミラを屋敷に閉じ込めた大悪魔____ベルと出会った。……あいつはカミラの母、だったらしい。多分…カミラを閉じ込めたのはあいつなりの愛だったんだろうな……ルシファーからカミラを取り戻す、それで利害が一致したからな、ベルと契約した。それからずっと……ずっとカミラを探しているんだ」

レリックさんの表情は終始穏やかだったけれど、蒼い瞳の奥には愛しさと……深い悲しみの色が見て取れた。

「さぁ満足したか?」

「え、えぇ……不躾なことを聞いてしまってごめんなさい」

「まぁ隠していた訳じゃない、そもそも何でも答えると言ったしな」

そう言って微笑んだ時には何時もの凪いだ瞳に戻っていた。


「……あ、もしかして、初任務の時の首無し騎士がいきなり強くなったのって…」

「あぁ、カミラの能力かもしれないと思ったんだが……如何せん彼女が能力を使う所を見たことが無くてな……」

考えても答えは出ない。

その日はもう遅いから、とレリックさんに部屋に帰された。


翌日、もう熱は下がったから任務に行くと言うレリックさん対まだ安静にしているべきだと主張する医療部隊による熾烈な鬼ごっこが開催されていた。

もちろん医療部隊側として参加した。

休んで下さい。

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