#27 中の人などいませんよ

涼風翔也●ライブ


 サムネイルは、転生組メンバーが、英文で書かれた一通の文書を覗き込み、びっくりした表情をしている。

 タイトルは『転生組の正体が発覚!!』


 『いったいなにがおこるんですか』

 『NASAって書いてある』

 『とうとう宇宙へ進出か』

 『火星は制服したしな』

 『文章の特定班はいないか』

 『字が潰れてて読めない』

 『おまえ英文読めるのか』

 『すげーな』

 

 配信が始まる。

 スタジオの中央。MC席に涼風翔也がいて、その隣に高崎紫がいる。右側のひな壇に、タコさんウインナー、さくまどろっぷ、可愛美麗、水色あさがお、ピュア・ピンク、ラリィ=ル・レロが並んでいる。


「さあ、始まりました。今回はですね、皆さんの正体を、がっつり暴いてやろうと思いま~す。涼風翔也です」

 メンバーから、パチパチパチと、小さな拍手が送られる。

「不本意ながら、皆さんの正体を暴くことに加担した、高崎紫です」

「ブー」

「ブー」

「ブー」

 メンバーからブーイングがあがる。

「皆さんは、死後、この世界に転生しました。一年以上、この世界で暮らしてみて、いかがですか?」

「…」

「…」

「…」

「反応、薄いですね~。紫さんはどうですか?」

「充実してましたよ」

「ホントですか?」

「生きていた時の煩わしさから解放されて、現実の世界とつながって、友人とも話してますし、同人誌出版できてますし」

「転生して良かったと?」

「まあ、そうですね」

「もし、今、転生せずに、生身の人間として生きていたら、なにをしていたと思いますか?」

「普通に同人誌、描いてますね」

「生きていた時の煩わしさとはなんですか?」

「食べたり、クソしたり、生理、風呂。全てがめんどくさかったね」

「今の世界は、まさに、理想の世界ですね」

「まあ、そうですね」

「みなさんはどうですか?」

「…」

「…」

「…」

「あれ? 反応薄いな~」


「涼風さん、本題へ行きましょう」

「そうですね。みんな、サムネ見たかな?」

 『見た』

 『みた』

 『みた』

「なんか、気がつきましたよね?」

 『NASA』

 『NASA』

 『NASA』

「そうです! あのNASAからメールが届きました」

 『草』

 『草』

 『冗談でしょ』

 『そんなバカな』

「マジです。さっそく見てもらおう!」


 画面に、メールの全文が表示される。

 受信者はマスクしてあるが、差出人は、NASAのオフィシャルなものである。

「英文の読めないみなさんのために、俺が読んでやろうと思ったが、長いので、重要な部分を読み上げると、ここ!」

 メールの一部に赤線が引かれる。

「先日のイベントにおいて、あなたたちが、外部からアクセスしている痕跡は存在しませんでした」

 『ふーん』

 『ほう』

 『それで』

 『それがなにか』

「これがなにを意味しているかというと、中の人などいないということが証明されました」

 『え?』

 『おー』

 『それはすげーや』


「涼風さん、経緯を説明しないと」

「失礼しました。俺は、実は転生者ではありません」

 『知ってた』

 『しってた』

 『なんかわかってた』

 『やっぱり』

「俺、涼風翔也の中の人は、某大学の准教授です。転生組のメンバーの中の人が、死者をかたっていることに憤りを感じまして、中の人の正体を明かそうとしていました」

 『なんだって』

 『最低だな』

 『ストーカーじゃん』

 『特定厨か』

 『あんた最低だな』

「経緯を説明すると長くなるので割愛しますが、なんと今回、俺とNASAの協力により、NASAから、転生組メンバーに中の人はいないと、正式に証明されたのです」

 『お~』

 『パチパチパチ』

 『おめでとう』

 『そいつはめでてーや』

「というわけで、涼風翔也さんのご尽力により、私たちはメタバースの世界で生きている事が証明されました」

「しつこい不謹慎厨には、このスクショを見せて撃退してください」

 『おお』

 『すげー』

 『NASAお墨付き』

「どうせフォトショで加工したんでしょ? というやからは、NASAに直接お問い合わせください。もっとも、おまえらが公文書レベルの英文、作れるとは思えねーけど」

 『煽りおる』

 『せやな』

 『一般人のメールなんて無視させるだろ』

「あなた今、良い事言いました。そもそも、俺がNASAとやりとりしてるのも、最初、NASAからメールきたからだし」

 『すげー』

 『マジか』

 『すごすぎて草』

 水色あさがおが手を上げる。

「すいません。NASAってなんですか?」

「えーとね、アメリカ航空宇宙局って知ってる?」

「あーそれ。なんか聞いたことあります」

「それです」

『ざっくりだー』

 『その説明でわかるのか』

 『あさがおならOK』




「今日は、みなさんに中の人などいない、純粋なVTuberであることが証明されたスペシャルです」

「MCは涼風翔也さん。アシスタントは私、高崎紫でお送りします」

「順番に、今の気持ちを訊いていきましょう」

「質問内容にはご配慮願います」

「わかってますよ~。それじゃあ、タコさんウインナーさん。死んだ時ってどんな感じでしたか?」

「ちょっと! 私の言ったこと聴いてました!?」

「死んだ時の感じなんて、死に戻りした人じゃないとわからないし。訊いてみたい」

「止めてください」

「わかりました。改めて、タコさんウインナーさん、走馬灯って見ました?」

「だから止めなさいって!」

「おまえら、天丼は2回までって決まってるんだよ。俺にしゃべらせろ」

「それじゃタコさんウインナーさん、どうぞ」

「正直、死んだ時の事は覚えてねーな」

「はい。この話終了」

「中の人がいないと証明された、今の気持ちをどうぞ」

「特に、なにもない」

「デジタルの世界に転生したってことは、ほぼ、不老不死じゃないですか。そんな世界で何をしますか?」

「俺は火星にハーレムを作るんだ」

「タコがですか?」

「悪いか?」

「それじゃ、今いる女性メンバーがハーレム要因って事になりますよね」

「それはねーな」

「どうしてですか?」

「タイプじゃない」

「ちょっと、あたしはハーレムに入れてくれないの?」

「どうしました、ラリィさん」

「タコさん、あたしを抱いてくれるって言ったのに」

「抱くって、抱きしめるの意味な」

「セックスしてくれるって言ったじゃん!」

「そんなこと言ってねー!」

「ひどい。あたしのこと捨てるのね」

「捨てるもなにも、拾ってねーし」

「う゛う゛う゛う゛う゛、うわ~ん」

 ラリィは泣き出した。



「なんか、ややこしくなったので、別の方にお話しいただきましょう。さくまどろっぷさん、いかがですか?」

「転生組のメンバーと、楽しくやっていきたいわね」

「例えば?」

「このあいだのイベントみたいにね」

「イベント楽しかった!」

「ピンクちゃんとデュエットしたね」

「かっこ良き。決まった」

「そうだね」


「中の人がいないと証明されたんですよ。それを踏まえてやりたいことありませんか?」

「う~ん。証明されたことで逆にやりにくくなったわね」

「それは?」

「VTuberのみんなって、私生活をある程度、オープンにしているじゃない。〇〇でスイーツ食べたとか、スポーツクラブに通っているとか、斧を投げてきたとか。そういう、生きている体感を、発信できないのは残念ね」

「あたしもそう思います!」

 手を上げたのは、可愛美麗だ。

「配信ではなんども言ってるけど、女性の身体になって、ショッピングとか、スイーツ食べたりとか、しかたった」

「あたしも友達と遊びたい」

 そう言ったのは、ピュア・ピンクだ。


「要するに、生きている人が、体感しているような配信が、できないという意味ですか」

「そうね」

「そうだよ~。もっと生きたかった」

「おとなになりたかった」


「水色あさがおさん、どうですか?」

「あさは、ゲーム好きだし、リスナーと話すのも好きだし、ていうか、中の人がいないってそんなに大事ですか?」

「それはね、2.5次元を愛する人の、永遠のテーマであって、結論は出ないかなあ」

「ふーん。とりあえず、今、楽しいので、このままで良いです」

「高崎紫さん、いかがですか?」

「私も同人描けてるからなあ。ぶっちゃけ生きている時となんら変わらない人生を送ってるから、中の人がどうのこうのって、それこそ今さらどーでもいいんだよね」


「これからの展望は?」

「アニメやりたいね」

「やりたい!」

「アニメなー」

「やりた~い!」

「良いわね、アニメ」

「どんなアニメがやりたいですか?」

「魔法少女ピュア・ピンク!」

 くるっと回って、決めポーズ!

「ラスボスはタコさんウインナーで決まりだね」

「だねー」

「そうね」

「他にいないでしょ」

「ちょっと待ておまえら。見た目で俺をラスボスにするな」

「あさがおちゃんは、スポーツ得意だっし、ゲームも上手だから、騎士に限らず、オールランダーじゃない?」

「あさは、戦い嫌いだから、お城の庭で花、育ってる」

「ゲーム参加しないのかーい」

「ガーデニングだね」

「紫さんはどうですか?」

「さらわれた姫」

「なぜ?」

「一日中、寝てられるから」

「それ、ス●リス姫やん」

「さくまどろっぷさんは、ヒーラーですねー」

「決まりだね」

「まあ、あたしができるのはそれぐらいだと思うから、回復は任せて」

「魔法使いがいません」

「魔法使いは美麗さんでしょう」

「実感ないですね。魔法使いはどっちかというと、紫さんだと思います」

「なんで私が魔法使い」

「黒魔術得意そう」

「それはあるね」

「黒魔術師」

「私ってそういうキャラ? まあいいか」

「ラリィは?」

「大ボスの触手に絡め取られ、戦いの援護をする、女魔族」

「タコさんとの絡みは絶対なんですね」

「大ボスが倒された時、タコさんウインナーの精気を吸って成長し、真のラスボスになるの」

「真・大魔王ラリィ 降臨」

「おお! なんかラスボス戦ぽい」

「真・大魔王ラリィを倒した暁には、世界に平和が訪れる」

「ハッピーエンド」

「おわった」

「終劇」

「The End」

「スタッフロールが流れて、その最後に選択肢 >おわるorつづける」

「それ絶対、つづける奴じゃん」

「ゲームとはそういうものだよ」

「ゲームじゃないよね? アニメの話だよね?」

「いろんな意見を言ってみよう~って感じだね」

「みんなの意見を集約して、企画します」

「楽しい作品ができることを期待してます」




「今回は、NASA公認、メタバースに転生した転生組のみなさんとお話ししました」

「ありがとうございました」

「これからどうしますか? リーダー高崎紫」

「やっぱ、アニメやりたい」

「自主制作ですか?」

「テレビで」

「大きく出ましたね」

「ぶっちゃけ、テレビなんてオワコンなんですけど、転生組をアニメにしたいという制作会社がいるのなら、出てやらんでもない」

「ずいぶんと上から目線ですね」

「今のテレビは、YouTubeやSNSから素材を得て放送してるんですよ。だったらテレビ見ないで、最初からYouTubeやSNSの方を見ますよね」

「実際、これネットで見た! ってネタを放送してますからね。しかも複数の番組やテレビ局で」

「こんな転生組ですが、アニメ化したいという制作会社がいらっしゃいましたら、ご連絡お待ちしてます」

「ちなみに、作って欲しい制作会社さんありますか?」

「京都アニメーションか、ジブリで」

「それじゃあみなさん、さようなら~」ノシ

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