#25 イベントする ─後編─

 真っ白な空間に、X軸とY軸とZ軸を示す線が走っている。


 そこに、ひとり、ふたり、さんにん。次々に人が集まってくる。


 集う人々は、皆、このライブの参加者だ。それぞれが、思い思いのアバターで来場してくる。

 『白い』

 『白いな』

 『デフォのステージ』

 『いきなり手抜きで草』




 現実の世界。

 参加者は、VRゴーグルをセットし、自分のアバターを作成して参加する。

 VRゴーグルがない人は、有料配信で視聴する。




 企画当初。

 高崎紫は、小さなハコを借り、スクリーンに映像を投影して、参加者に鑑賞してもらうスタイルを考えていた。実際にハコを探し、映写機やスタジオのセッテイング費用、レンタル料などを試算した。予算は潤沢だから、できないことはなかった。

 しかし、自分のやりたいことと違っていた。


 私たちは、メタバースの中に生きている。それをスクリーンに投影するだけで、私たちの体感を、生きている人たちに体感してもらえるだろうか?


 答えは、否。


 メタバースの環境も、だいぶできてきた。この世界にリスナーを招き入れて、楽しんでもらう。それでこそ、我ら転生組の真骨頂だろう!




 真っ白な空間に、学習机が現れる。

 高崎紫が現れ、机に向かって漫画を描いている。

 参加者が、その周りを取り囲む様に集まる。

 一心不乱にペンを走らせると、そのペン先から、鮮やかイラストが紡ぎ出されてゆく。

 『おお』

 『うま』

 『可愛い』

 『この娘、だれ?』

 『オリジナルじゃね?』

 『転生前はBL作家だっけ?』

 『壁サークル』

 『マジか』

 『修生液でググれ』


 筆は、学習机から離れ、参加者を包むように、白い世界を色鮮やかに描きなぐってゆく。世界は虹色に染まって、参加者たちを包む。

 『ここは天国ですか』

 『現代アート』

 『目がチカチカする』

 『目がーっ! 目がーっ!』

 筆は再び、学習机の上に戻ってくる。そこで描かれたのは、黒丸墨括弧くろまるすみかっこ最期の絵。男同士のからみ。

 『腐っても絵師』

 『腐った絵師』

 『良い最終回だった』


「気がつけば、真っ白なデジタルの世界。最初、何をしていいかわからなかった。とりあえず、他のVTuberに習って、ゲーム配信をはじめた。でも、ゲームはうまくない。フォロワーも集まらない。フォロワーの多いVTuberを見てみた。みんな、キャラクターが立っている。他のVTuberとのクロストークがおもしろい。私も仲間が欲しい。よしっ! 仲間を見つける旅へ!」




 場面は、病院の一室に変化する。

 病院のベッドに横たわる、さくまどろっぷ。点滴と酸素吸入器を付けた少女の姿は、悲壮感しかない。

 参加者が彼女のベッドを取り囲む。

 うっすらと目を開ける、さくまどろっぷ。

「孫たち、来てくれたのかい」

 『孫?』

 『孫!?』

 『まご』

 『俺たち孫だったのか』

 見た目8歳が言うと、ギャグにしかならない。

「あたしは、孫を抱くことなく逝ってしまった。だれか、抱かせてくれないかい。あ、あなた。あたしの孫にそっくり」

 『おばあちゃん』

 『ばあちゃん』

 『ばあば』

 『ばぁば』

 『ババア』

 指した一人のアバターが小さな赤子に変わる。ベットから起き上がり、その孫を抱く。

「ああ、これで心置きなく転生できる」

 点滴と、酸素呼吸器と、バイタル測定器が外れて、入院服から、さくまどろっぷの衣装に変身する。

 病室だった部屋は、人形とおもちゃの、さくまどろっぷの部屋に変わる。

「みんなありがとう。あたしは、この世界に生まれ変わった。ここで8歳から人生をやり直す」

 『やりなおそう』

 『やり直そう』

 『何があったかは訊かないよ』

 高崎紫が声をかける。

「あなたもこの世界に転生したんですね」

「そうみたい」

「私は高崎紫。一緒に、VTuberやりませんか」

「いいわ」


 ♪テッテッテ・テレレー


 『さくまどろっぷが仲間に加わった』

「よろしくね。紫さん」

「次の仲間を探しに行きましょう」




 荒涼とした火星の大地に、参加者がワープする。

 『どこ』

 『どこ』

 『どこここ』

 『赤いな』

 ナレーション:高崎紫

「ここは、火星」

 『火星だって』

 『やっば』

 『酸素ボンベ』

 『空気が』

 『息ができない』

 『俺が口うつししてやる』

 『ハアハア』

 大地を歩いて行くと、巨神兵のように、真っ赤なタコさんウインナーが、丘の向こう側から現れる。

 『タコ』

 『タコ』

 『巨人兵w』

 『庵野作画きたこれ』

 口を開けると、青白い光が集まり閃光がビームになって、参加者を薙ぎ払う。火星の空に舞う参加者たち。

 しかし、景色は良い。

 『やられた』

 『撃たれた』

 『飛んでるし』

 『とんだ』

「おろかな人間ども、薙ぎ払ってやる!」

 やさぐれた、タコさんウインナー。


 空へ四散した参加者たちが、タコさんウインナーに群がり、優しくなでる。


 ♪ふっふ ふふ ふふー (著作権ギリギリまで書いています)


「参加者が心を開いておる」

 タコさんウインナーは怒りをおさめ、元のサイズになる。

「8歳のババアに代わって見ておくれ」

「まるで、ウインナーを手でなでているみたい」 CV:高崎紫

「その者、紅き衣をまといて赤色の大地に降り立べし…。伝説は真であった」


  (なろう投稿規約ギリギリまで書いてます)


 慈愛の心で、さくまどろっぷが語り掛ける。

「人間は優しいのよ。あなたはたまたま、人の醜い部分にふれてしまっただけ」

「俺は、やり直せるのか?」

「周りを見て。あなたを待っている人がいる」

 『別に』

 『待ってねぇし』

 『だれか待ってた?』

 『待ってねーな』

「一緒に行きましょう」

「どこへ?」

「VTuberの世界へ」


 ♪テッテッテ・テレレー


 『タコさんウインナーが仲間に加わった』

「よろしく」

「こちらこそ、よろしくね」

「さあ、次の仲間を探しに行きましょう」




 場面は、学校のプールに変わる。

 着替え室で、もじもじしているのは、可愛美麗。周りの男子が、腰にタオルを巻いて着替えているのに対し、美麗は、首まですっぽりバスタオルをかぶって着替えている。それを周りの男子にからかわれる。

 『あーこれな』

 『経験ある』

 『俺も嫌だった』

 『プールの授業なかった』

「あたしは女。身体は男だけど、心は女。だから、男子に見られるのは、ずっと恥ずかしかった」

 美麗から聖なる光が輝くと、艶やかな美麗に変わる。

「転生して生まれ変わった。あたしは、身も心も、女性になれた」

 ビキニの水着を身にまとい、例のプールに飛び込む。ぎこちなく泳いで、なんとかプールを泳ぎきる。プールサイドに手をついて、一気にプールから飛び出る。

 プールサイドに立った彼女の髪から水が滴って、バストからへそ、鼠径部を伝い、太ももからふくらはぎを通って、つま先からプールサイドを湿らす。

 『エロ』

 『エロ』

 『ハアハア』

 『(*´Д`)ハァハァ』


「どう? みんな。あたし綺麗?」

 『綺麗です』

 『綺麗です』

 『綺麗です』

 『抜いた』

「ありがとう」

 そこに、高崎紫、さくまどろっぷ、タコさんウインナーが現れる。

「ようこそ。転生した世界へ」

「あたし、転生したんですね」

「はい。現実の世界で身にまとっていた、男の身体は死にました。あなたは、女性VTuberとして転生したのです」

「そうなんだ」

「私たちも、現実の世界の肉体を捨て、この世界に転生しました」

「なんか、自由な身体ですね」

「バーチャルの世界ですから、なんでもありです」

「そうか、男のあたしは死んだんだ」

「女として生まれか変わった。可愛美麗さん。私たちの仲間になりませんか?」

「仲間?」

「デジタルの世界に転生した同士が集まる『転生組』に」

「素敵ですね。是非、仲間に入れてください」


 ♪テッテッテ・テレレー


 『可愛美鈴が仲間に加わった』

「よろしく」

「よろしくお願いします」

「さあ、次の仲間を探しに行きましょう」




 凄惨な交通事故現場。

 コンビニの駐車場を急発進したト●タのプ●ウスは、交差点で信号待ちをしていた、女の子をひき殺した。

 身体は四肢がありえない方角へ向き、身体中に擦過傷さっかしょうを負い、裂けた動脈から噴き出した鮮血は、横断歩道の白いゼブラゾーンを真っ赤に染めた。

 誰が見ても、ひかれた女性が死んだことを理解した。それでも、救急車はやってくる。

 『グロ』

 『これはひどい』

 『高齢者には免許の有効期限を儲けるべきだ』


 真っ白なデフォルトの世界に転生した彼女の元に、仲間が集まる。

「あたし、死んだんだ」

「はい」

「あたしはこれから、どうしたらいいの?」

「VTuberになってください」

「VTuberってなんですか?」

 バグが、他のVTuberの動画を見せる。

「なんか、楽しそう」

「やりますか?」

「はい」

「名前はどうする?」

「う~ん、『水色あさがお』」

「どうして?」

「水色の朝顔が好きだから」


 ♪テッテッテ・テレレー


 『水色あさがおが仲間に加わった』

「よろしくね」

「よろしく」

「さあ、次の仲間を探しに行きましょう」




 水色の朝顔が咲く。

 それは何輪にもって、参加者を包み、プ●ウスを包み、血で染まった交差点を包み、やがて公園の生垣に変わる。

 その生垣の中で、ピュア・ピンクがうずくまっている。

「どうしたの?」

「わかんない。気がついたらここにいた」

「そう」

「…」

「ねえ、一緒に遊ばない?」

 生垣の向こうに公園が広がる。

 公園にはたくさんの遊具があり、参加者が集まっても十分、あまりある広さだ。

 集まった参加者は、さっそく、身近にある遊具で遊びはじめる。

「みんなも遊びたいって」

 『遊ぼう』

 『あそぼう』

 『ピンクちゃんあそぼう』

「わかった。遊ぼう」

「なにして遊ぶ?」

「だるまさんがころんだ。あたしが鬼やります」

 参加者と、だるまさんがころんだに興じるピュアピンク。さくまどろっぷが審判になってゲームスタート。次々と脱落する参加者に、とうとう、鬼を捕まえる者が登場。捕まった鬼がさっと逃げる。

「次は、あたしが鬼になろう」

 さくまどろっぷが、鬼を買って出る。

 ピュアピンクが逃げる。

 参加者を交えた鬼ごっこは、大きな笑い声と、喚声と、怒号が飛び交い、大賑わいだ。

 やがて日が暮れる。

「ピュア・ピンクちゃん。あたし達の仲間にならない?」

「いいよ」


 ♪テッテッテ・テレレー


 『ピュア・ピンクが仲間に加わった』

「よろしく」

「よろしくです」

「さあ、次の仲間を探しに行きましょう」




 ラリィ=ル・レロ登場。

「あたしの歌を聴け!」

 一転、ライブ会場と化したステージで、ライブがスタートする。

 持ち歌の●●●48のメドレーを、ダンスを交えて歌い上げる。

 『●●●48』

 『●●●48か』

 『にてる』

 『衣装まじもん?』


 〆は、彼女のソロ曲。

「すっごーい! まるで本物の●●●48みたい。あなたは、秋本●のフレンズだったんだね」

「まあ、昔取った杵柄ってやつ?」

「是非、転生組に入って」

「OK]


 ♪テッテッテ・テレレー


 『ラリィ=ル・レロが仲間に加わった』



 ステージが暗転する。『残酷なテーゼ』の冒頭が流れる。

 綾波レイのコスプレをした、高崎紫が登場する。そして、熱唱。

 『草』

 『草』

 『草』


 紫の衣装が、暁美ほむらに変わり、『君の銀の庭』を歌う。ステージはまるで犬カレーのよう。

 『草』

 『草』

 『ほむらちゃん』



 ステージが暗転し、たこ焼きの鉄板が現れ、たこやきが焼かれる。

 タコさんウインナーが丸い皮から顔を出し、『およげたいやきくん』の曲に乗せて、替え歌『およげたこ焼きくん』を歌う。ステージは海の中を泳いでゆく。

 『たこ焼きw』

 『たこやき』

 『たいやき』


 突然、いさじのTシャツを着て『バラライカ』を歌う。

「うほ」

 『タコが』

 『タコの足が』

 『タコの足が絡みあう』

 『アー♂』



 ステージは暗転し、可愛美鈴がキューティハニーのコスプレで登場。『キューティハニー』を熱唱する。

 『エロ』

 『エロ』

 『エロ』

 衣装は、ロミオとシンデレラに変わり、『ロミオとシンデレラ』を熱唱する。

 『エロ』

 『エロ』

 『エロ』



 ステージは暗転し、雪が降り始める。

 水色あさがおが、雪ミクのコスプレで登場し、『好き!雪!本気マジック』を、初音ミクの高いキーで歌い上げながら、足太ぺんたの振りを踊る。背景にはもちろん、観覧車。

 観覧車のライトが、そぼ降る雪を鮮やかに染める。

 『空気を読む観覧車』

 『踊り完璧』

 『さすが』


 雪は桜吹雪に変わり、ステージは花魁道中に変わる。

 メイリアの『極楽浄土』を、完璧な振り付けで、歌い上げる。



 桜吹雪は、若葉に変わり、一本の鉄路を電車が走る。

 さくまどろっぷが『良い日旅立ち』をしっとりと歌い上げる。

 若葉は嵐の様に荒れ狂って、ピュア・ピンクが『うっせえわ』を熱唱する。

 若葉から夏のビーチへ。

 さくまどろっぷは、メグッポイドの水着に変わり、ピュア・ピンクは巡音ルカの水着に変わる。ふたりで『ハッピーシンセサイザ』歌い踊る。


 ふたりの衣装はゴスロリに変わり、ステージは月明かり照らす夏の夜。少女がふたり、『淋しい熱帯魚』を無表情で歌う。

 『Winkだ』

 『Winkがいる』

 『可愛い』



 ステージは明るくなると、転生組メンバー全員が登場する。そして、『サライ』を歌う。

 『草』

 『草』

 『なぜサライw』


 一転、メンバーの全員が、陰陽師に変わり、『レッツゴー!陰陽師』。

 タコさんウインナーが安倍晴明のコスプレをして歌い、巫女コスプレ高崎紫。

 ♪ーーーーーーーー

 「転生組不可思議にて、うさんくさい奴がひとり。その名を、タコさんウインナー」


 (歌詞を書くと、なろうの規約違反になるので、感じてください)


 『草』

 『草』

 『草』


 ステージのライトが落とされる。参加者からアンコールの声があがる。

 『アンコール!』

 『アンコール!』

 『アンコール!』


 ステージは再び明るくなり、ラリィ=ル・レロがピンク髪”私”のコスプレで登場する。他のメンバーは妖精のコスプレで『リアルワールド』の替え歌、『VTuberは繁栄しました』。

 ♪ッ♪ッ ♪ッ♪ッ ♪ッ♪ッ♪ッ

 (歌詞を書くと、なろうの規約違反になるので、感じてください)


 『繁栄したな』

 『繁栄したな』

 『まちがいなく繁栄したな』

 『インド人が見える』



 ステージは、VTuberが繁栄して幕を下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る