#16 淫夢のお仕事

Laly-Lu Lelo●ライブ

 『らりるれろ』

 『らりるれろー』

 『らりるれろー』

「こんばんらりるれろー。ラリィで~す」

 『らりるれろー』

 『らりるれろー』

 『らりるれろー』

「今夜は、淫夢ラリィの、ASMR配信でーす」

 右の耳元で、

「こんばんは」

 左の耳元で、

「こんばんは」

 『くすぐったい』

 『こそばゆい』

 『はあはあ』

 『ハアハア』

「あたしは淫夢。これから、転生組メンバーの夢に、潜り込みます」




 小声で言う。

「おはようございま~す」

 ラリィの後ろには、水色あさがおがベッドで寝ている。

「これから、あさがおちゃんの寝起きを襲ってみたいと思います」

 『襲う』

 『襲うって』

 『言い方』

 『草』

 『田●ま●し』

 ラリィは、あさがおの足元にかかった布団を、そっと開ける。あさがおの、小さな足が顔を出す。

「見てください。可愛いらしい足ですねー。ちょっと、触ってみましょう」

 顔を足に近づけて、手を足にかける。耳を寄せて、手をサワサワ動かすと、さわさわと、耳元をくすぐる音がする。足がピクッとする。

「可愛い足ですね」

 ラリィの口元が足に忍び寄って、舌がペロッとなめる。

「ふん」

 あさがおは、小さな声をあげる。

「起きないですね」

 ラリィは、あさがおの顔をのぞきこむ。スースーという寝息が、耳をくすぐる。

「う~ん、可愛い」

 あさがおは横向きに寝ている。

「早速、夢の中に入ってみましょう」

 ラリィは、あさがおに向かうよう横になり、布団に忍び込む。

「温かいです」

 顔に顔を近づける。

「寝息が聞こえますでしょうか?」

 スースーという寝息が、かすかに耳元をくすぐる。

 ほっぺたをツンツン。耳元にふ~。そして、胸元に顔を埋める。

「良い匂いがします」

 胸元に埋めた顔を、左右にフリフリ。スリスリというこもった音が、耳元をさらにくすぐる。

「聞こえましたか? あさがおちゃんのおっぱいの音です」


「もうちょっと、下の方を探索してみましょう」

 寝ている両足の間に、足を絡める。

「ちょ」

「ん? なにか言いましたね」

「ちょっと待って…」

 右手でそけい部をまさぐる。

「ちょっと…」

「ハアハア」

「ちょっと待った!」

 布団を跳ね除けて、あさがおはベッドから飛び出す。


「ちょっと、今、淫夢の中なんだから」

「今、手入れてきたでしょ」

「え? なんのこと?」

「足絡めるし。手入れてくるし」

「どこに?」

「あ、、、あそこ」

「あそこってどこ?」

「あーーもーー!」

「寝起きドッキリ。大・成・功!」


 テッテレー!


「どうですか? 今の気分は?」

「ほろびれろ」

「え?」

「もー、すけべ!」

「みんな。良い音、聞けたかな?」




 ヴォン!




 可愛美麗の部屋。

「はい。今度は、美麗ちゃんの部屋にやってきました」

「こんにちは」

「今日は、女子らしいことを、したことがないという美麗ちゃんのために、淫夢が美麗ちゃんの夢の中に入って、その願いを叶えたいと思います」

「よろしくお願いします」

「今、美麗ちゃんはなにがしたいですか?」

「ショッピングですかね」

「今日は一緒に、レディースを買いに行こう!」

「オー!」


「その前に、今、持っている服を見せてください」

「はい」

 美麗は、自室のウォークイン・クローゼットへ、ラリィを案内する。

「これが、手持ちの服です」

「これって全部、転生したときに、バグに言って作ったやつだよね」

「そうですね」

「ぶっぶー」

「え?」

「女子らしいけど、女子じゃない!」

「え? なんでですか?」

「カラーバリエーションはありますが、ワンピースかロングスカートしかない」

「はい」

「元男子の想像力では、これが限界」

「悔しいけど、そのとおりです」

「本当のレディース店へ行こう! バグ! やって!」


 ヴォン!


 美麗の部屋は消え、真っ白な空間へ。マト●ックスのように、服が流れて来る。

 流れる服の擦れ合う音が、前から、左右の耳元を通って、後ろ奥へ流れてゆく。

「あなたは元男子だから、真の意味で、女子の服を知らない。それを今から教えてあげる」

「よろしくお願いします」

「着せたい衣服はいっぱいあるんだけど、まず、ミニスカート」

「それはなかなか、ハードルが高かったです」

「抵抗あった?」

「着てみたかったけど、男のままだったら犯罪じゃないですか」

「そうです! でも、今は心身ともに女なんだから、着ちゃいましょう」

「はい」


 ヴォン!


 試着室が現れる。

 ラリィがカーテンを開け、服を持って中に入る。

「あれ? ラリィさんが着るんですか?」

「着せてあげる」

「スカートぐらいなら、自分で着れます」

「そうじゃない! あなたの着方は、バグから教えられたもの。あたしが、リアル女子の服の着方を、手取り足取り教えてあげる」

「はい」

 美麗が中に入り、更衣室のカーテンが閉まる。

 中からは、着替える音だけが、ガサゴソ、耳元に響いてくるだけ。


「ちょっと、脱ぐぐらい自分でできます」

「下着も脱いで」

「え?」

「下着のラインが透けて見えるでしょう」

「ブラだけじゃなくて、パンティもですか?」

「もちろん」

 釈然としないまま、ラリィの言うとおり、下着を脱ぐ。

「まず、これ」

「はい」

「次、これ」

「あれ? これって…」

「ミニスカートは、ロングスカートより、ちょっと下で留めると、へそから下が大きく開いて、セクシー」

「ちょっと恥ずかしいですよ、これ」

「いいの。女のおしゃれは我慢から始まるんだから」

「はい」

「ニーソを履きましょう」

「ニーソ、履いたことないです」

「そうですか、そうでしょう。あたしが着せてあげるね」

 手にニーソを丸めて、美麗のつま先からふくらはぎを滑らす。

「ちょっと手つきがスケベ」

 ブラウスを着て、リボンを付け、ちょっと大きめジャケットを着崩す。

 更衣室のカーテンが開く


「かわいいいいいいいいいい」

「ほとんど制服ですよね」

「だねえ。女子の制服は着たことあるんだっけ?」

「高校時代は、女性の制服着てました」

「そうなんだ。ミニスカート?」

「ロングでした」

「じゃあ、ミニスカートは初めてだね」

「そうですね」

「次いってみよ」


 再び、更衣室のカーテンが閉まる。

 中からは、着替える音だけが、ガサゴソ、耳元に響いてくるだけ。

「ちょっと、手入れないでください」

「乳と尻は、服の内側から持ち上げて整えるんだよ」

「うわー、やめてー」

「ふはははは」

 更衣室のカーテンが開く


 超ミニのホットパンツに、腰から胸のラインまで露わな、ちょっと小さめのキャミソール。ヘソ出し、生足、マー●イドだ。

「あ、仕上げを忘れた」

「なんですか?」

 ラリィは、美麗の右太ももに、白いひもを結ぶ。

「なんですか?」

「アクセント」

「意味がわからないです」

「極楽浄土・けもフレ・オイナリサマMMDバージョンとでも呼んでくれ」

「なんですかそれ」

「ランウェイを歩いてみよう」

「はい」

 美麗は、服に囲まれたランウェイを、歩く。

「歩き方はさまになってるかな」

「それは研究しましたから」

 試着室からまっすぐ歩いて、ターン。胸と尻と太もものひもが揺れる。

「これ、ちょっとかがんだら、胸元、見えますよね」

「大丈夫。身体にフィットしてるから、点Pまでは見えない」

「胸元は見えますよね」

「丸見えだね」

「恥ずかしいじゃないですか」

「大丈夫。命に別状はない」

「恥ずかしいですよ」

「世の男子は、女子が思っているほど、女のことを見てない。むしろ、女の方がよく見てる。女子のおしゃれは、女子に見せるためのものだ」

「そうなんですか?」

「男子の猥談のネタになるならむしろ誇れ。女子の嫌み、妬み、嫉みになるより、100倍マシ」

「そんなもんなのかなあ」

「女子は男子よりずっと、女子に厳しい。さあ、次!」


「だから! 脱ぐぐらい自分でできます」

「これは着られるかな~?」

「え? どうやって着るの」

「こうして、こうして」

「だから、胸触らないでください」

「触らないと着せられないでしょう」


 身体にぴったりフィットしたチューブトップに、デニム地のスキニーパンツ。ハイヒールで足のラインが美しい。

「どうですか」

「歩きにくい」

「ハイヒールは初めて?」

「初めてです」

「ちょっと歩いてみようか。バグ! お願い」


 ヴォン!


 場面は、渋谷のスペイン坂に切り替わる。

「すごい! リアルに造られてますね」

「タコさんに感謝だな」

「でも、デジタルな世界なので、人、いませんね」

「恥ずかしくないでしょう」

「はい」

「この坂を歩いてみよう」

「ひゃー。ハイヒール、バランスとるの大変」

「その靴を、無意識に履きこなせたとき、あなたは真の女性になるでしょう」

「がんばります」

「それじゃ、あたしは次の人の、夢へ行くから、頑張ってね」

「ありがとうございました」




 ヴォン!




「今度は、さくまどろっぷさんと、ピュア・ピンクちゃんに夢を届けちゃうぞ。おや? もう夢は始まっているようです。覗いてみましょう」



 麻雀をしている、さくまどろっぷ。

 そのまわりを、蝶になったピュア・ピンクが舞いながら語りかける。

「麻雀ばかりしてないで、外へ遊びに行こう」

 耳元を、ピュア・ピンクの声が舞う。

「九蓮宝燈あがれそうだから待って。あたしはこれで、近代麻雀に載るのよ」

 九萬ツモって、テンパイ。

「キター」

 白を切って。バクバクする心臓を落ち着かせる。

 次の瞬間、下家の天開司が言う。

「ツモ」

 え?

 その瞬間、さくまどろっぷの頭の中が、真っ白になる。

「ツモのみ」

「マジ~」

「最悪」

「でも、これで半荘、終わりだね~」

 茫然自失のまま、ゲームが終わった。

「終わった?」

「終わった」

「それじゃ、一緒に遊ぼう」

「うん、じゃあ、遊ぼうか」

「やった」

「おのれ天開司。これで勝ったと思うなよ」


 窓から外へ飛び出す。

「あたしを捕まえてみて」

 色とりどりの花畑へ逃げるピュア・ピンク。捕虫網を持って追いかける、さくまどろっぷ。土を蹴る足の音と、草花をかき分ける音が、耳元をくすぐる。

「えい!」

 と、捕虫網を振るが、なかなかピュア・ピンクを捕まえられない。


 そのとき、耳元をくすぐる、プーンというモスキート音。

 蚊になった、タコさんウインナーが飛んでいる。

「血ぃすーたろか」

 さくまどろっぷの周りを飛び回る。手で追い払うが、巧みによける。

 狙いをさだめ、肩に止まった瞬間、ペチと叩きつぶされる。



 突然、目の前の花畑が盛り上がり、花のモンスターが現れる。紫色の髪を花弁に変化させた、高崎紫だ。

「おまえら全員、食らいつくしてやる」

「たいへん! ピュア・ピンク変身よ」

「OK」


 ピュア・ピンクとさくまどろっぷを、色鮮やかな花びらが風に舞い、包み、輝く。甘い香りと、花弁の舞う音が、耳にまとい渦を巻く。


 ふたりは、魔法少女に変身する。


「ピンク! いくわよ!」

「OK!」

「「百花繚乱ひゃっかりょうらん!!」」

 ふたり手から放たれる、花弁のつぶてが、紫を包む。

「ふっふっふっ、ぬるいわ!!」

 髪を振り乱すと、花弁が弾かれる。

「効かない」

「落ち着いて。モンスターの弱点を見極めるの」

「弱点?」

「それは、これよ!」

 さくまどろっぷが手にしているのは、鈴なりに成った黄色い杉の雄花。

「それ!」

 雄花を投げつけられた紫は、くしゃみが止まらなくなる。

「次はこっちよ!」

 銀杏の雄花を投げつける。

 ふたつの雄花を投げられた紫は、ぐふ、ぐふふふ、ぐふぐふぐふぐふと蠢き、

「雄花と雄花が、ハアハア」

「さあ! とどめよ」

 ピンクが銀杏の雌花を投げつける。

 雌花は紫の頭に刺さり、雄花から放たれる花粉が雌花に受粉する。雌花は紫の養分を吸って花咲き、またたくまに巨大化して、銀杏がたくさん実る。

 紫は消滅した。


「た、倒したの?」

「うん。あたしたちの力でね」

 転がった銀杏は、強烈な匂いを発する。

「臭い」

「この固い殻ごと、火であぶって」

 さくまどろっぷが手から火を出す。

「あ、なんか良い匂いがしてきた」

「そろそろいいかな」

 殻を割ると、中から鮮やかな緑色の可食部が現れる。

 それをつまんで、ピンクに差し出す。

「だいじょうぶ?」

「だいじょうぶ。美味しいよ」

 ピンクは、恐る恐る噛む。

「んっ! やわらかくて美味しい」

「でしょ」



 ふたりの魔法少女の活躍で、花畑に平和が訪れた。

 花たちが、感謝の花吹雪を降らせ、世界に幸せが訪れる。




 そこに、ラリィがやってくる。

「魔法少女は楽しめましたか?」

「「はい」」

「今日の、あたしの仕事はここまで。ちなみに、タコさんウインナーと紫さんは、見たい夢は特にない。悪役で参加するということで、こうなりました」




「今日はこれでおしまい。今度はあなたの夢に、お邪魔しちゃうぞ」

「おやすみらりるれろー」

 チュッ!

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