#20 お願い

 涼風翔也から、ラリィ=ル・レロの元に、ラブレターが届く。

「こんど、この世界でセックスが可能かどうか、試してみないか?」


 キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!


 まさか、むこうから誘ってくるなんて、あの人の感じからしてあり得ないと思ったけど。そうなんだ。あたしの魅力に耐えられなかったのね。あたしって罪な女。




 ヴォン!


 呼ばれた部屋は、転生したときの場所。全面真っ白な背景に、座標を示す線があるだけ。

「あれ?」

 ベッドもない。シャワーもない。第一、セックスする雰囲気じゃない。


 ヴォン!


 涼風翔也が来る。

「ちょっと! ベッドはおろか、雰囲気のかけらもないんだけど」

「それは失礼」


 ヴォン!


 テーブルとイスが現れる。

「どうぞ」

「え? どういうこと?」

「セックスの前に、君のことをもっと知りたいんだ。話をしないか」

「そういうのは、ベッドの上でするものよ」

「まあ、いいから」

 ふてくされながら、可愛美麗はイスに座る。




「君が死んだときのことなんだけど」

「ちょっと、これから肌を重ねる相手に、デリカシーないね」

「死んだ場所は、どこかな?」

「う~ん。よく覚えてないんだよね~」

「胸が痛かった?」

「そうだった気もする」

「ぼーっとしてた」

「かな~」

「よく覚えてないんだね」

「そうだね~」

「他のメンバーは、自分の死んだ瞬間を覚えている。君はそれが希薄だ。思い出したくないのか、言いたくないのか」

「どういう意味?」

「生前。君はかなり荒れた生活をしていたようだね」

「ちょっと待って。突然、なんの話?」

「まあ、聞いてよ。中学一年までは成績も良かったらしいが…」

「そこから?」

「二年の夏から良くない」

「え? もう話はじまってるの?」

「学校にはほとんど行かず、不良グループとつるんで、バイク乗り回したり、万引きしたり、酒にタバコ、悪いことは一通りやってきたようだ」

「かもね」

「ただ、顔は良かったから、今話題のアイドルグループのオーディションを受けた。結果は、合格。君は晴れてアイドルデビュー。しかし、生来の根性無し。レッスンはさぼりがちで、まじめにやったことなどほとんどなく、建前上、卒業としてグループを抜けたが実質的な解雇だった。その後、バラエティ番組にちょこちょこ顔を出すことはあっても、特に人気が出るわけでもなく、家にはほとんど帰らず、彼氏や彼女の家を泊まり歩き、かなり派手に遊んでいたようだね」

「…」

「お酒と大麻と薬のちゃんぽんでセックスはこの世のモノとは思えない快感を得られるらしいじゃないか。彼氏がぐったりしたあなたを見て、救急車を呼んだ時点で、君は既に死んでいた。マスコミでは、元●●●48『薬丸 溺子』なぞの変死としてセンセーショナルに報じたけど、ホントの事については触れられていない」

「よく調べましたね」

「興信所には高い金を払ったよ」

「それで、どうするんですか?」

「協力して欲しい」

「なにに?」

「君たちの存在を証明する」

「そんなことできるわけないじゃない。死んだ人間がVTuberに転生したなんて」

「そう。俺も最初、信じていなかった。ただ単に、転生モノの流行りにのった、便乗商法だと。だから、その化けの皮をはがそうと、あれこれ調べてみたし、やってみた。そしたら、君たちは本当に転生したんじゃないか? という結果しか出てこない。もう一度訊くけど、君たちは本当に、サーバーの中にいるんだね? どこか別の場所にいて、転生者を騙っているわけではないんだね?」

「他の人はどうか知らないけど、少なくともあたしは、このデジタルの世界にいるわ」

「間違いなく?」

「間違いなく」

「絶対に?」

「絶対かどうかわからないけど、他に例えようもないし、現実世界へ行きたくても、いけないわ」

「了解」

「あたしはなにをすればいいの?」

「そちらの世界の事を報告して欲しい。特に、タコさんウインナーの動向には注意を払って欲しい」

「どうやって?」

「今のように」

「協力しないと言ったら?」

「文●砲が火を噴くことになる」

「わかったわ」




 転生したのを確信したというのは、彼女を納得させ、情報を引き出すための方便だ。死んだらVTuberに転生する? そんな非科学的なことがあってたまるか。ラノベでもあるまいし。

 絶対どこかにいるはずだ。転生者を気取って中の人を演じている不心得者が。死者の名を騙る不届き者が。

 昨今のラノベしかり。人の命を軽んじすぎる。簡単に人を殺して異世界に転生させる。残された遺族の悲しみをおもんばかったことがあるのか?

 いや、ない。

 設定や物語の構成が作りやすいからだ。安直だ。自分の発想力の無さを転生モノとして安易に流用している。

 その化けの皮をはがして、さらしてやる。こいつらは、人命を軽んじている悪者だと。




 こけしはえは、緊張している。

 これから、大手広告代理店『天痛』と、転生組のメディアミックスについて打ち合わせをする。


 ある日、突然、メールが来た。


 『転生組のメディアミックスについて』のタイトルで始まるメールは、ボイス、アクリルキーホルダー、クリアファイルなどのキャラクターグッズの販売と、企業案件やテレビ、ラジオ、イベントへ等への出演。他のライバーとコラボなど、提案されていた。

 一度、お会いし、詳しい話をしたいと、打ち合わせの場を提案され、それに応じた。


 こけしはえは、指定された待ち合わせ場所のカフェに、30分も早く着いた。

 一番、まともな服、靴、バッグ、メイク。髪はさっき美容院でキメた。

 下着はOK!


 ドキドキと胸を鳴らしながら、待ち合わせ場所で立っている。

「こけしはえさんですか?」

 声を掛けてきたのは、ナイスミドルだ。

「はい」

「はじめまして。私、『天痛』の五月雨さみだれたかしです。どうぞよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「さっそくですが、転生組で、メディアミックスしませんか?」

「はあ」

「ボイスやグッズの販売。企業案件や、テレビ、ラジオ、雑誌とのタイアップ」

「それなら一部ですが、サークルでやってます」

「修生液ですね」

「よくご存じですね」

「企画書をご用意しました」

 五月雨は、バッグから数束の書類を出す。

「こちらは、音楽の著作権。歌ってみたの曲を一元管理させていただきます。こちらは、企業案件。こちらは、にじさんじ、ホロライブなどとコラボレーション企画です」

「はあ」

「いかがですか?」

「いやあ、どれも魅力的な企画だとは思うんですが、あたしはあくまでも、転生組と現実の橋渡し役に過ぎないので、ボスの判断を仰がないと」

「それでは、持ち帰っていただいて、ご検討願えますか?」

「かしこまりました」


 結局、真面目な話をして、コーヒーを一杯、ごちそうになって、天痛の人と別れた。


 勝負パンツ、出番無し。




「という訳です」

 話し相手は、黒丸墨括弧。

「その人、本物?」

「名刺、もらった」

「電話してみた?」

「してみた。本物でまちがいないみたい」

「そうか。なら、よし」

「企画書はスキャンしてメールしたから、後で確認しておいて」

「さすがに、私の一存じゃ決められないから、転生組のメンバーと相談してみるよ」

「よろしく」




 転生組のメンバーに、企画書を転送して、後日、みんなで集まった。

「というわけなんですが、いかがですか?」

「良いんじゃない?」

「悪くない」

「やりたい!」

「やってみたいです」

「やりたいー! 特に歌ってみた」

「クリアファイルやアクリルキーホルダーは、同人誌時代の経験があったから、作るのは簡単だったけど、著作権が絡むモノにはさすがに手が出せなかったからね」

「ライブもできる」

「ライブか。気が早いな」

「ボカロ歌いたい」

「ピンクちゃんの歌、聴きたいね」

「他のライバーとコラボーレーションはしたいです」

「イベントな」

「演劇なんてどうですか?」

「演劇かー。いままで演技なんてしたことないよ」

「練習しましょう」

「企画、制作、広告会社が入ると、やれることが一気に広がるな」

「それじゃあみんな、やる方向でOK?」

「OK」

「やりたい」

「やりたいですー」

「やらいでか」

「みんな、やりたいことリストアップしておいて」

「了解」

「おk」




 高崎紫は、話し合った内容を、こけしはえに伝えた。

「これを全部、あたしひとりでやれと?」

「だから、サークルのメンバーに手伝ってもらえばいいじゃん」

「今までも結構、手伝ってもらってるんだけど」

「わかった。私から直接、みんなに話してみるよ」



 某月某日。サークル修正液のメンバーが、PCの画面上で集まった。

【●】「おー! みんな久しぶり」

ネギ「あ、死人が出てきた」

長ナス「ホントに転生したのか」

枯れススキ「どうせ転生するならナイスミドルになって欲しかった」

ムチコ「ショタでも良いよ」

にゅゐ「つーか姿変わりすぎ」

【●】「平素は私たち転生組の事務作業をお願いし、ありがとうございます」

長ナス「黒丸墨括弧がしおらしい」

ネギ「雪降りそう」

にゅゐ「ボサボサの髪に真っ白な肌。だるまのような体型。それが黒丸墨括弧だったのに」

ムチコ「良い女になりやがって」

枯れススキ「裏切り者」

長ナス「おしおきが必要だ」

こけしはえ「黒丸墨括弧、話進めてください」


【●】「天痛から、メディアミックスの企画をいただきました。つきましては、みなさんに、役割を分担して、とりまとめをお願いしたい。具体的には、ボイス、アクリルキーホルダー、クリアファイルなどのキャラクターグッズの販売。企業案件やテレビ、ラジオ、イベント等への出演。他のライバーとコラボなどなど」

にゅゐ「グッズなら一部、販売してるじゃん」

ムチコ「ファンからのプレゼントなら、あたしが全部、管理してるよ」

【●】「こけしはえには、いままでどおり、イベント関係を一任したい」

こけしはえ「さすがに全部は無理。イベントはまとめますが、著作権関係は他の方に任せたい」

枯れススキ「じゃあ、あたしやりま~す」

こけしはえ「たすかる」

【●】「決まった?」

こけしはえ「なんとなく」

枯れススキ「やりながら進めて、キャパオーバーだったら相互扶助でOK」

【●】「よろしくお願いします」

ムチコ「プレゼントが貯まる一方なんだけど、どうしたらいい?」

【●】「売って現金化」

ムチコ「メ●カリにしろヤ●オクにしろ、出したらファンが悲しむだろう」

【●】「日常使いしてもろて」

ムチコ「限界があります」

【●】「サークルのメンバーで分ければOK」

ムチコ「それでも余る」

【●】「そんときはしゃーない。廃棄で」

ムチコ「しょうがないね」

こけしはえ「収入は全部、専用の口座に預けてる」

【●】「それはみんなで使ってもろーて」

こけしはえ「使えるか!」

【●】「なんで?」

こけしはえ「倫理的に」

【●】「香典代わりに、メンバーの遺族に渡してもらおうかな」

こけしはえ「どうやって?」

【●】「みんなで話しあってみるよ」

こけしはえ「よろしく」




 著作権関係の問題がクリアになったことで、今まで以上に、ゲーム配信や歌枠がやりやすくなった。

 さっそく、歌うの大好きメンバーが歌配信をする。

 さくまどろっぷは、山口百恵、キャンディーズ、ピンクレディーと、世代色が濃い。

 ピュア・ピンクは、ボカロ中心。

 水色あさがおは、●●●48、●●坂46、エビ中、ももいろクローバーなど、やはり世代色が濃い。

 タコさんウインナーが、松田聖子、Wink、中森明菜と、やはり世代色が(r




 転生組を結成したのが6月。そろそろ企画を考えるかな。

 一周忌でもあるし。

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