#21 一周忌

高崎紫●ライブ


「転生組一期生 一周忌法要~」

「わー」

「ドンドン」

「パフパフ」

「つーか、俺ら一期生だったの?」

「6月になりました。ここに集まる四名は、だいたい6月が命日なので、一周忌法要します」

 『一周忌』

 『一周忌って草』

 『法要にまいった』

 『つ線香』

「自分の一周忌を自分でやるって、貴重な体験ね」

 『貴重か?』

 『貴重なのか』

 『貴重かなー』


「まずは私。夏コミの原稿にのめりすぎ、休まず働き続けて過労死。高崎紫」

 『重い』

 『重い』

 『重い』


「死因は自殺。タコさんウインナー」

 『重い』

 『重い』

 『重い』


「あたしは病気で~す。さくまどろっぷで~す」

 『病気ですか』

 『ご愁傷様です』

 『ご臨終です』


「あたしは、某国で受けた性転換手術手術の失敗でした。可愛美麗です」

 『お気の毒に』

 『運が悪かった』

 『生まれ変わった人生を楽しんでください』


「以上、四人で、一周忌法要を執り行わせていただきます」



「さて、なにをやるんですか?」

「身体測定です」

「いまさら」

「皆さんの身体は、生前のモノと全く変わっています。改めて、いまの身体を測定してみましょう」

「OK」

「タコさん、測定できるの?」

 タコさんウインナーは、足のひとつを触手に変える。

「タコだってモノつかめるんだよな」

「体の構造ちがうよね」

「人と比較できなくね?」

「こまけえことはいいんだよ」

「それじゃ、さっそくタコさんウインナーからやっていただきましょう。みなさん、生前の記録を申告してくださいね」




【測定科目:握力】


 『タコの握力とは?』

 『タコに握力なんてあるのか?』

 『吸盤力?』

「ここに、タコさんウインナーに作ってもらった握力計があります」

 握力計をタコさんウインナーに渡す。

「右手と左手、どっち?」

「あなた八本あるでしょ」

「どの手でも良い?」

「好きにして」

「ちなみに、人の時はいくつでしたか?」

「45kgぐらいかな」

 タコさんウインナーは、触手で握力計を握りしめる。

「出ました」

「いくつでしたか?」

「カンストしました」

「バカー」

「カンストっていくつ?」

「100kg」

「すごいですね」

「握力計に仕込んだでしょ」

「そんなことするわけねーだろ」

 『不正は無かった』

 『不正は無かった』

 『不正はなかったのだ』



「次、だれですか?」

「さくまどろっぷ行きます」

 『ババア無理すんな』

 『腕が壊れる』

「生前の記録は、40kgぐらいだったかな~。最後に計ったの、高校生の時だし」

 『高校生?』

 『8歳ですよね』

 『8歳ぇ』

 握力系を握る。

「ふん!」

 腕をフルフルと振るわせ、顔を真っ赤にする。

 そして、力を抜く。

「ふ~」

「さあ、数字が出ました」

「いくつ?」

「12kgです」

「え~、そんなもん? 子供の頃は『木登りともちゃん』の異名をとったのよ」

「残念ですが、今の握力は12kgです」

「今の体格じゃあ、しょうがないか」

「今は『積木のともちゃん』だしな」

「さくまどろっぷさん、それロンです!」



「次、可愛美鈴行きます」

「生前は、体が男だったので45kgぐらいでした」

 握力系を握り、力をふり絞る。

「どうですか?」

「28kgです」

「あれ? そんなもん?」

「体が女性になったからね」

「女性の平均ってどのくらい?」

 『20代なら28キロ』

 『標準』

 『28キロは平均です』

「そっか。平均なんですね」



「次、高崎紫行きます。記録は、中学の時に計った、30kgだったと思う」

 『大トリ』

 『まってました』

 『待ってた』

 握力系を握り、力をふり絞る。

「クッ!!!!」

 『長く握っても変わらない』

 『ながさ関係ない』

 『瞬発力だ』

「ッあ! ハアハアハアハア。どうですか?」

「20kg」

「ウソ!」

 『弱』

 『よわ』

 『弱くて草』

「マジか~。腐った漫画家。ペンを握る力には自信があったのに」

「17歳の平均は27kgぐらいです」

「平均に届かなかったか」

「ペンタブになって、力が落ちたんじゃない?」

「かつてGペンを握っていた力は失われた…」

「良かったですね。デジタル作画になって」

「寂しいな」




【測定科目:長座体前屈】


「なにこれ?」

「おぼえてない」

「なんだっけ?」

 『身体伸ばすやつやで』

 『身体の硬さがわかる』

 『足伸ばした状態で前に倒れるんやで』

「誰から行きますか?」

「また俺からいくかな」

「落ちはタコさんでしょ」

「それじゃあ前振りで、可愛美鈴行きます」



 足を伸ばして座り、背を壁に付け、測定器を足と平行に動くようセットする。

「なつかし~。小学生以来」

「前回の記録はいくつだった?」

「おぼえてないです」

「それじゃあ、お願いします!」

「ふん!」

 『意外と行く』

 『がんばれ』

 『がんばれ』

 『もうひと伸び』

「ッはあ! いくつですか?」

「44cm」

「そんなもん?」

「24歳女性の平均は44cmだそうです」

「平均かあ。まあ良いか」



「次、さくまどろっぷ行きます」

 『現役小学生』

 『ロリババアきた』

 『ババアきた』

 『ロリのからだ見せてみろ』

「生前の記録は?」

「おぼえてません」

 セッティングを終えると、あっという間に、身体が足にぴったりと付くまで曲げる。

 『さすが現役』

 『ロリ本領発揮』

 『ロリだ』

 『さすが現役小学生』

「記録46cm」

 『すげー』

 『平均超え』

 『身体やわらか』

 『美麗負けてて草』

「8歳女子の平均は34cmだそうです」

「あたし、すごいでしょう」

 『麻雀パイ積むのがうまいだけの8歳じゃなかったんですね』



「次、高崎紫行きます」

「生前の記録は?」

「おぼえてません」

 セッティングして、身体を倒す。

「ふん!」

 『胸が』

 『胸が潰れて』

 『おっぱい』

 『おっぱいが』

 『おっぱい』

 『おっぱい』

 『おっぱい』

 『センシティブ』

「ッはあ。いくつ?」

「記録49cmです」

「それって良いの?」

「17歳女子の平均です」

「私、デブで低身長だったから、20センチもできなかったんじゃないかな。正直、嬉しい」



「ラスト、タコさんウインナー行きます」

 足を伸ばして座ると、折れたモップのようだ。

「生前の記録は?」

「しらん」

 『それで計れるのか』

 『どこが腰』

 『足短い』

「行きます」

 身体がくの字に曲がって終了。

 『草』

 『草』

 『草』

 『伸びてないし』

「記録0cm」

「まあ、今日はこのくらいで勘弁しいておいてやろう」




【測定科目:反復横跳び】


「あー。これ私の嫌いな奴だ」

「紫さん、行ってみますか?」

「デブだったから、学年で最低記録だったんだよね」

 紫は、三本の線に足をそろえる。

「よーい。スタート!」

 高崎紫は、快適にステップを踏んで、三本の線をまたいでゆく。

 『お』

 『良い感じ』

 『軽快じゃん』

 『うまくて草』

「はッ! はッ! はッ! はッ!」

 『ゆれ』

 『ゆれ』

 『ゆれ』

 『ゆれ』

『ハアハア』

 『揺れてます』

「はい! 終了~」

「はあ、はあ、はあ、はあ、どうだった?」

「48回です」

「48回! すごい! これってすごくない?」

 『17歳の平均です』

 『平均』

 『普通』

 『平均だね』

「平均なの? そっか~。まあ、やっと、まともになれたということで、満足です」



「次、可愛美鈴行きます。体が男だったときは、60回ぐらいできてたと思う」

「よーい、スタート!」

 『ゆれ』

 『ゆれ』

 『揺れてます』

 『ゆれ』

「はい! 終了~」

「どうですか?」

「46回」

「46回? 昔もっとできたと思ったけど」

 『24歳女性の平均です』

 『平均』

 『普通』

 『平均だね』

「女性の平均か。身も心も女性になったんだけど、体力が落ちたのは、なんか複雑な心境です」



「さくまどろっぷ、行きま~す。生前の記録なんておぼえてませ~ん」

「よーい、スタート!」

 『はやい』

 『速い』

 『はやい』

 『はやい』

「体が軽い。こんなの初めて」

 『草』

 『草』

 『草』

 『マミさん』

「はい! 終了~」

「ふう」

「46回です」

「46? どうなの? 速いの?」

 『速い』

 『はやい』

 『8歳の平均は46回』

 『はやいです』

「やった」



「最後、タコさんウインナー」

「生前の記録はおぼえてねーが、平均だったような気がするな」

「よーい、スタート!」

 『はや』

 『はや』

 『はやい』

 『はやすぎて草』

「これがタコの動きだ」

 『草』

 『草』

 『アニメみたい』

「はい! 終了~」

「人離れした記録が出ただろう」

「100回以上だと思います」

「思います?」

「最後まで数えきれませんでした」

「勝った」

「タコなので、ヒトの記録は参考になりません」




【測定科目:50m走】


「走ること自体、久しぶりだなー」

「大人になってから、走ることって、あまりないよね」

「会社に遅刻しそうな時とか?」

「パン加えて、遅刻、遅刻~」

「誰から行きますか?」

「年齢順で」

「それじゃあ、さくまどろっぷさん、お願いします」

「あたし、記録はおぼえてないけど、足は速かったのよ」



 校庭に線が引いてある。

 さくまどろっぷが、スタート位置につく。

「よーい。ドン!」

 『お速い』

 『速い』

 『ババア無理すんな』

 『速い』

「ゴール」

「はあ、はあ、はあ、はあ。何秒?」

「記録は11秒です」

「そんなもん?」

「8歳女子の平均ですよ」

「おかしいなあ、昔はもっと速く走れたと思ったんだけど」



「次は、高崎紫行きます。生前の記録はひどかったので言いたくありません」

 高崎紫が、スタート位置につく。

「よーい。ドン!」

 『ゆれ』

 『ゆれ』

 『ゆれ』

 『豪快にゆれてます』

「ゴール」

「はあ、はあ、いくつだった?」

「記録は8.8秒です」

「それって良いの?」

「17歳女子の平均ですね」

「運動の苦手なデブ女子が平均記録を出せたのか。感慨深い」



「可愛美鈴いきま~す。体が男だった頃は、速かったですよ」

 可愛美鈴が、スタート位置につく。

「よーい。ドン!」

 『ゆれ』

 『ゆれ』

 『ゆれ』

 『ゆれ』

「ゴール」

「はあ、はあ、いくつでした?」

「記録は9.45秒です」

「もしかして平均?」

「24歳女性の平均ですね」

「やっぱり、体が男の時とは落ちますよね。残念」



「ラスト。タコさんウインナー」

「生前の記録などおぼえとらん」

 タコさんウインナーが、スタート位置につく。

「よーい。ドン!」

 タコさんウインナーは、八本の足をムカデのように這わせ、あっという間にゴールする。

 『はや!』

 『はえー」

 『速すぎ」

 『足の動きが素晴らしい』

「記録は、3秒です」

「ま、俺が本気を出せばこんなものさ」




【総括】


「以上、一周忌法要、いかがでしたか?」

 『タコ無双』

 『タコ無双』

 『タコの一人勝ち』

 『ミニにタコ』

「タコさんどうでした?」

「生前より体力はあがった」

「でしょうね」

「体はかたいよね。タコなのに」

「足が短いんだよ。ウインナーだからな」

「こんど、焼いてみたいよね」

「綺麗に足が開くかしら」

「ロリババアは、体力落ちたんじゃね?」

「そりゃねえ。8歳だし」

「木登りともちゃんって呼ばれてたんだろ」

「今はダメ。高いところ怖いし」

「美麗も体力落ちたろ」

「落ちましたね~」

「体は男だったからな」

「そうなんですよ。感覚と体が一致しなかったです」

「紫は逆に体力が上がったな」

「生前は、陰キャでデブの運動音痴だったから、リアル17歳って、めちゃくちゃ体が軽くて、初めて体験した。もうなにも怖くない」

「それ死亡フラグだから」




「さて、転生組一期生・一周忌法要、いかがだったでしょうか?」

 『紫と美玲の反復横飛びもう一回』

 『50m走もう一度』

 『タコの足さばき』

 『さくまどろっぷは、体だけは8歳だと再認識した」



「7月は、ピュア・ピンクのチャンネルで、水色あさがおと、転生組二期生・一周忌法要を行います」

「はやいな。もう一周忌か」

「内容は、見てのお楽しみ。今日はここまで。主催は高崎紫」

「タコさんウインナー」

「さくまどろっぷ」

「可愛美鈴がお送りしました」

「それじゃみんな、またね~」ノシ

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